帰国子女の特徴とは?

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Q. 帰国子女が持つ望ましい特性とは?

「帰国子女の受け入れに熱心な学校は、『海外の教育で身に付けてきた望ましい特性』を期待しています」という報告がありました。我が家も滞米6年を越えて、子供たちは現地校で楽しく学んでいます。「望ましい特性」って何でしょうか。我が子に身に付いているのか、考えてみたいと思いますので、教えてください。

A. 日本の子供たちが目指す目標の特性を帰国子女は既に身につけている

松本輝彦(INFOE代表)

もう十数年前になりますが、大変多くの海外子女が日本の学校へ帰った、日本経済のバブルの時代に、帰国した子供たちにどのような教育が必要かを模索する「帰国子女教育」全盛の時期がありました。その中で、海外から帰ってきた子供がどんな特性や特徴を持っているのかを明確にするための調査研究がいくつか実施され、「帰国子女の持つ望ましい特性」が明らかにされました。代表的な調査結果として、当時、東京学芸大学の中西晃教授のまとめた「帰国子女とその特性」を以下に紹介します。

帰国子女とその特性

帰国子女は、日本の社会、風土とは異なる外国で生活してきている。特に、現地校や国際学校に通学してきた者は、帰国時の年齢にもよるが、滞在国への文化の帰属意識をもっているがために、日本人とは異なる生活スタイルを身につけ、判断基準、価値基準も異質になっている。このように、日本の普通の子供が持ち合わせていない側面を帰国子女は持ち合わせているが、この中で、好ましいとみなされている特性には以下のものがある。

1. 外国語能力
現地の学校や国際学校に通学した者は外国語で教育を受けてきたため、その言語が優れている。

2. 国際的感覚
現地の学校や国際学校に通学した者の多くは、その国での外国の友人を持ち、その国の生活様式、習慣、物の考え方・見方を理解し、その国の生活規範を身に付けている。このことは、相手国の文化パターンを認知していることであり、自国文化と比較できる複眼的視野を有していることを意味している。さらに、外国人と多く接触してきたことにより、彼らに対しても素直に、臆せず、適切に対応しうる資質を備えている。

3. 望ましい生活習慣
欧米諸国の現地校に通学していた者に見られるのは、個別の尊厳を基底とする学校教育の中から生まれる次の諸点である。

① 自己表明
自分の意見、考え、見解を他者にとらわれずに誰の目の前でも述べ、イエス、ノーがはっきり言える生活習慣が身についている。

② 自立・自助の精神
自分の言動に責任を持ち、他人に頼らない者が多い。これは学校及び社会の個性尊重、自立重視の教育のなかから育成された好ましい生活態度である。

③ 積極性・独自性
発想に特色があり、付和雷同型は少ない。何事に対しても、自分が納得さえすれば積極的に参加し、新しいことに対する順応も早い。これらは、欧米の学校ができる限り個人に自由を与え、個人の自発性を培う教育をした成果であろう。

④ 率直性・明朗性
教師や年長者に対して臆することなく接し、親愛の情を示す。また、大らかで明るく、伸び伸びした点が見られ、誰に対しても気楽に挨拶する者が多い。さらに、物事に対する感動を素直に表すのもよい特色である。

⑤ 奉仕の精神
学級会や生徒会、クラブ活動等で活躍し、リーダーシップをとる者が多い。

■出典:中西晃「海外子女教育」新・教育基本用語、小学館、1993年

ここで紹介した、海外の現地校で学んだ子供が持っている「望ましい」特性とは、日本の普通の子供が持ち合わせていないものです。
バブルがはじけた後、日本では帰国子女教育への興味が急速に減退しました。しかし、2002年の新指導要領導入後、帰国子女の望ましい特性が、再び注目を浴びています。その理由は、新指導要領が目指す「生きる力」がこの「望ましい特性」とほとんど重なるからです。すなわち、日本の子供たちが目指す目標の特性を、既に身に付けているのが帰国子女だからです。

上の特性と、ご自分のお子さんの生活習慣を比較してみてください。お子さんがこれらの項目を満たしているならば、これまでの生活を続けてください。もし、不足があるとすれば、それは週5日通っている現地校での勉強に問題があるのではないでしょうか。お子さんと話してみてください。

(2004年2月1日号掲載)

Q. 海外子女の「宝」について教えてください。

海外子女の「宝」という言葉をよく聞きます。渡米3年で英語力も不十分な子供が、本当に「宝」と言えるようなものを身につけているのでしょうか?

