アメリカの大学での奨学金(スカラーシップ)獲得戦略
アメリカの私立大学は、教育の質や学生のサポートは優れていますが、進学のハードルが高いという話を以前しました。なかでも最大のハードルが学費です。「私立は学費が高いから、州立を目指す」という話をよく耳にしますが、州立よりも安く私立に進学する学生も少なくはありません。大学進学を自分の将来への投資と考えた時、質の高い教育をなるべく安い費用で受けることが賢い投資方法と言えます。ROI(Return on Investment)を高める上で重要な、アメリカでの奨学金(スカラーシップ)の獲得方法についてご説明します。
種類が異なる2つの奨学金(スカラーシップ)制度とは?
アメリカにおいて「ファイナンシャルエイド」という言葉は、学費負担を軽減するための金銭的支援プログラム・制度の総称です。その種類はさまざまで、返済が必要な「学生ローン」や、キャンパス内で働くことで経済支援が受けられる「ワークスタディー」もファイナンシャルエイドに含まれます。その中で、一般的に返済不要な金銭的支援を「奨学金(スカラーシップ)」と言います。日本では、返済の義務を負う奨学金が数多くありますが、アメリカでは奨学金(スカラーシップ)はすべて返済不要です。奨学金(スカラーシップ)には、色々な団体が授与するものが多くありますが、最も重要なのは、金額的にも大半を占める大学からの奨学金です。この奨学金は、学生の経済的な必要性に応じて給与される「ニーズ・ベース」と、学生の能力に基づいて給与される「メリット・ベース」に大別されます。
ニーズ・ベース
家庭の収入では学費が足りない場合は、その不足分が経済的ニーズとなります。この一部(もしくは全部)をカバーするのがニーズ・ベースの奨学金(スカラーシップ)です。このタイプは「グラント」とも呼ばれ、主としてアメリカ市民、およびアメリカ永住者が対象となります。
メリット・ベース`
受験生の学力やリーダーシップ等の能力に対する評価として与えられるのが、「メリット・ベース」の奨学金(スカラーシップ)です。スポーツ推薦で進学するアスリートに授与されるアスレチック・スカラーシップもこのタイプですが、これについては以後説明します。メリット・ベースの奨学金は、原則として国籍を問わず誰でも対象となります。
経済状況にかかわらずメリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)を狙う
学費のせいで適切な教育機会を失ってはならないというのが、アメリカの大学教育における基本的な考え方であり、ほとんどの大学でニーズ・ベースの奨学金(スカラーシップ)制度があります。ですから、家庭の収入が少ないからといってアメリカでの大学進学を諦める必要はなく、むしろ他人のお金で教育を受ける絶好のチャンスと考えれば良いのです。
家庭の経済的ニーズは、アメリカ連邦政府が行うFAFSA(www.fafsa.ed.gov)というサービスを利用して計算されます。そのため、奨学金(スカラーシップ)希望の受験生は、大学に進学する年の1月1日以降にFAFSAでアカウントを作成し、家庭の収入や資産の情報を入力します。FAFSAのデータはすべての大学と共有されますが、これに加えてCSS Profile(https://profileonline.collegeboard.com)というサービスを併用する大学もあります。CSS ProfileはCollege Boardが行っている有料サービスで、毎年10月以降利用できます。
ニーズ・ベースの奨学金(スカラーシップ)は大変ありがたい制度ですが、これだけで学費のすべてをカバーできるわけではありません。経済的ニーズを100%奨学金(スカラーシップ)で補ってくれる大学は限定的で、その多くは超難関校です。FAFSAの計算方法は必ずしも現実を正しく反映したものではないため、経済的なニーズがあるにもかかわらず、FAFSAの数字には表れない場合も多々あります。
そこで、メリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)が重要となります。これは、大学が欲しいと思う学生に対して提供するもので、その金額は大学がその学生をどれくらい欲しているかで決まります。メリット・ベースの奨学金の額は、下は1千ドルから、上はフル・スカラーシップ(学費全額免除)までさまざまです。ニーズ・ベースの奨学金(スカラーシップ)重視の大学もあれば、メリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)重視の大学もありますが、限られた資金を効率的に使うという観点で、近年はメリット・ベースを重視する大学が増えています。そこで、受験生は経済的ニーズの有無にかかわらず、まずはメリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)の獲得を目指すことをおすすめします。
