(2025年3月号掲載)
「日本の大学しか出ていないので、アメリカの大学の仕組みが分かりません」という相談をよく受けます。日本に限らず、カナダやヨーロッパの大学と比べても、アメリカの学部教育の仕組みは、分かりにくいかもしれません。毎年100万人を超える留学生が集まってくるアメリカの大学は、世界に類を見ない極めて特殊な学部教育制度を有します。そして、その特殊性こそが、アメリカの大学の魅力でもあります。
将来性重視の教育
アメリカの大学教育制度が、日本やヨーロッパと大きく異なる背景には、大学教育における考え方の違いがあります。多くの国で、大学は専門的な高等教育を提供する場であり、学生の専門性を高めることに主眼を置いた学部教育が行われています。これに対して、アメリカの大学では、学生一人一人のポテンシャルを最大限に発揮させることに注力した学部教育が行われています。
将来性重視の教育を実践するアメリカの大学は、入学審査でも将来性を重視して学生を選びます。高校の成績やテストの点数だけでなく、今までどんな経験をして、どのように成長したのかなど、人物としての魅力も入学審査で評価されます。
アメリカの大学にとって最もありがたいのは、卒業生が社会で活躍することです。卒業生が活躍すれば、大学の認知度が高まると共に、卒業生からの寄付金も集めやすくなります。将来性を重視して学生を選び育てることは、大学の長期的な繁栄という点でも理にかなっています。
リベラルアーツ教育
アメリカの大学も、3年生以降は専門性を高める教育にシフトしていきますが、最初の2年は、リベラルアーツと呼ばれる教養教育を重視している大学が多いです。HarvardやMITのような難関大学においても、リベラルアーツは極めて重要な教育プログラムです。
リベラルアーツ教育は、学生が将来どんな分野に進んでも必ず役に立つスキルです。基礎学力に加え、幅広い分野にまたがる問題に取り組む力、答えのない問題に取り組み解決策を見いだす力など、実社会で活躍し、豊かな人生を送る上で必須の総合力です。質の高いリベラルアーツ教育を受けた学生は、社会に出た後、その価値を日々実感していると、口をそろえて言います。
大学で一本化されたアドミッション
日本やヨーロッパの大学では学部や学科が学生を選抜します。進学後の専攻の変更は基本的に不可能です。これに対し、アメリでは大学で一本化されたアドミッションが基本です。学生は、学部から入学が認められるのではなく、大学から入学が認められます。そのため、進学後に専攻の変更は原則自由で、専攻を決めずに大学を受験することも可能です。
アメリカの大学生は、平均2回以上専攻を変えると言われています。17、18歳で将来の目標が決まっている学生は多くありません。大学で自分のやりたいことが見えてくる学生は数多くいます。高校時代から明確な目標を持っている学生でも、大学進学後に考えが変わったり、もっと興味のある分野が見つかったりすることがあります。学生にとって、進学後に専攻が変えられ、専攻を決めずにアプライできるアメリカの制度はありがたいものです。
カスタマイズ可能な教育プログラム
アメリカの大学では、複数分野を同時に学ぶことも可能です。主専攻(メジャー)の他に副専攻(マイナー)を履修する学生は少なくありません。例えば、心理学の知識を将来仕事で生かしたい学生は、サイコロジーをメジャーで履修しながら、ビジネスをマイナーで履修するのは、妙案かもしれません。
主専攻として学びたい分野が複数ある学生は、ダブルメジャーという選択肢があります。生物を専攻したいが、長年続けている音楽も学び続けたい学生は、バイオロジーとミュージックのダブルメジャーを選ぶことが可能です。
自分に合う専攻が見つからない場合、新たに専攻を作ってくれる大学も多いです。学生のニーズに合わせて柔軟に対応するのがアメリカの学部教育の強みです。このようなフレキシブルな教育システムは、世界中探してもアメリカ以外にはありません。
(2025年3月号掲載)
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