子供はまだ3歳なのですが、こちらに永住する予定です。アメリカの教育制度について、全体的にどうなっているのか教えてください。また日本との違いなども教えてください。
A. 全国一律の日本の教育と違い、地域や学校区で内容が決まる
独立した学校区
アメリカの教育制度は、日本のそれと当然異なります。さらに、州、時には学校区(School District)によっても大きく変わります。カリフォルニア州の義務教育は、キンダー(日本の幼稚園年長)から18歳(日本の高校3年生)までです。
アメリカの教育システムが日本と際立って異なるところは、教育行政の独立ぶりです。日本の教育は、基本的には国が教育の方針や指導内容を決める中央集権的なシステムです。しかしアメリカでは、建国以来の地方自治重視の考え方に基づき、地域住民が直接選挙で選んだ教育委員が中心になって構成する学校区の理事会(School Board)が、その地区の教育行政を担当します。学校区は、数万人の子供を抱える巨大なものから、学校1つだけで形成しているものまで千差万別です。
学校教育に関する最終的な判断は、学校区が下します。その判断を覆すことができるのは裁判所の判決しかありません。教育の内容から、生徒の退学処分や図書館の本の決定まで、具体的な判断も行います。
理事や理事会が地元住民の意思に反した判断や決定をした場合は、次の選挙で落選という結果を招きます。アメリカの教育は、保護者・先生・学校区に加え、地元住民の意思も反映されるので、地域や学校区により大きな差が出ることになります。
先生・校長の仕事
学校区の理事会は、教育行政の実務を担当する教育長(Superintendent)を雇用します。教育長の下に、各学校の校長、教員がいて、日々の学校運営を担当します。
日本の先生は授業で教える以外に、生徒指導・進路指導などさまざまな校務を分担していますが、アメリカの先生は教えるだけです。1日の授業が終わって先生が帰った後、保護者の都合で子供のピックアップが遅れてトラブルが起きても、それは親の責任となります。
小学校で授業以外の指導を担当するのは校長です。子供が授業中に騒いで授業を妨害したり、他の子供に迷惑をかけたりした場合、担任の先生はその子供を校長のところへ送ります。そして校長が話を聞き、注意をします。悪さの程度によっては、保護者を呼び出し、停学などの処分を言い渡します。
校長はその他、学力に問題がある子供の相談に乗ったり、子供同士のトラブルの調停役をしたりします。教える以外は校長先生の担当だと思って、何でも相談してください。
学力向上を進める動き
最近は、州や連邦レベルの指導も強くなっています。カリフォルニア州の「STAR」と呼ばれる州統一試験もその例です。その試験結果は、1人ひとりの子供の評価や指導に使われ、また各学校区や学校の評価のデータとして使われます。何年も成績向上の見られない学校区の管理を州が代行したり、成績の上がらない学校やクラスの校長や担任の先生が異動になったり、辞めさせられたりするケースもあります。
子供にとっても、学年レベルの学習が十分理解できていないと判断された場合は、留年させられることもあります。渡米間もなく英語力が不十分な子供には救済措置がありますが、数年間現地校で学んだ後は留年の対象になる可能性があります。
子供たちにとっては、テストの成績中心で学力を判断されるという厳しいシステムです。
教育に地域住民も高い関心
子供の保護者だけでなく、多くの地域住民も地元の学校教育に関心を持っています。住民が納める不動産税が学校運営の中心的財政基盤になっているからです。「自分が払った税金がどう使われているのか」という意識を持っているのです。
また、地域の学校の質と住宅などの不動産の価格が比例しているのも理由の1つです。州の統一学力試験の学校ごとの成績が新聞紙上に発表されます。その結果により、子供を持つ保護者は、より質の良い学校のある地域の住宅を買い求めます。その結果、住宅価格が上がります。
アメリカと日本の異なる2つの教育の狭間で、子供は健気にがんばっています。お母さんやお父さんも、アメリカの教育を理解するという仕事をしてください。
(2004年11月16日号掲載)
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