アメリカで奨学金(スカラーシップ)を得るにはSEMで自分を評価させる
では、メリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)を得るためには、何をすれば良いのでしょうか。大切なことは2つ、自分の強みをきちんと大学に伝えることと、それを評価してくれる大学を探すことです。 合格者にどの程度の奨学金を提示するのかも、SEM(戦略的受験者管理システム)の大事な役割です。つまり、SEMで高く評価してもらえるように、アプリケーションで自分の魅力をきちんと伝えることが重要です。
- SEMについては「受験生を効果的に選抜するSEM時代が到来!」(2011年11月16日号掲載)参照
高騰するアメリカの学費、無理のない進学を目指す
アメリカの大学の授業料が高いのは周知の通りです。では、実際にどれくらい学費はかかるのでしょうか。学費とは、大学で学ぶのに必要な費用(授業料、および教材費)と生活するのに必要な費用(寮費、および食費)の合計です。学費は年々上昇傾向にあり、アメリカ・カリフォルニアの州立大学で年間2万から3万ドル程度(州内学生の場合)、私立大学は年間4万ドルを超える所が多く、5万ドルを超える大学も珍しくありません。
アメリカの「州立大学は安い」というのは昔の話で、例えばUC(カリフォルニア大学)の州内学生の授業料は、過去20年間で5倍以上に跳ね上がっています。州立大学の学費の高騰は今後も続くことが予想されるため、学費面でのメリットは年々小さくなっています。もっとも、額面上の比較はあまり意味がありません。なぜなら、私立大学生の多くは何らかのファイナンシャルエイドを得て進学しているため、実際に支払っている学費は異なるからです。
では、奨学金(スカラーシップ)はどれくらいの額を目指せば良いのでしょうか。年間の学費がそれほど無理なく支払えることが理想ですから、そのための差額を埋められる額が目標となります。例えば、年間に2万5千ドルまで払える方が学費が4万5千ドルの大学を受ける場合、奨学金の目標額は2万ドルとなります。授業料は大学ごとに大きく異なりますから、受ける大学によって目標とする奨学金(スカラーシップ)の額も変わってきます。
メリット・スカラーシップの獲得を目指す
メリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)を得るためには、自分を高く評価してくれる大学を数多く受験することが大切という話をしました。では、そのためにはどうすれば良いのでしょうか。ここで、自分を評価してくれる大学の探し方を説明します。
大学は高いレベルの教育を受ける場ですから、進学において学力評価が重要なのは言うまでもありません。ですから、まずは自分の学力を評価してくれる大学を探しましょう。「自分の成績では難しい」と悲観的になる必要はまったくありません。アメリカの多くの大学では、在校生の高校時代のGPAやSAT等の点数の情報を公開しているので、それらを手がかりにしながら、自分に競争力がありそうな大学を選べば良いのです。
アメリカの大学が評価するのは、成績だけではありません。どの大学も、色々な価値を持った学生を集めて魅力のある学生集団を作りたいと考えています。そこで受験生は、自分のどのような価値を評価してもらいたいのかを考える必要があります。どの学生も優れた面を持っています。リーダーシップに長けた学生もいれば、芸術的センスに優れた学生もいます。自分の価値をしっかり大学に伝えることは、合格の可能性を高めると共に、奨学金の獲得にも有利になります。もちろん、自分の強みをどの大学が評価してくれるのかは実際に受験しないとわからないので、なるべく多くの大学を受けることも重要です。しかし、ただ闇雲に受けるのではなく、自分に合ったプログラムがあり、かつ自分の長所を評価してくれそうな大学をリストアップし、その中から狙いを定めて選んでいきます。
プロ級でなくても狙えるアスリート向けの奨学金(スカラーシップ)制度