A. 日本の大学のクラスを紹介して、海外子女の「宝」を説明します。

松本輝彦(INFOE代表)

夏季集中クラス

私が受け持つ早稲田大学のクラスは、もう5年目です。「Academic Skills for Study Abroad」という、早稲田の学生ならば誰でも受講できる、前期(4~7月、15週間)と夏季集中(8月、1週間)のクラスです。夏季集中が終わると、受講生のほぼ半数が秋の新学期に向けて欧米の大学へ出発します。
教えているのは、英語で Five Paragraph Essay(5段落エッセイ、以下FPE)、特に自分の意見を相手に認めさせるタイプ(persuasive essay)のエッセイを書くトレーニングです。

なぜ、5段落エッセイ?

最近、アメリカの高校生が4年制大学出願時に必要とされる試験に、Writing Section(エッセイ)が、新しく加えられました。入学を許可する前にその力を知りたいという大学側の希望があるからです。留学生としてサバイブするためにも、エッセイを書く力が要求されます。

驚きのスタート!

1年目の開講前、留学先でのサバイブに必要なレベルの英文エッセイの書き方指導のカリキュラムを準備して、授業に臨みました。しかし、最初のクラスで、私の予想はものの見事に覆されました。

開講時の課題として、アメリカの高校生向けのテーマで自分の意見を述べるエッセイを日本語と英語で書くことを要求しました。ところが出てきたエッセイには、数人の学生のものを除いて、何の主張もなく、主張をサポートする文も見当たりませんでした。英文どころか、文章を書く以前の自分の意見を形成するステップが、日本語ですらまったくできていないことに、愕然としました。

なぜ、書けないのか?

日本でも優秀な早稲田の学生が、それも留学してでも学びたいという向学心に燃えた受講生が、なぜ書けないのか?
彼らの提出した日本語と英語のエッセイを何度も読み返し、数人の受講生と話もしました。その結果、彼らの文章には「自分の意見」がないことがはっきりわかりました。主張するものがなければ、それを読者にわかってもらうための、理由も論理も要らないのです。なぜ意見がないのか、その理由をさらに考えてみました。
簡単でした。日本の学校教育で、そのようなトレーニングや指導がなされてこなかった。それが「書けない」理由だったのです。

早稲田のクラスでは?

今では、早稲田のクラスの毎年第1回目の授業で、「アメリカの学校では、FPEの基礎トレーニングは小学校4~6年生でやります。君たちはそんなトレーニングを受けたことがないから、書けないのです。それでは留学生としてサバイブできません。簡単ですが、このレベルの練習から始めます」と、受講生にはっきりと宣告します。

「書けない」ことは、学生たちの責任ではなく、文章を書く教育を受ける機会が与えられなかったに過ぎないのです。自分の意見をまとめて、しっかりした理由を付けて、相手を説得できる文章を書くトレーニングの開始です。クラスが終わる時に、「書き方のトレーニングを終えました。『書けない』という言い訳はもう通用しません」と、再び言い渡します。

その成果は?

