特集「日本vsアメリカ」大学進学徹底比較

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日本とアメリカ、どちらの大学に進学するかは人生の大きな選択。英語力や適性、ビザや就職問題など、さまざまな要素がからみ合い、ケースは個人により千差万別。本特集では、日本とアメリカの大学についての基礎的な予備知識と、両国の大学進学の現状についてまとめてみました。

●本コンテンツは「ライトハウス 2010年5月1日号」に掲載されました。最新の特集「教育のプロに聞く!アメリカ&日本の大学進学事情2016」も合わせてご覧ください。
●アメリカの大学への進学・留学については「アメリカ・ロサンゼルス留学~おすすめ大学・語学学校の最新情報」でも詳しく紹介しています。

「日本vsアメリカ」大学進学比較の概要

 

日本とアメリカの大学進学、仕組みの違いは?

アメリカの大学には、総合大学の4年制大学、2年制のコミュニティーカレッジ、専門大学がある。アメリカ・カリフォルニア州の場合、州立の4年制大学は、博士課程まである研究重視のカリフォルニア大学システム(University of California System:以下UC系)と、修士課程までの実務重視のカリフォルニア州立大学システム(California State University System:CSU系)の2つに分けられる。また、アメリカの私立大学ではスタンフォード大学や南カリフォルニア大学(USC)、カリフォルニア工科大学などの研究大学が有名である。また、コミュニティーカレッジの中にも公立と私立があり、共に2年間で準学士号(Associates Degree)を取得して卒業するか、4年制大学に編入することができる。
 
通常、「大学」「カレッジ」と言えば4年制大学を指すが、アメリカのカレッジは、基本的にリベラルアーツとして4年間教養科目を身に付ける所。学部以下は単位に互換性があり、専門分野を柔軟に変えることも可能だ。アメリカの大学院には、専門家を養成する教育機関として、ロースクール(法科大学院)やビジネススクール(経営大学院)、メディカルスクール(大学院医学研究科)などのプロフェッショナルスクールと、そのほかの分野の大学院がある。
 
一方、日本の大学は、通常1、2年生は教養課程で、3年次から専攻に分かれる。日本とアメリカの教育システムに詳しい教育カウンセラーの松本輝彦さんは、「日本の大学制度は、元々アメリカのシステムを基に作られているのですが、プロフェッショナルスクールのシステムを取り入れる時に、例えば法学部などのように、大学の中に専門課程を入れ込んでしまいました。そのため、アメリカの大学に比べ、教養課程をじっくり学ぶ期間が少ないのです。また最近では、高校の勉強の繰り返しになるということで、1年生から専門課程に入る大学も増えていますが、最初から専門課程に入っても学力が伸びないとして、逆に1、2年のうちは教養課程を重視するという動きも出ています」と語る。
 
実際のところ、現在、日本の大学には大きな変革が起こっている。例えば、少子化による学生の減少、グローバル化を目指した留学生の受け入れ枠拡大など、多様な課題が山積している。「大学の内容のみならず、入試自体も以前とはまったく異なってきていますので、保護者の方はご注意いただきたい」と松本さん。

 

アメリカの大学進学の仕組み

アメリカの大学進学は高校での成績を重視

日本とアメリカ・大学学費の比較(年間)

アメリカの大学には、日本のような入学試験(入試)のシステムはない。大学への入学出願に必要なのは、基本的に高校の成績評価値であるGPA(Grade Point Average)と、SATやACT(American College Test)などの全米統一試験の結果だ。
 
SATとは、一般的には “SAT Reasoning Test” のことを指し、 英語の読み書きと数学の学力を測ったもの。特に、 “SAT Subject Tests” という科目別テストでは、 英語、数学のほか、歴史・社会、科学、語学から3科目を選ぶ。最近 受験者数が増えているACTは、英語、数学、読解、科学の4科目を受けることになっている 。
 
これらの試験は、GPAだけでは学校による格差が大きいため、全米共通の試験で学力を測るのが狙いで、大学に入るための力を調べるテストだ。統一試験の受験は、11年生の1月くらいからその年の12月まで。大学によってどの試験の得点提出が求められるかが違うため、事前に調べる必要がある。私立大学の場合、学業成績以外の業績を積極的に評価するため、エッセイや面接などを重視する学校も多いようだ。
 
