アメリカの大学進学を取り巻く環境は、日々変化しています。 2019年はアドミッションのスキャンダルがニュースで取り沙汰されるなど、 アメリカの入試制度への関心が高まった年でした。20年は、 過去10年間の変化が加速する年になりそうです。今年予想されるアドミッションのトレンドをご紹介します。
難関大学のアドミッションテスト離れ
20年は、 アドミッションテストの将来を左右する重要な年となるかもしれません。 ACTまたはSATのスコアの提出を必須要件から外し、 提出は任意とする 「テストオプショナル」 の方針を採用する大学は、 過去10年間増え続けています。 中でもシカゴ大学が19年度からテストオプショナルを導入したことを契機に、アドミッションテストの有用性を再検討する大学が増えました。 アドミッションでテストスコアの提出を要求しない大学は、 すでに1000校以上ありますが、20年は、シカゴ大学のようにテストオプショナルを採用する難関大学が増えることが予想されます。また、一般
的にマイノリティーや低所得者層はアドミッションテストの点数が低い傾向があり、 テストの義務付けは公平性を欠くと、 以前から指摘されていました。19年12月、 カリフォルニア大学群が、 学校区や人権擁護団体などのグループから、 テストを必須要件とすることは不当な差別であると訴えられました。 アドミッションテストが人権訴訟に発展したのは今回が初めてですが、 他の大学にも波及する可能性があります。奇しくもその前月、 「家庭の経済状況がテストスコアに与える影響は看過できず、 テストオプショナルを支持する」と、 カリフォルニア大学バークレー校の学長が発言したこともあり、 カリフォルニア大学群がテストオプショナルとなるのは時間の問題と考える専門家も少なくありません。 大学アドミッションに多大な影響力を持つカリフォルニア大学群の対応次第では、 難関大学のテスト離れが一気に加速するかもしれません。
カリキュラムを重視した成績の評価
大学のアドミッションで、高校の成績が最も重要な要素であることは以前から変わりはありませんが、 AP (アドバンスト ・プレイスメント) やIB (国際バカロレア) などの難
度の高いコースの成績を重視する傾向が高まっていることが、 アメリカ最大の教育組織NACACの調査で明らかになりました。 7割以上の大学が、IBやAPなどの大学準備カリキュラムの成績を極めて重視すると回答しています。この傾向は、 テストオプショナルを採用する大学が増えていることと無関係ではありません。 アドミッションテストは、学生が大学レベルの学習に取り組む準備ができているかを評価するために使われてきましたが、20年は、 その評価を大学準備カリキュラムの履修状況を重視して行う大学が増えると予想されます。志願者がどのレベルのクラスでどのような成績を収めたかは、 大学で学ぶ準備がどの程度できているかを予測する上で大いに役立ちます。 成績の付け方は、 学校ごとに異な
る場合がありますが、 APのように履修者全員が同じテストを受けるカリキュラムは、学生を横並びで評価しやすいことも重要なポイントです。
合否先送り戦法の拡大
大学は、 アーリーデッドラインで受験した学生の一部に対して、 合否を保留してレギュラーデッドラインの入学審査に回したり、 レギュラーデッドラインで受験したボーダーラインの学生をウェイトリスト (補欠学生リスト) に載せたりします。 近年、 このように合否を先送りされる学生の割合が増えています。 ウェイトリストに載った学生の数は、 過去一年間で平均12%増えています。 ハーバード大学はアーリーデッドラインで受験した学生
の74%を保留し、 MITは65%の学生を保留しました。 合否を先送りされる学生の割合が、20年はさらに増えると予想されます。合否の先送りは、 歩留まり(入学率) を高めるために大学が導入した戦法です。 先送りされるのは、 大学から合格圏内と判断された学生です。 ただし、 合格圏内の学生全員を合格させるわけにはいかないので、 とりあえず合否を保留にし、 その後の学生の対応を待ちます。 そして、 合格通知を送ったら入学してくれそうな学生を見極めて合格通知を送れば、 入学率が上がります。保留された学生は、 合格できなかったと嘆くのではなく、最終的に合格する可能性を高めるため、 どのような対応ができるか検討して行動することが重要です。
(2020年1月16日号掲載)