ニエベス・ガルシアさんは6歳のときにメキシコからカリフォルニアに移住してきた。そして小学校の大半をELL(English Language Learner、英語学習者)として過ごした。彼女は学校生活で必要な英語力を身に付けてからもELLから解放されることはなかった。
現在、母親となった彼女は、娘が自分と同じようにELLのレッテルを貼られ、英語力テストを受けさせられることを恐れた。そして、ガルシアさんは娘が幼稚園に入園する際に『家庭では英語しか話さない』と嘘をついた。ガルシアさんの夫は英語が全く話せないのにである。
『家庭の使用言語調査表』にどれだけの親が嘘の申告をしているのか分からない、とカリフォルニア州教育省関係者は言う。『家庭の使用言語調査表』に嘘を書くことは、子どもの学力向上の足を引っぱるだけでなく、米国連邦法が定める教育を平等に受ける権利の侵害に当たる、と教師たちは言う」。
子どもにとってELLは劣等体験
前記はAP通信が配信した記事(Amy Taxin著)の抜粋です。移民の国アメリカでは、ほとんどの州において、子どもが公立学校に入学する際に「家庭の使用言語調査表」の提出が要求されます。この調査表に基づいて、学校は生徒をELLに配置するか否かを決定します。ELL配置は、メキシコ人移民だけではなく、アメリカで子育てをする日本人も真剣に考えなければならない問題です。
「ELLに入ればタダで英語を教えてもらえるからラッキー!」と考えるのは軽卒です。ガルシアさんのように自分自身の経験から、嘘をついてでも子どもをELLに入れたくないと望む親はたくさんいるのです。なぜならELLに配置されると、クラスメートから切り離され、英語の特別授業と追加の英語力テストが義務付けられるからです。
クラスメートから区別される(ELLのレッテルを貼られる)ことは、子どもにとって「劣等体験」です。これはアメリカの学校に馴染みがない父兄でも少し想像力を働かせれば分かります。クラスメートが社会や理科の授業を受けているときに、自分だけが普通クラスを離れて、ELLに行かなければならないのです。
現地校へ子どもを通わせるときに両親が最も配慮すべきが、英語力不足から生じる「劣等体験」や「自信喪失」をいかに軽減できるかです。もちろん英語力ゼロの子どもにはELLは大きな助けです。しかし、ある程度英語力が身に付いている子であれば、できるだけクラスメートと一緒に授業を受けられるように両親が対策・支援することが望ましいのです。
ELL生徒の指導方法
ELLの指導には「Pull Out」と「Push In」と呼ばれる方法があります。Pull Outは、生徒が普通クラスを離れて、他のELL生徒と一緒に英語の特別授業を受けるスタイルです。生徒は英語のレベルに応じて、週に1日〜5日、各45分程度の授業をELL専門の教師から受けます。
Push Inは、生徒が普通クラス内で、クラスメートと同じ授業を受けながら必要な英語サポートを受けるスタイルです。英語力が比較的高いELL生徒が対象で、担任の先生、アシスタント教師、ボランティア講師などからサポートを受けることができます。
生徒の英語レベルや性格にもよりますが、通常授業を受けながら支援が得られるPush Inは、教科学習のロスが少ない上、子どもの精神的なマイナスも軽減されるので、総合的な学力向上には有効だと考えられます。いずれにしても、ELLに配置される子どもは、クラスメートとは「異なる」扱いを受けることになりますから、自信やプライドが傷つきます。両親はこのことを十分に理解し、子どもが短期間で英語力を身に付けられるよう最大限の支援をしてください。
子どもがELLと認定されたら
子どもがELLに配置されたら、担任の先生、またはELLの先生と面談し、指導カリキュラムと家庭での支援方法について意見交換をしてください。子どもが効率的に英語力を獲得していくには、学校での適切な指導に加えて、家庭での予習・復習が必要です。決して英語学習を学校任せにせず、家庭でどのような支援をすべきなのか、先生と詳しく話し合いましょう。両親が協力的な姿勢を示すことで、学校も親身になってサポートしてくれるようになります。
家庭で英語力をサポートすることが難しい場合は、塾や家庭教師など専門家の助けを借りましょう。英語力を速やかに身に付けることが、子どもの自信回復につながり、アメリカの学校生活をより楽しく豊かなものにしてくれます。