「アメリカの大学進学では、基本的に現地校の成績が重要視されます。UC系の場合、12年生の11月末が出願締め切りですが、実際には12年生の成績は大学側には提出されず、10年生と11年生までの成績で決まることになります。なぜなら、12年生の成績は翌年1月末に前期の成績が出されるからです」と松本さん。
 
さらに、UC(カリフォルニア大学)系では2012年より、ELCプログラム(Eligibility of Local Content Program)を導入する予定だ。これは、各高校、または州全体で上位9%の成績を修めた12年生に、UC系への進学を保証するというもの。松本さんは、「このプログラムは、現在の10年生から適用されます。つまり、大学入試は10年生から始まっているということになるわけですから、日頃の勉強を怠らないことがとても重要となります」と注意を呼びかける。なお、同プログラムの実施により、現在UC系への出願時に提出している “Subject Test” 2科目の成績は、提出する必要がなくなる。

 

不況の影響によるアメリカの大学学費が値上げ

世界中が経済不況であえぐ中、アメリカ・カリフォルニア州の財政もこの3年で危機的状態。こうした状況は、果たして学校にどのような影響を与えているのだろう。
 
松本さんによると、10年ほど前は、私立大学の学費が著しく値上がりしていたのに対して、最近は州立大学の値上がりがひどくなっているという。また、州の税金で運営されているUC(カリフォルニア大学)系は、大幅な経費削減が実施され、入学定員数の削減や学費の値上げ、クラス数の削減、奨学金の減額といった影響も出ている。
 
入学定員数の削減により、UC、CSU共に狭き門となっており、その影響で私立大学の競争率も高くなっている。また、入学後も卒業に必要なクラスがなかなか受講できず、卒業までに5、6年もかかるというケースも出ている。
 
学費の値上げに関しては、カリフォルニア州は現在、今後2年間に3段階の授業料値上げを検討している。これにより、2011年秋には現行比で30%アップ、年間1万ドルに値上げされるという。州外生(Out-of-State Students)の場合は、追加授業料として、さらに年間2万ドル以上かかることになるという。だから、保護者としては、大学進学の情報収集と共に学費準備が急務となる(奨学金制度については後述)。
 
ここで気を付けたいのがアメリカでのビザの問題。「親がLビザやEビザなどの駐在員ビザを持っていても、子供は21歳になると親の扶養家族に認められず、本人用の学生ビザ(Fビザ等)を取得する必要が出てきます。その場合、大学受験・進学においては州外生扱いとなるため、年間の授業料だけで3万ドルはかかってしまいます。永住権や市民権を持っていれば、2年目からは州民と見なされるので、保護者の方には大学進学に際して永住権を取るようにすすめています」と松本さんは語る。ちなみに、現在のCSU(カリフォルニア州立大学)系の授業料は、州内在住の生徒で年間約4千ドル、州外からの生徒で約1万4千ドルほどかかっている。
 
また、授業料以外の大学進学にかかる費用、例えば、住居、食事、学用品などの諸経費も考慮に入れておきたい。なかでも、最も大きな費用の差は、住居費で生じる。「生活費などを含めて考えた場合、カリフォルニア州ではなく、少し田舎の他州の大学に進学するのも、選択肢の1つとなります」と松本さん。日米の大学でかかる費用の概算データは、表①を参考にしてほしい。

 

日本の大学進学の仕組み

変わってきた日本の大学の入学審査

さて、アメリカの大学進学と同様、日本の大学進学も大きく様変わりしている。
松本さんによると、日本の私立大学の場合、今年4月入学の学生のうち、入学試験(入試)を受けて入った人は約半分。残りの半分は、推薦枠で入学したという。現在は、一般入試と呼ばれる入学試験のほかに、例えば、高校での成績を添えて学校長の推薦で出願する学校推薦や、学校や学校での成績とは関係なく自分で自己推薦状を提出する個人推薦やAO(Admission Office)入試など、さまざまな推薦入試がある。
 
「少子化に伴い、大学としては何とか学生を確保して生き残っていかなければなりません。推薦枠を拡大するのはそのためです」と松本さんが語るように、卒業生が100人のところに、推薦枠を300人設けるという高校も少なくない。また一方で、学生数は減少しているのに、新設の学部数を増やすという、一見矛盾する傾向も見られるものの、経営難から新入生を受け入れないという学校も出てきている。もちろん新入生を入れなければ、4年後には大学自体が完全閉鎖する危険性もある。
 
