子供が現地の小学校に入りました。アメリカと日本とではお国柄が違うように、国としての教育方針が違うように思います。アメリカではどのような教育目的や教育方針が基本にあって、どのように実践されているのでしょうか?
A. 民主主義を守る国民を作るため、自分の意見が言える力をつける
1つの国の教育を短い言葉で表すのは難しいことです。しかし、いただいたご質問は、日本から来た保護者から繰り返し聞かれました。ここで紹介するアメリカの教育についての考え方は、私が自分自身でまとめたものです。学問的な厳密な研究の成果ではありませんが、私なりの体験・考察・検証の結果です。皆さんが、アメリカの教育を理解し、お子様の指導に役立てることができれば幸いです。
「民主主義を守る」が目標
アメリカの教育の目的は「民主主義を守る国民を作ること」です。
「民主主義」はアメリカ合衆国のモットーです。アメリカ建国直後から、「国民が無知なら民主主義は滅びる」と考え、国民を教育することが提案されました。最初の提案には成人も含まれていましたが、税金を使う公教育では、子供の教育が大きなテーマとなりました。
「民主主義を守る」という目的は、「為政者にだまされるな」「自分の意見を表明する」という2つのより具体的な目標となります。それらの目標は、活動を通してスキルとして身に付くようにトレーンニングされているのです。
「為政者にだまされるな」というためには、相手が話し、書いた内容の真意を正確に聴き取り、読み取る能力が必要です。決して感情的な主張に惑わされたり、自分の都合で人の意見を曲解したりしてはいけません。
また、「自分の意見を表明する」ためには、自分の意見や考えを相手が明確にわかるように話し、書くことが不可欠です。説得力のある論理的な話ができ、文章が書けるようになることです。
下記の表は、アメリカの学校で行われている活動やスキルについてまとめたものです。この表から、2つの目標を達成し、その能力を身に付けるために、活動を通して、K(キンダーガーテン:日本の幼稚園年長に相当)から8年生くらいまでの間に、それぞれのスキルが段階的に継続してトレーニングされているのがわかります。それぞれのスキルは、上に示した学年で基礎的に、かつ集中的にトレーニングされますが、当然、その学年以降も学齢に応じた内容でトレーニングが継続されます。
【アメリカの学校でのスキルトレーニング:基礎的・集中的に行う学年】
目標 | 能力 | 活動・スキル | 学年 | ||||||||||||
K | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | |||
為政者に だまされるな |
聞く 読む |
Show & Tell | ● | ● | ● | ||||||||||
Self Reading | ● | ● | |||||||||||||
Book Report | ● | ● | |||||||||||||
Critical Reading | ● | ● | |||||||||||||
自分の意見を 述べよ |
話す 書く |
Show & Tell | ● | ● | ● | ||||||||||
Presentation | ● | ● | ● | ● | |||||||||||
Report Writing | ● | ● | ● | ||||||||||||
Essay Writing | ● | ● | ● | ||||||||||||
Book Report | ● | ● | ● | ||||||||||||
総合力 | Critical | ● | ● | ● | |||||||||||
Debate | ● | ● | ● |
トレーニングでスキルをつける
「Show & Tell」を例に、活動でどのようなスキルが身に付くのか考えてみましょう。初めての「Show & Tell」は5歳で経験します。クラスメイトの前で自分の宝物を見せながら、紹介する活動です。他の子供はカーペットに、先生は後ろの椅子に座って、発表を待っています。しかし、発表する子供は自分の大好きなお人形を手にしたまま、みんなの前で立っているのが精一杯。先生に「手に持っているのは何?」と聞かれて、「人形」と答えるのがやっとです。その後も先生の質問に答えながら、自分の宝物を友達に紹介していきます。
現地校の子供に聞くと、Kから2年生までの3年間に、少なくとも20回は発表したと言います。1クラス20名なら、400回近く聞くことになります。発表する子供は、「人前で話す」というトレーニングを受けていることになり、座って聞いている子供たちは「人の話を静かに聴く」という訓練を、繰り返し受けているのです。3年生以降は、最初の3年間で身に付いたスキルを使って、日常的に、発表を続けます。
このような、活動を通してのスキルトレーニングが、日本の教育では見られないアメリカの教育の特徴です。そして、そのトレーニングで身に付けたスキルが、帰国子女の「宝」となるのです。
(2004年12月1日号掲載)