レガシー・アドミッション排除の意義

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(2024年11月号掲載)

2024年9月30日、カリフォルニア州では、州内の私立大学に対し、卒業生および寄付者を入学審査で考慮することを禁じる法律が成立しました。この法律は25年9月に発効します。

アメリカの多くの難関大学では、レガシー(卒業生)やドナー(高額寄付者)の親族を入学審査で優遇することが、当たり前のように行われてきました。アメリカの大学でレガシーの優遇が始まったのは1920年代。アイビーリーグなどがホワイト・アングロ-サクソン・プロテスタントの学生を確保するためだったと言われています。

レガシー枠に対する取り組み

92年の調査によると、全米ランキングの上位75校のほぼ全ての大学でレガシーの優遇が行われていました。大学設立以来、レガシーの優遇に関わったことがない大学は、CaltechやMIT、University of Washingtonなど、ごく一部の大学に限られます。

UC(University of California)の各大学は、98年にレガシー・アドミッションを廃止しました。コロラド州は、21年に州立大学のレガシー学生の優遇を禁止し、その後、バージニア州とイリノイ州も同様に禁止しました。しかし、この優遇禁止を私立大学にまで適用したのは、24年のメリーランド州が全米初です。カリフォルニア州が全米で2例目ですが、影響の大きさは、メリーランド州の比ではありません。

メリーランド州にはJohns Hopkins Universityという難関大学があり、この大学は20年までにレガシー・アドミッションを排除しているので、メリーランド州で打撃を受けた私立大学はありません。これに対しカリフォルニア州には、レガシー・アドミッションを積極的に採用している難関大学が複数あります。22年の入学者はUniversity of Southern Californiaで14.4%、Stanford Universityで13.8%、Santa Clara Universityで13.3%をレガシーの学生が占めました。

レガシー排除の影響・意義

コロラド州の大学アドミッション担当者によると、レガシー優遇の禁止から3年経ち、人々の意識は変わったとのことです。自分が卒業生の子どもであるというだけで、周囲から色眼鏡で見られたり、自分の親が卒業生ではないというだけで、受験を諦めたりというケースが減ったことが成果だそうです。

レガシーの優遇禁止で、親のコネで進学する出来の悪い学生が排除され、より優秀な学生が集まるという考えは的外れです。Harvard Universityの研究によると、レガシー学生は、そのステータスがアドミッションで考慮されなかったとしても、一般の学生よりも合格する可能性が33%高いとのことです。レガシー学生は、親の学歴や収入に支えられ、私立高校で質の高い教育を受けたり、アドミッションで評価を得やすいスポーツに取り組んだりする機会が多いのは言うまでもありません。レガシー排除の最大の意義は、優秀な学生が正当な評価を得ていると周囲に知らしめることかもしれません。

コロラド州の大学アドミッション担当者によると、レガシー優遇の禁止から3年経ち、人々の意識は変わったとのことです。自分が卒業生の子どもであるというだけで、周囲から色眼鏡で見られたり、自分の親が卒業生ではないというだけで、受験を諦めたりというケースが減ったことが成果だそうです。

なお、メリーランド州やカリフォルニア州以外では、私立大学のレガシー排除の法案化は難航する見通しです。コネチカット州ではレガシー禁止の法案化を進めましたが、Yale UniversityやTrinity Collegeなどの難関大学から猛反発を受けて、最終的に廃案となりました。ニューヨーク州とマサチューセッツ州でも、同様の取り組みが行われましたが、こちらも頓挫しました。

ドナー排除の影響

名門私立大学にとってレガシー排除の影響は限定的ですが、ドナー排除の影響はもっと深刻かもしれません。名門大学の経営は多額の寄付金で支えられています。寄付金の激減は避けたいとどの大学も考えるはずです。

実はカリフォルニア州の新法には抜け穴があり、「ドナー排除は州から奨学金の資金を得た場合に限る」という条項が含まれています。例えば、22-23年度、Stanford Universityの低所得家庭出身の学生向けに出された、州からの奨学金の総額は約300万ドルです。一方、大学が学生に出した奨学金の総額は2億6000万ドル以上でした。今後、Stanfordは州の方針に従うことで予想される寄付金の減少額と、州の奨学金を天秤にかけるという、難しい判断を迫られることになりそうです。

(2024年11月号掲載)

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