そういった深刻な状況の中、地方の公立大学などには医療・福祉関係など、新しいタイプの学部を増設している学校があると共に、この不況下で、学費の高い私立大学への進学志願者が減少し、公立大学や自宅から通える地方の公立大学への入学生が増加する傾向にある。
 
「現在日本では、進学志願者数と大学の募集人数は、ほぼ同じなんです。単純に頭数で考えれば、全員が入学できる”全入時代”。行く先にこだわらなければ、誰でも大学に入れる時代です。とはいえ、日本の大学がどこも入りやすくなっているかと言えば、一概にはそうとは言えません。いわゆる有名私立大学は、ますます狭き門になっているというのが現状です」と松本さん。

帰国子女にとって日本の大学への進学は簡単?

では、帰国子女にとって、日本の大学入試はどうなのだろうか。
 
帰国子女枠は”帰国枠”とも呼ばれ、大学によって定義が異なる場合があるが、一般的には高校卒業前の2年間(11年生と12年生)を日本国外で過ごし、日本で教育を受けていない生徒が対象となる。松本さんは、「日本の大学が帰国子女を受け入れる狙いは、海外での教育で、日本とは異なった資質や能力を身に付けた学生を入学させることで国内生を刺激し、大学の教育効果の向上を図ることです。ですから、帰国子女に対する入学試験・審査は、日本国内受験生向けと大きく異なっています」と語る。
 
帰国子女を対象とした推薦入試の選考は、国私立共、高校での成績と小論文、面接が基本。現地校の成績だけでは日本で判定できないため、面接で人物を評価したり、小論文で日本語能力を判定したりするのである。また、国語(日本語)や英語の試験を課したり、SATやTOEFLの成績の提出を求める大学も見受けられる。
 
松本さんによると、全世界から戻って来る帰国子女は、年間で800~1千人程度。一方、帰国子女を受け入れている大学は全国で400校以上あるという。「つまり、単純計算をすると、1校あたり10人ずつ受け入れるとして、4千人の枠があるということなんです。帰国子女にとって、1人あたり平均4校の枠があることになります」。
 
とは言うものの、実際には、帰国子女をずっと募集しているものの「受験者数ゼロ」という大学は山ほどある。その一方で、特に首都圏の有名私立大学や人気大学に希望者が著しく集中しているのが現状だ。

ブランド志向ではなく何が学びたいかを大学進学の基準に

最近では、帰国子女枠が一般の推薦枠の中に組み込まれる学校も多いため、日本の高校からの志願者と競争することになる。「日本の大学は、帰国子女に国語に関して日本国内生と同じ力を期待しているわけではありません。やはり、帰国子女には英語ができることを期待しているのです。そういった帰国子女が入試で有利になれるのは英語です。まずは英語力をしっかり付けてください。それには、とにかく現地校の勉強をしっかりやることです」と、帰国枠で受験する際も現地校の学習が大切と、松本さんは強調する。
 
大切なのは、英語を受験対策として勉強するのではなく、現地校の勉強を通じて英語で色々な知識を学ぶということ。日本語で学ぶにしろ、英語で学ぶにしろ、肝心な知識や理解力、理論力を身に付けていなければ、大学に入っても苦労する。
 
また、何を学びたいかを明確にして進学することが重要なポイントとなる。「アメリカの大学は、専攻によって学ぶ内容が決まっており、やりたいことで学部を選べますが、日本の場合は曖昧です。1通の願書でどの学部にも行けるという大学もありますし、文学部の中に社会学も史学も入っているというような大学もあります。また、大学によっては新しい学部がどんどん増えているため、何が学べるのか、親も本人もきちんとリサーチし、じっくり検討する必要があります」と松本さん。
 
最も好ましくないのは、”良い”大学に行きたいというブランド志向だと松本さんは指摘する。「何でもいいから、良い所に行きたいという考え方は、あまり好ましくありません。なかには、学びたいことが具体的に決まっている高校生もいますが、大半の高校生は大学についての知識や判断力がありませんから、親の言うことに従わざるを得ないことがあります。しかし、親の持つ価値観だけで子供の将来の可能性を狭めない方が良いでしょう」。

 