アメリカの大学には、スポーツ推薦枠での大学進学の道もあります。スポーツ推薦の学生は、「アスレチック・スカラーシップ」というメリット・ベースの奨学金(スカラーシップ)の対象となります。スポーツ推薦というと、プロ選手を目指すようなトップアスリートのためのプログラムと思われるかもしれませんが、そうではありません。高校で積極的にスポーツに取り組んでいる多くの学生は皆、スポーツ推薦枠を利用して進学を有利に進められる可能性があるのです。
アメリカの大学では、学力評価に加えて、芸術やスポーツの才能、リーダーシップや社会貢献等の人間性など幅広い観点で学生を評価し、評価の高い学生には経済面で優遇してくれます。従って、自分独自の奨学金獲得作戦を立てて実行することが、奨学金への近道と言えます。
アメリカの大学でスポーツを続ける価値とは
まず理解していただきたいのは、スポーツ推薦はプロ選手を目指すトップアスリートだけのプログラムではないということです。NCAA(全米大学体育協会)に所属する大学では40万人以上の大学生がアスリートとして活躍していますが、その中で将来プロとして活躍できるのはごくわずかです。また、運良くプロ選手になれたとしても、引退後は別のキャリアを積むことになります。つまり、アメリカの大学でしっかり学んで将来のキャリアにつなげるという点では、アスリートも一般学生も何ら違いはありません。
では、アメリカの大学はなぜスポーツに励む学生を優遇するのでしょう。その理由のひとつに、学業とスポーツを両立させることで人間的に大きく成長することが挙げられます。スポーツを通じて培ったチームワークやリーダーシップは貴重であり、また、限られた時間で最大限の成果を上げる工夫をしながら習得した「自律」や「時間管理」の能力は、社会に出た時に大いに役立ちます。つまり、学業とスポーツを両立する人は、即戦力として社会に受け入れられるのです。
海外の学生も対象となるスポーツ奨学金(スカラーシップ)の仕組み
スポーツ推薦で進学することは、スポーツ奨学金(スカラーシップ)を獲得して進学することを意味します。大学チームのコーチからスポーツ奨学金の候補者に選抜され、大学のアドミッション審査を通ると進学が認められます。各チームが学生に授与できる奨学金の合計上限額は、競技の種類やチームが所属するディビジョンにより、NCAAで細かく決められています。
例えば、ディビジョンⅠの男子サッカーチームには、9.9人分までの奨学金が授与できます。この場合の1人分とは、授業料、および寮費、食費等を含む額です。スタンフォード大学の場合、1人分の額は約5万4千ドルなので、これに9.9を掛けた額が提供できる奨学金の総額です。そして、この金額をチームに所属する20数名の学生に分配することになります。もちろん均等に分配されるわけではなく、選手のチームにおける重要度により受給額は大きく異なります。
このように、決められた人数分の奨学金を所属選手に分配する方法を採る競技は「イクイバレンシー競技」と呼ばれ、NCAAが扱う23種類の競技の多くはこのカテゴリーに入ります。
一方、アメリカでは、奨学金(スカラーシップ)の数と授与学生の数が同数になることを義務付けている競技があります。これらは「ヘッドカウント競技」と呼ばれ、奨学金を授与できる学生数が限られているため、学生にとっては奨学金獲得は狭き門と言えます。しかし、奨学金を獲得できれば、それは例外なくフル・スカラーシップとなります。 なお、スポーツ奨学金は、他州やアメリカ国外の学生も対象となります。
スポーツ奨学金(スカラーシップ)の獲得を目指すには
スポーツ奨学金の候補に選ばれることがいかに重要かはおわかりいただけたと思います。それでは、そのために何をすれば良いのでしょうか。なかには何もしなくても大学から誘いを受ける学生もいますが、多くの学生は大学に自分を積極的に売り込むことからスタートします。スポーツ推薦で進学するには、まず自分の存在を大学チームのコーチに知ってもらうことが先決というわけです。
激しい競争の中でスポーツ奨学金を獲得するには、他のアスリートとの差別化が大切です。スポーツ推薦の選抜基準として、「アスリートとしての能力」が問われるのはもちろんですが、「学力や人間性」も重要な評価ポイントとなります。いくら優れたアスリートでも、成績や素行の問題で出場停止になる選手を受け入れるわけにはいきません。ですから、大学は慎重に学生を選びます。アスリートとしての能力だけでなく、学習面やリーダーシップ等も含め、自分の価値をしっかり大学に伝えていくことが、他の選手との差別化につながるのです。
また、自分が活躍できるチームの見極めも重要です。高いレベルでのプレーが目標ならディビジョンⅠやⅡ、学業を優先しながらスポーツに取り組みたいという学生はディビジョンⅢというように、自分に合った大学を探しましょう。