こんなクラスですが、5年も続いているのは、学生の口コミでその成果が評価されているからです。

「クラスのOBが5大商社すべての内定を取った」「受講生が留学先でストレートAだった」「今年から有料(このクラスは、大学の授業料とは別に受講料が必要)になったのに、70人もの受講生が集まった」など。一橋大学でも、同じトレーニングと指導を始めて、3年目になります。「自画自賛」と言われないように、これくらいにしましょう。

「日本の教育にないもの」が、おわかりいただけたでしょうか? 実は、現地校で学んでいる皆さんのお子さんは、その「ないもの」を日々身につけているのです。それが、海外子女の「宝」です。

(2007年8月16日号掲載)

Q. 海外体験が、帰国後の子供の生活にどんな影響を与えるのでしょうか?

 

A. 海外生活は苦労も多いですが帰国後は大きな武器となります。

松本輝彦(INFOE代表)

海外子女のOGたち

先日、20年以上前に海外で育ち、その後日本で生活している女性たちに東京で会いました。その場で、海外生活がその後の人生にどんな影響を与えているか、話を聞く機会がありました。新宿のレストランに夕方集まった7人の女性は、1987年にロサンゼルス補習校(あさひ学園)の高等部を卒業した、私の教え子たちです。

海外生活について

「良かった!」。25年ぶりの再会に興奮した教え子たちの女性トーク(失礼!)がひと段落ついたところで、「アメリカでの高校生の生活はどうだった?」との私の質問に、皆が一斉に口にした言葉です。その言葉をきっかけに、当時の写真も登場して、楽しかった、愉快だった思い出話の共演が続きました。

楽しい時間がひと息ついた時、「先生、あの時はありがとう」と、高校生の時に涙声で私に苦しさを打ち明けた教え子が、その出来事を私に思い出させてくれました。今度は、苦労話のリレーです。現地生活や現地校の学習、帰国子女大学入試の受験準備が大変だったなど、さまざまな出来事が「懐かしい思い出」として語られました。

「良かった」の言葉は、大人になり、母親となった彼女たちが自分の人生を振り返り、海外子女としての生活経験を語った本音だと信じます。楽しい思い出だけではなく、悩み、苦しんだ経験も彼女たちを大きく成長させたことは間違いありません。

帰国後の生活

卒業後25年間(四半世紀!)の生活に話が移りました。彼女たちは全員、補習校卒業後、日本の大学に進学していました。40歳を過ぎた彼女たちは、就職、結婚、子育てなどで非常に多様性に富んだ、個性的な人生を送っていました。最近の日本社会の女性パワーの見本のようでした。英語が話せるアドバンテージだけではなく(変わり者扱いされることもあるようですが)、周囲の純ジャパ(海外体験のない日本人)にはない考え方や感性を活かせる仕事を続けている人が多いようでした。その中には、「転職を重ねて、やっと見つけた」というキャリアウーマンもいました。

また、帰国生同士で結婚している同窓生の名前がどんどん出ました。帰国生同士の結婚理由を、「中学・高校で生活した環境は、アイデンティティー形成に大きく影響する。そして、結婚を考えた時に、共通のアイデンティティーを持った帰国生同士が結婚するのは、一番自然」と分析してくれました。

わが子の教育話

「松本先生はまだ教育の仕事をしているんだ」のひと言から、小学生から中学生の子供を抱えているお母さんを中心に子育て談議に移りました。ご主人の海外駐在を機会に小学生の子供をアメリカの現地校で3年間教育する機会を得たお母さんは、「海外生活中の体験で子供が大きく成長した」との体験談を紹介してくれました。

それを聞いて、「いいわねー。できれば、わが子も海外で育てて、自分と同じような海外体験をさせたい!」との声が多く上がり、海外で育てることのメリットが数多く挙げられました。その理由をまとめると、「確かに、中学・高校の思春期を異文化の中で過ごすのは大変だった。しかし、その体験が後になって、特に日本に帰国後に大きな武器となる。帰国生として入学した大学やその後の就職先での苦労もあったが、日本と外国両方を知ることが、大人になって大きなチャンスを与えてくれる。その恩恵を振り返ってみて、自分の子供にもできたら海外で育つチャンスを与えてやりたい」とのことでした。そして、「ねー、松ちゃん、いい方法教えてよ!」との、私への攻撃が続きました。

子育て、がんばって!

今回の「松ちゃん会」に集まってくれた教え子たちも、皆さんと同じように子育ての真っ最中です。その彼女たちの「良かった」という言葉を信じてください。そして、「お子さんの将来を信じて」、アメリカでの子育て・教育をがんばってください!

(2013年4月1日号掲載)

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