日本とアメリカ・大学進学選択のポイント

加速するグローバル化、在米経験を強みに

日本の大学進学の流れ

日本の大学で、盛んに行われているのが教育のグローバル化だ。その1つが、講義の全面英語化。早稲田大学国際教養学部、上智大学国際教養学部、立命館アジア太平洋大学、多摩大学グローバルスタディーズ学部など、英語による授業だけを受けて卒業できる大学・学部が増えている。特に早稲田大学は、2010年9月から政治経済学部と理工学部でも、同様のコースを設けた。
 
「日英両語で読み書きができ、日米の社会生活習慣を身に付けたレベルの高いバイリンガル・バイカルチャーを目指す高校生にとって、両国で活躍できる可能性が広がります」と松本さん。また、加速する少子化の下、日本政府は「留学生30万人計画」を掲げ、大学生・大学院生約300万人の1割を留学生にすることを目指している。
 
一方、アメリカの大学にも色々な動きがある。先述のように、州の財政危機による州立大学の学費高騰、入学定員数の減少、クラス数の削減など、シビアな問題が多発し、また、インドや中国からの技術系留学生が、卒業後アメリカで就職せず、自国に帰っていくという傾向も見られる。
 
「子供がアメリカに残ると決めた時、親は一緒に残れるのか、あるいは、日本に帰ると決めた時、親は日本で仕事があるのかなど、世の中の動向や将来を見据え、家族ぐるみで子供の進路を考えなければなりません。子供の進路で、家族の住む場所が決まる場合もあるのですから」と松本さん。
 
「子供の資質や能力をよく見極めることも親の役割。子供にどんな能力があり、どういう力を付けさせるべきかなどを見抜き、最適な教育機会を与えてあげなくてはなりません。親は、わかる範囲で今できる最大限のことをすべきですし、子供には、時代や場所が変わっても生き残れる言語力や能力、スキルを身に付けてほしいですね」と松本さんは続ける。
 
家庭の事情で渡米した子供にとって、日本とアメリカのどちらが良いかは、人それぞれ。それに関して、最後に松本さんは、こう付け加える。「英語で苦労して、マイノリティーとして生活するのは嫌と日本に帰るお子さんも多いでしょう。しかし、そうしたお子さんも、アメリカでの経験を利点として活かしてほしいと思います。どんな進路を選んでも、視野が広がったという点ではアメリカでの生活が強みになっているはずです。日本にいたら得られなかった貴重な価値観をすでに身に付けているはずですから」

 

アメリカのコミュニティーカレッジからの編入

日本の大学でも受け入れ

アメリカの場合、コミュニティーカレッジで取得した単位を4年制大学に移し、編入できるシステムがある。コミュニティーカレッジの授業料は4年制大学に比べて安いため、コミュニティーカレッジに2年間通学してから、4年制大学に編入・進学する生徒も多い。
 
また、1年生の時点で希望する4年制大学に入れなかったとしても、コミュニティーカレッジを経て、4年制大学に編入できる可能性が生まれてくる場合もある。4年制大学によって、編入に必要な科目が指定されており、またコミュニティーカレッジによっては各大学への編入率が違うため、その辺の情報を事前にきちんと調べておく必要がある。しかし、コミュニティーカレッジは入学選考がなく、授業料が安いという点からも、1つの良い選択肢と言える。
 
一方、日本の大学システムでは、大学入学後の他大学への編入学は非常に難しく、同時に、アメリカのカレッジや4年制大学に在籍する生徒が日本の4年制大学に編入することもきわめて困難だ。実際には、立命館アジア太平洋大学(www.apu.ac.jp)や上智大学(www.sophia.ac.jp)、多摩大学(www.tama.ac.jp)など、英語で授業を行う一部の大学・学部でしか行われていない。
 
そんな中、埼玉県上尾市の聖学院大学(www.seigakuin.jp)では、アメリカのコミュニティーカレッジの単位を認め、編入学できる「特別入学試験・トランスファー制度」を開始した。アメリカの大学で1年以上学んだ学生が、アメリカにいながら出願でき、書類審査と電話面接を受けることができる。講義を日本語で受けられることも大きな特徴だ。
 

日本で進学?それともアメリカ進学?

