Q. 現地校と補習校の両立が、親子ともにかなりの負担に…
渡米2年目、6年生の息子がいます。週末補習校に通わせていますが、現地校との両立が、親にとっても子供にとっても、かなりの負担になっています。
A. 現地校第一、補習校はその次。日本語は保護者のサポート次第
「両立」とは具体的には、補習校、すなわち日本語での勉強をどのように続けるのかを考えることです。最初に、この学齢期の子供がどんな状況にあるのか、整理してみましょう。
小学校高学年の子供の状況
●読み書きの勉強が増える
4年生くらいになると、学校での学習内容は「話し言葉」中心の勉強から、「読み書き」中心の勉強へ移っていきます。言葉の習得、第1言語習得の最終段階にさしかかっています。机に座って、自分自身でコツコツ勉強する時間と量が増えてきます。それまで皆と一緒で楽しかった学校の勉強が、だんだん苦しくなってくるこの時期は、日本の子供、アメリカの子供にとっても大変で、勉強嫌いの子供が生まれます。
●体力を持て余す
小学校高学年から中学生にかけては、体力の成長が最も著しい、心身のバランスの取れた発達のために大切な時期です。「体力を持て余す」男の子が増えてきます。「落ち着いて、机で勉強をする」ことが困難になって、宿題をスキップするなど勉強にも影響が出てきます。
●自己主張が出てくる年頃
体力の伸長と心の成長のバランスが取れない、自分で自分自身がコントロールできない年頃です。それまで、お母さんの言うことをよく聞く「良い子」だったのが、言うことを聞かない「反抗児」に変わってきます。
●渡米2年
ESLレベルからレギュラーに移る時期で、勉強の内容も、英語自体も難しくなります。渡米直後は余裕のあった算数などの貯金も使い果たし、英語で新しい内容を学び、理解していかなければなりません。
どんな子供に育てたい?
人間の成長にとって最も困難な時期にあるお子さんに向かい合って、勉強を含めて、日々どのように対応すればいいのか?その答えは、「親として、お子さんをどんな大人に育てたいか?」によって決まります。
お子さんを「日本語も英語もネイティブレベルのバイリンガル・バイカルチャー」に育てたいならば、この時期の英語と日本語での勉強を何とか乗り越えられるように、親子一緒に頑張るしかありません。
「勉強よりも心身の発達を」と考えて、スポーツに専念させることも可能です。その場合、「半年間の補習校の休学は、読み書きの能力を極端に低下させ、日本語の会話ができるだけの子供にしてしまいます」と、私自身の補習校の教員の経験から警告しておきます。
または、渡米後のお子さんの学習状況をよく振り返って、「日本語で勉強させたい」と考えられるならば、これを機会に日本人学校へ転校し、日本語だけでの勉強に集中させてあげることです。
あなたのご家庭はどの方向へ向かっていますか?現実的には、「日本語も英語もスポーツも、バランス良く。子供の選択できる幅を広く取っておきたい」と考え、「両立」に悩む保護者がほとんどでしょう。答えは、「現地校第一、補習校はその次」。そして、「日本語での学習は、お父さん・お母さんの努力・サポートで決まる」です。
夏休みを利用して
1つだけ、現地校の勉強への、具体的なサポートの方法を紹介しておきましょう。
週5日通う現地校の勉強の負担の方が大きいので、現地校の学習内容の新学年に向けての予習を、この夏休みにさせてください。まったく知識のないアメリカの地理・歴史などを学ぶ社会科、日本語での理解が簡単な算数や理科の、次の学年の教科書を使った予習です。
これで、これまでお客さんだった授業の内容が少しでも理解できるように、現地校の勉強に対する余裕を持たせ、心の負担を軽くします。その結果、宿題やクイズなど日々の学習を評価する現地校の成績が上がってくれば、勉強に対する気持ちも大きく変わってきます。
補習校の勉強の具体的なサポート方法については、ただ1つだけアドバイスを。お子さんは小さい時と違います。別の勉強のさせ方を工夫してみてください。
(2007年7月1日号掲載)
