スポーツに積極的に取り組んでいる高校生の中には、大学でもスポーツを続けることを希望している学生が数多くいます。アメリカは世界で最も大学スポーツが盛んな地域であり、アスリートとして活躍することを目指す学生を経済的に支援する、世界でも珍しい「スポーツ奨学金」制度があります。そのために全米はもとより世界中から学生が集まってきます。今回は、アスリートの大学進学についてお話しします。
アスリートは入試でも経済面でも有利
米国内の大学で競技を行う学生の多くは、スポーツ推薦枠を狙います。なぜならアスリートとして進学を希望する場合、一般の学生よりも有利な点が2点あるからです。
アスリートの出願手続きは、一般の学生とは異なる基準で進められ、通常かなり優遇されます。ほとんどの4年制大学はスポーツチームを有し、大学教育の一環としてスポーツに取り組んでいます。大学は学生が学業とスポーツを両立してきたことを評価します。将来大学のチームに貢献する見込みがあれば大学の利益にもつながると考えるからです。もし仮に、学力だけでは難しいと思われる大学でも、スポーツ推薦を通して合格できる可能性は大いにあるのです。
アスリート推薦枠のもう一つの利点は奨学金の給付です。大学対抗スポーツに参加するチームを管理する最大の組織であるNCAA(全米大学体育協会)には、1千校以上の主要な大学が所属しています。NCAAは、ⅠからⅢのディビジョンに分かれ、一般的には大規模大学が競技レベルが最高のディビジョンⅠ、小規模大学はディビジョンⅡやⅢに分けられています。このディビジョンⅠとⅡの大学には、スポーツ奨学金制度があり、学生アスリートを経済面で支援します。ディビジョンⅢの大学にスポーツ奨学金はありませんが、独自の方法でアスリートを入試と学費の両面で優遇します。
スポーツ推薦を目指すならば、まず大学チームのコーチから奨学金の候補者に選抜される必要があります。選抜されたのち、大学の入学審査を受け、通過すると進学が認められます。つまり、大学のコーチによる選抜をクリアすることが、出願への第一歩となります。
しかし、大学のコーチから選ばれるためには、自ら売り込まなければなりません。何もしなくてもコーチから声がかかるのは、ごく一部のトップアスリートだけ。大半の学生は自らコーチに連絡をとります。自分の評価がスポーツ奨学金の額に反映されるわけですから、文字通り「自分を高く売る」戦略を立てて実行することが重要です。
各チームが学生に授与できる奨学金の合計上限額は、競技の種類やチームが所属するディビジョンにより、NCAAで細かく決められています。例えば、ディビジョンIの女子サッカーチームには、12人分までの奨学金が授与できます。この場合の1人分とは、授業料、および寮費、食費などを含む1年間の学費の総額です。
ポートランド大学を例に挙げると、1人分の学費は約5万3千ドル、これに12を掛けた額が提供できる奨学金の総額です。この金額をチームに所属する約20名の学生に分配することになりますが、均等に分配されるわけではなく、各選手のチームにおける重要度により受給額が異なります。NCAAが扱う競技の多くは、決められた人数分の奨学金を所属選手に分配する方法を採ります。
対して、奨学金の数と授与学生の数が同数となる競技はディビジョンIの一部の競技に適用され、奨学金を獲得する学生全員が学費全額免除となります。
学生アスリートとして活躍するために
授与できる学生数が限られているため学生にとっては奨学金獲得は狭き門ですが、大変魅力的な制度です。よって、他の選手との差別化が大切となります。選手としての能力はもちろん、学力や人間性も重要な評価ポイントです。いくら優秀な選手でも、成績や素行に問題があれば受け入れるわけにはいきません。学習面や統率力なども含め、自分の価値をしっかり大学に伝えることが、他の選手との差別化につながるのです。
また、自分に合うチームを見極めることも重要なポイントです。競技のレベルはチームにより大きく異なるので、高いレベルでのプレーが目標ならディビジョンIやⅡ、学業を優先しながらスポーツに取り組みたい学生はⅢというように、自分に合った大学を探しましょう。
(2014年06月16日号掲載)