大学進学&就職・実際のケース

アメリカの大学のキャンパス風景

アメリカに住む日本人家庭の事情はさまざま。どの家庭も、難しい選択を迫られる可能性があるが、その中で実際のケースを紹介しよう。
 
ケース①:父親の転勤で渡米永住権を取り、アメリカの大学に進学
日本で有名私立高校に通っていたA君は、高1の終わりに父親のアメリカ勤務で渡米。2年間現地校に通い、見事UCに進学。元々A君がアメリカの大学進学を希望していたため、父親は渡米後まもなく永住権を取得していた。
A君は、最初はアメリカで就職するつもりだったが、大学時代に考えが変わり、日本での労働経験を経てアメリカに戻って来ることを決心。在学中より日本企業への就職活動を進め、卒業の翌年4月に日本の大企業に就職した。父親は、駐在期間を終えてからも、アメリカに在留している。
 
ケース②:父親の帰任後も母子で残りアメリカ大学へ進学
小学3年生と5年生で渡米してきた兄弟。父親は7年間のアメリカ駐在を経て帰国したが、駐在期間に永住権を取得しており、子供が習得した英語力を活かしたかったことと、日本の高い授業料や下宿代のことを考えると、アメリカの大学に通わせた方が割安と判断、子供たちと母親は、その後8年間アメリカで暮らした。2人共UC系でエンジニアリングを専攻し、卒業後、日本の企業に就職した。次男の就職が決まった時点で、自分の役割を果たしたとして、母親は日本に帰国した。

 

アメリカの大学における奨学金制度

全米統一の判断基準で公平に学資援助を受給

援助金(Financial Aid)の分類

さて、アメリカの大学を志望する子供を持つ親の中には、漠然と学費に不安を抱いている人は多いはず。そこで、気になる学費とその援助について考えてみよう。
 
現在、学費(授業料、教材費、寮費、交通費等を含めた大学進学にかかる費用)は、私立大学で年間平均4~5万ドル、先述したように州立大学も、ここ数年の値上がりが著しく、1万ドル以上かかっている。そんななか、「お子さんが市民権や永住権を持っていれば、学資援助(Financial Aid)を受けることができます」と話すのは、学費対策のセミナーやコンサルティングを提供するミッドタウンプランニングの代表、福士俊輔さん。福士さんによると、日本と違ってアメリカには、学資援助に全米共通のシステムがあり、アメリカ連邦政府、州、そして大学から奨学金や補助金、低金利のローンが出るという。しかし、このFinancial Aidについて勘違いしている人が多くいるため、「成績が良くなければもらえない」「我が家は高収入だからもらえない」と最初から諦めている人が多いと、福士さんは危惧している。
 
それでは、実際にどのような基準で援助金が出るのだろうか。まず、学資援助には、学生の能力に基づいて供与される「Merit-based Aid」(メリット・ベース)と、学生の家庭の支払い能力に基づいて供与される「Need-based Aid」(ニード・ベース)の2つのタイプがある。前者は、学校や団体ごとに基準が定められているため対策が立てにくく、支給金額も対象者も少ない。一方、後者はアメリカ連邦政府、州政府、大学を財源としているため資金源が多く、また多くの大学で共通のルール・計算式が使われているため基準が明確で、対策が立てやすいという。従って、福士さんは、この「Need-based Aid」に申請することをすすめている。
 
そのほかの援助金には、返す必要のない(Gift Aid)「奨学金(Scholarship)」と「補助金(Grant)」、返す必要のある(Self Help)には、卒業まで返済する必要のない「低金利ローン(Preferred Loan)」と、学生本人が在学中に働くことで非課税の報酬を得られる「ワークスタディー(Work Study)」などが存在する。
 
では、この援助金の判断基準となる”家庭の支払い能力(別名ニード)”は、どのように決められているのだろう。その家庭が高所得か低所得かは、一概に決めることは困難だ。そこで公平を期するため、全米共通の2通りの計算式に基づいて判断される。1つは連邦政府基準の「Federal Formula」で、Tax Return(税申告書)に記載されている家族控除(Exemption)の人数や収入(Adjusted Gross Income)、預金の残高などの要素が考慮される。もう1つが私立大学でよく使われるCollege Board基準の「Institutional Formula」。これは、さらに細かく、持ち家の資産価値、生命保険キャッシュ残高、ローン残高、自営業であればビジネスの資産価値などの情報が必要となる。
 
これらの計算式を基に、大学の学費に対する1年間の支払い能力を示す数値が、家族負担(Family Contribution:FC)として表される。つまり、この算出されたFCの金額だけ、その家庭では学費を払う能力があると判断されるということだ。