(2011年12月16日、2012年1月16日、2012年2月16日号掲載)
アメリカにおけるメリット・スカラーシップ(奨学金)の獲得戦略
アメリカの大学に進学する上で、高額な学費は大きなハードルです。大学によっては年間6万ドルにもなる学費を全額払って進学するのは現実的ではなく、各大学はさまざまなファイナンシャル・エイドを提供して、多くの学生に進学の機会を与えています。中でも、メリット・スカラーシップ(奨学金)の獲得は全ての学生が対象になるという点で、最も重要な方法と言えるでしょう。
個人の評価で決まる奨学金
メリット・スカラーシップは、学力やリーダーシップなど学生個人の評価として提供される奨学金で、その金額は、2千ドル程度からフル・スカラーシップ(学費全額免除)までさまざまです。中には入学する学生全員に同額のスカラーシップを給与する大学もありますが、基本的には、大学がその学生をどれくらい欲しているかによって金額が定められるため、その額は一人一人異なります。
メリット・スカラーシップは、家庭の経済的ニーズの有無にかかわらず給与されます。また、原則として国籍やビザの種類も問わないため、非永住者や外国人留学生も対象となります。メリット・スカラーシップは、合格者に対して入学を促すためのツールとして利用されるため、合格通知と同時期にオファーされるのが一般的です。一定の条件を満たすことを条件に4年間同額が給与されます。なお他の奨学金と同様返済不要です。
自分を差別化できる大学選び
アドミッションを有利に進めるには他の学生との差別化が重要ですが、それは奨学金獲得でも当てはまります。自分を差別化できる大学、つまり自分が特別な存在になれる大学を選ぶことがポイントです。難関大学を避けて成績など学力面で他の学生と差別化できる大学を選ぶのは最もポピュラーな方法です。
「自分の成績では差別化は難しい」と悲観的になることはありません。自分が特別な存在になる方法は、成績以外にもいろいろあります。例えば、アドミッションにおいてダイバーシティは常に最重要テーマのひとつであり、少数派の学生は優遇されます。例えば、リベラルアーツ・カレッジでは男子学生が優遇され、工科大学では女子学生が優遇されます。同様に、白人比率の高い大学では、アジア系学生というだけで優遇されたり、中にはアジア系学生のためのメリット・スカラーシップを別途用意している大学もあります。
スカラーシップ(奨学金)の獲得には、出願時期や大学数も重要
締切直前に願書を提出する学生よりも、早期に提出する学生の方がアメリカでは評価が高くなることは以前お話ししましたが、その評価の違いは奨学金の額にも影響します。早期にアプライする学生は自分の大学に高い関心を持っているので、メリット・スカラーシップを弾んで入学の意思を確実にしたいという意図が大学側に働きます。また、学生の評価が同じでも、アプライする時期によりメリット・スカラーシップの金額が異なる場合があります。奨学金の予算は限られているので、終盤になれば財布の紐は固くなりがちです。
Rolling Admissionを採用する大学では締切日は明確に定められていませんが、メリット・スカラーシップで有利な条件を得るためには少しでも早くアプライすることを心がけてください。また、早期締切(Early Action)が設定されている大学にアプライする場合は、ぜひこの制度を利用しましょう。
自分の強みを評価してくれる大学は必ずあるはずですが、どの大学が評価してくれるかを予測するのは困難です。そこで、なるべく多くの大学にアプライすることをお勧めします。もちろん、闇雲に受けるのではなく、自分に合ったプログラムがあり、かつ自分の強みを評価してくれそうな大学に狙いを定めて数多く受けてください。
自分の価値を明確に伝えることが重要
素晴らしいスキルや経験があっても、その価値が大学に伝わらなければ評価につながりません。アプリケーションのエッセイ等を利用し、自分の強みをきちんと大学に伝えましょう。自分がどのように成長してきたのか、またその成長がアメリカでの大学生活にどう活かされるのかを明確にしてください。
スポーツや芸術など特別な能力を持つ学生には、別途タレントベースの奨学金が用意されている場合が多いですが、メリット・スカラーシップの中でまとめて評価する大学もあります。いずれの場合でもアドミッションが自分の価値をしっかり認識していることが極めて重要なので、出願時期を待たず大学のアドミッションと連絡を取り合うことも大切です。
(2015年7月16日号掲載)