Q. 5年生の男の子が補習校に行きたがりません。いつまで続ければ良いですか?
A. 補習校は中学卒業を目標に。バイリンガルに育てる
「5年生の壁」
4・5年生で、「補習校に行きたくない」「辞めたい」という子供、特に男の子が増えてきます。その主な理由は、「体力の向上」と「勉強の変化」です。
この時期の子供の抱える問題、特に「第一言語の習得」への最後の坂道を、私は「5年生の壁」と呼んでいます。
身体と心の変化
小学校高学年から中学までの子供の身体の成長と体力の向上は大変大きく、それに伴い精神的にも大きな変化が現れます。俗に言う「思春期」です。
4・5年生は、その始まりの年齢です。外見的には、身体の発達と運動能力の向上が目立つ時期です。特に、男の子は「じっとしていられない」と身体を動かしたがるようになります。本格的にスポーツを始める子供が多くなり、補習校の欠席など、勉強にも大きな影響が出てきます。
「読み書き」の勉強に移る
「話し言葉」での勉強から「書き言葉」での勉強に大きく変化するのも4・5年生です。
補習校の国語や社会で扱う教材は、もはや親子の会話の内容のレベルではなく、「大陸漂流説」「環境問題」など抽象的で幅広い題材に変わっていきます。その内容を、自分1人で「読んで、考え、書く」作業が、勉強の中心となってきます。
実は、この勉強の変化は、日本だけではなくアメリカの学校での勉強でも起きてきます。現地校での「エッセイ」の勉強の始まりと徹底した指導が、その象徴です。
この現地校と補習校での「じっと机に向かっての勉強への変化」に対応できない子供が、日米どちらでも多く出てきます。
第一言語の完成期
この「読み書き」の学習レベルを乗り越えれば、お子さんの言葉は「第一言語」「ネイティブとしての言葉」の基礎が完成します。逆に言うと、この壁で止まると、「おしゃべりだけ」「大人では通用しないバイリンガル」で終わってしまいます。
中学1・2年生までのこの段階は、高校・大学、さらには大人になってからの学習や生活に必要な基礎的な言語の力を身に付ける、非常に大切な時期です。その基礎の上に、より専門的な知識の習得や抽象的な思考力を築いていきます。
「読み書き」の力を付けることは、言語の基礎の習得に終わらず、社会人としての基礎能力やアカデミックな学力の基盤となるのです。
目標は中学卒業
お子さんには、「中学卒業までがんばろう」と(ご夫婦で)声を掛けてください。学校教育のひと区切りで、分かりやすい目標になります。この掛け声の下、大変な海外での日本語の習得、日本語での学習を続けていきましょう。
しかし、この目標の最終段階の中学2・3年は、現地校の勉強も坂道にかかってきます。がんばって勉強している子供には「もっとレベルの高い勉強を」、苦労している生徒には「高校に備えて基礎力の充実を」と、家庭学習の質・量が共に増えてきます。学力や知識の飛躍的な向上の中心となるのは、当然週5日学んでいる現地校の勉強ですから、力を抜くわけにはいきません。
そのため、「中学卒業」の目標を達成するのは大変になってきます。そこで、現実的な(保護者だけに向けての)目標として「最低、中学1年終了まで」を、私はすすめています。その理由は、これまでの説明でお分かりになるように、「第一言語としての日本語の習得」です。
これからのバイリンガル?
今の子供たちが大人になった時に「宝」となるバイリンガルのレベルは、「会話」だけではなく「日本語と英語で読み書きも出来ること」です。そして、その言葉の力で、多くの異なった文化を吸収し理解していく「バイ・カルチャー」のレベルが、現代の子育ての目標です。
子供だけではなく保護者にとっても、「バイ・カルチャー」のレベルに達するまでには大きな努力が必要です。もし、お子さんをこのレベルまで育てる決心をしたならば、ここで紹介した「5年生の壁」を親子で乗り越える最大限の努力をしてください。
あと2・3年のがんばりで、お子さん自身を「宝物」に変えてあげることができるのです。
(2009年4月1日号掲載)