援助金の申請は無料、大学選択の1つの指標に

通常、学資援助の申請プロセスは、連邦政府に「FAFSA」という申請書を提出することからスタートする。私立大学によっては、「CSS/Profile」の登録・提出を事前に要求するところもある。受付開始は12年生の年の1月1日から。「FCを実際に計算してみることによって、学資援助をもらえるかどうか判断すると良いでしょう。FAFSAは申請料が無料、CSSは16ドルなので、申請してみる価値はあるはずです」と福士さん。
 
申請したデータを基に連邦政府がFCを算出し、その情報は申請書に記入された志望大学に直接送られる。そして、めでたく合格した大学から、合格通知と一緒に援助の受給額を明示した手紙(Award Letter)が届き、そこにはどこからの奨学金・助成金・ローンがそれぞれ何パーセントで、いくら受けられるかが具体的に記されている。
 
だが、大学選択の際は、見た目の金額だけではなく、どの大学がどの程度の学資援助を支給するかを事前に調査し、念頭に入れることが大切と福士さんは語る。なぜなら、実はアメリカでは州立大学より安く私立大学に入れるケースもあるからなのだ。その理由を、福士さんはこう語る。
 
「卒業生の寄付などで資金の豊かな私立大学には、ハーバード大学のように学費の100%を支給してくれる学校も多く存在します。もちろん、私立でも資金が乏しい大学もありますが、一般的に州立大学は私立大学よりも資金を持っていないので、私立大学に行く方が州立大学に行くよりも安くつくということが起こりうるのです」。
 
気を付けなければならないのが、子供が志望する大学に行かせたいという親心から、学資援助金が出ない学校に入学させてしまうこと。ハーバード大学やプリンストン大学のような一流校は学資援助が多く出る上、卒業生の人脈も広く、高収入の就職先が待っている可能性がある。しかし、そういったメリットに乏しい大学に、借金を抱えながら子供を無理して入学させたとしても、卒業後にどれほどの見返りが得られるのか定かではない。そうした〝投資対効果〟を家族ぐるみで話し合い、冷静に判断することが大切だと福士さんは強調している。

 

帰国子女の進学状況

英語の壁や親の帰任で日本で進学する傾向が主流

近年の帰国生大学入試志望者数・合格者数の推移

ここからは、日本の大学進学状況について考えてみたい。帰国子女の日本の大学進学の現状に関して、日本で教育と学校経営に関するコンサルティングを提供する、コアネットの宮本智彰さんと、受験生を指導する進学塾enaロサンゼルス校の高校部責任者である、片野孝一さんに話を聞いた。
 
現在、アメリカ在住の帰国子女が、進学に伴い帰国する傾向にあるのかどうかについて、宮本さんはこう話す。「一概には言えませんが、ここ2~3年は日本に戻る傾向が高いようです。この不況で、どの企業も約3分の1の社員が日本に戻されており、実際、一昨年と昨年の中学入試における帰国受験生がかなり増えていますので、恐らく大学入試においても同じ現象が起きていると思われます」。
 
さて、最終学年を含め2年以上海外の高校に在籍していれば受験できる帰国枠は、魅力的なのだろうか。これに対し、片野さんはこう語る。「ロサンゼルス近郊に加え、全米各地の生徒に聞き取り調査をしたところ、日本の大学を選択する主な理由として、『家族が帰る』『英語力が不足している』『アメリカは学費が高い』『日本で就職したい』『日本の方が入学してから楽』という声が挙がりました。ただし、『大学院はアメリカに戻って来たい』『仕事はアメリカでしたい』という生徒たちもいました」。

大学・学部によっては帰国枠撤廃の学校も

先述したように、現在、日本全国に773校ある4年制大学のうち、400校余りが帰国子女を受け入れている。だが、大学によっては従来の帰国枠から、自己推薦・AO入試へと制度的に統合させる動きや、学部によって募集廃止をする動きがあると片野さんは注意を促す。
 
「例えば、立教大学では2009年度入試から社会学部、観光学部など4学部で帰国枠を撤廃。10年度入試からは、さらに経済学部と理学部での募集を廃止しました。法政大学でも、10年度入試から社会学部で廃止しています」。
 
一方、青山学院大学では、2009年度入試から社会情報学部で帰国生の受け入れを開始するなど、新学部が募集開始することもある。いずれにせよ、大学のウェブサイトなどで入試情報を確認することが必要だ。
 
それでは、帰国枠の難易度はどうだろうか。学部レベルで考えた場合、年によって難易度が上下するため、大学の難易度を一概に説明できないと片野さんは言う。例えば学習院大学では、2008年度入試の法学部での帰国枠は、志望者数82人中、合格者が50人だったが、2009年度入試では、志望者81人中、合格者は14名と激減し、難化した。一方、同年の経済学部では、志望者52人中、合格者は23人だったが、実際に受験した生徒数が23人だったため全員合格。かなりの易化となった。また、他の私大の合否が判明した後の11月下旬に入試がある大学では、第1希望の大学に合格した生徒が受験しないため、見かけよりも実は競争率が下がるとのこと。

大学進学を決める際には、大学合格の先にある将来設定を立てるべき

実際の教育現場で、帰国子女にどのような進路指導が行われているのだろう。「大学進学がゴールではなく、その先の就職を考慮すべきです。どのような仕事がしたいのか、そのためにはどの大学のどの学部を選ぶことがベストなのかを考えるのです。日本の中高一どちらに進む?◎日米大学・徹底比較貫校では、早い段階からキャリア教育を開始し、生徒に将来の目標を設定させ、目標達成のためのベストの大学を考えさせる進路指導を行う学校が増えているようです」と宮本さんは説明する。
 
片野さんも次のように語る。「何を学びたいかは、学部で選ぶのが最も自然だと思います。同時に世の中の動きを踏まえ、就職も視野に入れて決めるべきでしょう。ただ、同じ学部名・学科名であっても、大学によって学ぶ内容に差異があるため、事前の比較検討は十分に行ってください」。
 
しかし、なかには進学の願望が希薄な生徒もいると言う。「もしそうなら、早慶上智に目標を設定するよう指導しています。それで実際に学力が身に付いてくると、本当にそこを目指す意欲が湧き、難関国立大学も射程に入れ始める生徒も現れてきます」。
 
それでは最後に、入試対策についてのポイントを片野さんに解説してもらった。
 
●英語エッセイ
母語干渉による誤用を見抜くことができ、日英言語に習熟した人からの添削指導を受けるのがベスト
 
●英文法
現地校に、半ば放り込まれた形で入った帰国生は、体系的な文法指導を受けていないため、英文法の知識が断片的。日本で高校英文法の文法項目を一通り学習しておくことが望ましい
 
●英語長文問題・国語・小論文
世界規模での出題が近年増加傾向にある。そのため、国連のウェブサイトなどで世界の出来事を把握する。また、日本が世界の諸問題に対してどう対応しようとしているのか、文部科学省のウェブサイトなどで関連記事を読み、有用情報を集約しておく。そうすることで、時代を象徴する用語学習や背景知識の拡大と深化につながる

 

新卒者の日米就職事情

求められているのはグローバルな視点

日米どちらかの大学進学を検討する際、その先の就職まで視野に入れて考えることも重要だ。日米での新卒者の就職について、日米に拠点を持つ人材総合サービス会社のインテレッセ・インターナショナル(以下、インテレッセ)の菊池正博さんと、ディスコインターナショナル(以下、ディスコ)の横田梢さんに聞いた。
 
「日米共に、就職には本人の持つ語学力や専門知識・スキルといった”内的要因”、労働許可やその時々の景気動向といった”外的要因”が就職状況を左右します」と言うのはインテレッセの菊池さん。例えば、日本では大企業や外資系企業のほか、世界に拠点を広げている中小企業も、語学力があり海外で勉学をした人や勤務経験者を求めているという。「特に日本の製造業は海外にオフィスがある企業が多いので、広い視野を持った人が求められています」と、菊池さんは付け加える。
 
また、ディスコでは海外で学ぶ日本人留学生を始めとする日本語・英語のバイリンガルを対象に、毎年秋にボストンキャリアフォーラムを行っているが、「例年出展している金融、コンサルティング、IT、会計のほか、近年では業界・規模共にバラエティーに富んだ企業の出展が顕著になってきました」と横田さん。「企業は良い人材であれば日本内外問わず採用します。企業は基本として日本国内学生と同じ資質を求めていますが、プラスアルファとして海外で学ぶ学生からはバイリンガル、自立精神やグローバルな視点を求めています」。
 