Q. 中2の長男の補習校の学習が続きません。今後、どうすれば?
A. 補習校を辞めても仕方ありません。しかし、次に述べるような約束を、お子さんと交わしてください
ある質問
在米8年になります。この先、特に帰国の予定はありませんが、できれば子供たちには日本の大学に進学してもらいたいと思っています。
最近、中2の長男が思春期(反抗期?)に入ったらしく、補習校の宿題等が以前のようにうまく進んでおりません。補習校の先生とも、どのように学習を進めたら良いのか暗中模索の状態です。
現地校ではちゃんと宿題も提出し、成績も取れています。
質問への回答
私の回答は、「補習校を辞めても仕方ありません。しかし、次に述べるような約束を、お子さんと交わしてください」です。
「日本語での読書を増やす」
日本語での知識を獲得する最も効果的な方法は、日本語の本の読書です。日本語での知識、さらには日本人としての常識・文化的な力を伸ばします。
「現地校の成績を上げる」
現地校の学習・成績は、今後のお子さんの学業・進学の成功への鍵です。また、英語での知識・学力が日本語での能力に大きな力を発揮します。
◇ ◇ ◇ ◇
回答の根拠をご紹介します。
■中学生:補習校が続かない
中学生になって、日本語での勉強が続かなくなって、補習校を退学する。
実は、中学生が、現地校での英語での勉強と並行して日本語での学習を続けてきた子供(保護者)が、補習校を退学する最も一般的な時期です。どの補習校でも見られる現象で、それぞれの補習校の小学生と中学生の生徒数を比べればはっきりします。
中学生になって日本語での勉強が続けられなくなる理由、また、補習校を退学する理由は、子供・家庭の事情によりさまざまです。しかし、日米の学校の小学校と中学校の勉強の目的の違いが、その理由の根底になっています。
■小学校での学習
小学校段階での学習の大きな目的の1つは「言語の習得」、具体的には「話す聞く」から「読み書き」の能力の完成です。
低学年の「話し言葉中心の学習」「文字の導入」から、高学年の「読み書き」能力の完成までの学習ステップを通じて、第1言語の習得を目指します。日米どちらの小学校でも、高学年になると読書量が増えて、作文・エッセイで苦労する子供が多くなります。
補習校でも、国内の学校と同じカリキュラムで日本語を学びます。この時期を補習校で学んだこのお子さんは、読み書きも含めた日本語の基礎がほぼ完成していると思われます。
■中学・高校での学習
日本(補習校)の中学校以降の学習は、言語としての日本語ではなく、日本語での知識や学力の獲得が目的です。そして、知識・学力の量と質は、学年と共に飛躍的に増大していきます。それは、日本の中学・高校の学習内容を振り返ればはっきりとわかります。
また、現地校の中学・高校での学習もまったく同じ状況です。ご相談のお子さんは、現在中学2年生(現地校7~8年)とのことですが、今後、現地校での勉強は学年が上がるに従って学習の質量共により厳しくなってきます。習熟度別のクラスが多くなり、生徒の学習レベル・能力に応じた学習が要求されます。
すなわち、現実的には、中学・高校のレベルのすべての学習内容を、日本語と英語で学ぶことは不可能ということです。
■大学進学
アメリカの日本人高校生が、日本・アメリカを問わず、大学に進学するためには、現地校での学習・成績が最も大切です。
日本の大学への進学に当たっては、「帰国子女大学入試」を受験します。この特別入試は、海外で学んだ日本人を対象としています。この特別入試を実施する大学は、語学力・海外生活体験・現地高校で得た学力など、国内受験生が持たない、海外の学校で学んだ受験生だけが持つ能力や特性を求めています。日本語だけで授業を行う大学・学部は基礎的な日本語能力を求めますが、補習校の中学校で学んだ基礎があれば十分です。また、最近は英語のみ、あるいは英語での授業が大半の受け入れ大学・学部が多くなりましたので、入学後の日本語力を必要以上に心配することはありません。
アメリカの大学に出願・進学の可能性のあるお子さんの場合、現地校での学習・成績が最重要なのは当然です。
(2010年7月1日号掲載)