では、アメリカの大学卒業後、アメリカで就職する場合はどうだろう。菊池さんは「日系企業でも、既にローカライゼーション化している企業では、日本語ができるということよりも、どんなスキルや能力があるかが重要視されます。逆に、日本から進出してきたばかりの企業やローカライゼーションの過程にある企業は、日本の本社とのリエゾン的な仕事も多く、日本語の読み書き会話ができる人が重宝されるようです。日系企業以外では、日本をターゲットとしている会社なら日本語ができることが強みになりますが、当然ながら日常業務は英語で行われるため、日常会話もさることながらビジネスレベルで通用する英語力が必要です」。

日米で大きく異なる新卒の採用方法

日米で就職活動をするにあたって、横田さんは採用のスタイルの違いについて、こう言及する。「日本では、新卒の採用活動は大学3年生の秋に開始されます。卒業年の4月入社が新卒採用の応募条件となりますので、日本の学生はその流れに合わせて一斉に就職活動をするわけです」。とは言え、アメリカの大学で学ぶ者が不利になるわけではないと横田さん。「海外からの学生を積極的に採用している企業なら、一般の応募を締め切った後でも電話・オンラインによる面接を行う可能性があります。また、夏休みや冬休みを利用して日本で就職活動をする方法もあります」。
 
逆に、アメリカでの採用活動は、日本のように一斉に新卒を採用するということはなく、ポジションに空きが出るたびに募集をかけるというスタイルが多い。そのため、卒業後、就職先が決まっていないのも珍しいことではない。「金融業界など一部の企業では、新卒を一斉採用する際、大学内でオンキャンパス・リクルーティングを行う所もありますが、基本的にアメリカでは自分から積極的に動いて探していかなければなりません」と横田さん。
 
また、アメリカでは、新卒であってもスキルの有無が重視される。「大学の専攻で学んだ知識が、戦力として使えることが望ましいですね。もちろん、インターンシップをすることも強みです」と、横田さんは説明する。逆に日本は、技術職のように大学で学んだことを活かせるポジションでの採用もあるが、専攻に関わらず、入社後の可能性に期待する”ポテンシャル採用”が一般的だ。

自己分析をしつつ世の中の動き見据えて

現在日本の有効求人倍率は0.47倍、正社員有効求人倍率に至っては0.29倍(厚生労働省2010年2月発表)と、まさに厳しい就職氷河期の最中にある。また、終身雇用制、年功序列が崩壊し、能力・実績主義へと移行していることや、第2新卒、中途採用、派遣社員など、日本の中でも雇用形態が多様化してきていることにも注目する必要がある。
 
菊池さんは、「この企業に入ったから一生安心という考えは、もう日本でも通用しません。また、世界の変化が加速化しており、5年後、10年後にどの業界が繁栄しているのか、予測がつきにくくなってきているのも事実です」と指摘すると共に、まずは自分が何をやりたいか、しっかり自己分析をすることが大事だと強調する。大学選びもまずそこから始め、その上で世の中の動きを注意深くキャッチしながら、自分の活躍できる場を求めると良いと言う。
 
また横田さんは、「企業は『一緒に働きたい』と思う人を選びます。日米どちらの大学に進むにしても、なぜその大学・専攻を選び、なぜこの会社を選んだかをじっくり考え、説明できることが重要です」と言う。
 
最後に菊池さんは、こう語る。「人生の一時でも海外経験がある人は、日本では学べない経験を積んだ分、視野が広く、柔軟性もあると思います。企業の採用担当者も、海外経験のある人は何かプラスのものを持っているだろうと考えますので、その点をうまくアピールできると良いと思います」。

【取材協力】

松本輝彦(教育カウンセラー)
海外子女教育情報センター
www.infoe.com
 
福士俊輔
Midtown Planning
www.midtownplanning.com
 
宮本智彰
コアネット
www.core-net.net
 
片野孝一
enaロサンゼルス校
www.ena.co.jp
 
菊池正博
interesse international inc.
www.iiicareer.com
 
横田梢
DISCO International, Inc.
www.careerforum.net
 
(2010年5月1日号掲載)

●本コンテンツは「ライトハウス 2010年5月1日号」に掲載されました。最新の特集「教育のプロに聞く!アメリカ&日本の大学進学事情2016」も合わせてご覧ください。
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