これからどうなる? カリフォルニア財政危機を考える

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世界中で不況の嵐が吹き荒れる中、カリフォルニア州の財政は危機的状態にある。そのニュースは日々メディアを賑わし、深刻な影響が各方面から伝えられている。そこで、4人の識者の話を交えながら、その原因と現状を分析。公共サービスや雇用、教育など、一般の日常生活の中で現れる影響を考察し、今後の展望を考える。

(ライトハウス・ロサンゼルス版 2009年10月1日号掲載)

 

経済危機の概説

カリフォルニアで今、何が起きている?

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カリフォルニア州アーノルド・シュワルツェネッガー知事は、今年1月、年頭の施政方針演説で、今後の18カ月間で州財政が420億ドルの赤字になる見通しであることを明らかにし、「2月中にも州の金庫は空っぽになり、支払い不能に陥る」と財政非常事態を宣言した。さらに、州会計監査官が35億ドルの支払いを30日間遅延すると発表。それ以降、カリフォルニア州が破産するのでは?という話題がテレビや新聞で一斉に報道された。かつて、誰もがあこがれた「黄金州カリフォルニア」に、一体何が起きているのだろうか。
 
実際に州が法的に破産することはなく、日本でいう財政再建団体指定などの措置も適用されない(ちなみに、市は状況が異なり、サンフランシスコ北部に位置するバレホ市は、赤字体質にサブプライム問題が決定打となり、連邦破産法第9条[チャプター9]を申請、破綻した)。
 
また、州財政は赤字を見込んで予算を組むことができない。つまり、歳入と歳出が一致する「均衡予算」が義務付けられているため、連邦政府のような赤字会計自体が許されないのだ。
 
それなら、歳入を増やし、歳出を減らせばいいと、さまざまな対策が講じられてきた。例えば、州職員に月3回の無給休暇を取得させたり、1日10時間・週4日の勤務を命じたり、残業・休日手当を実質的に廃止するなどがそれだ。これにより、職員は10%近い給与減を強いられているという。これに加え、DMVなど州運営のサービス機関は、金曜日休業が当然となりつつある。また、州からの予算を財源とする教育現場への打撃も深刻で、公立学校の教職員2万6千人が解雇通告を受け取った。
 
州議会では予算見直しが検討されているものの、各種福祉プログラムへの予算削減を最小限に留めようとする民主党と、一切の税率アップを拒否する共和党が真っ向から対立、予算審議は難航している。業を煮やしたシュワルツェネッガー知事が160億ドルの予算削減と地方自治体からの借り入れを提案するが、地方自治体からの借り入れには両党とも猛反対。特別予算の一部を一般予算へ移行する予算案も、住民投票で否決されてしまった。
 
そして、ついに7月、州政府の取引業者や税還付を受ける州民や助成金を交付される各自治体に対し、IOUと呼ばれる「期限付き借用書」が発行されるという珍事が起こった。実際、州税の還付にストップがかかった州民も多く見られる。IOUの総発行数は実に32万7千件で、総額20億ドルにも上るというから驚きだ。

カリフォルニア州財政危機 これまでの経緯

2008年9月23日
3カ月遅れでシュワルツェネッガー知事が予算案に調印
◆ 大幅な予算不足が発覚。見直しが検討されるものの、民主党と共和党が対立
 
11月
知事が州職員への要請書を提出
月1日の無給休暇取得、休日手当の実質廃止などが盛り込まれる
 
12月
知事が州職員へさらに要請を提出
◆ 月2回の無給休暇の義務化と、レイオフを含む10%の経費削減要求
 
2009年2月
州サービスの隔週金曜日休業を開始カリフォルニア州会計監査官ジョン・チャン氏が、35億ドルの支払いを30日間遅延発表
 
4月
州消費税を1%引き上げ
 
5月
自動車登録料が0.65%から1.15%へアップ
 
7月
州職員の月3回無給休暇取得を要請
 
7月2日
州政府によるIOU発行開始
5日後、各銀行がIOU受け入れ中止を発表
 
7月24日
1500万ドル削減の予算案を可決
◆09年9月のIOU発行停止。既に発行されたIOU総数は32万7000で、総額20億ドルと発表

財政難の要因・分析

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「州財政の危機は、この不景気に起因する州税の落ち込みが原因」と語る松田氏

景気後退による歳入の減少

今回の財政難の第一の要因は、2006年からの住宅価格降下とサブプライムローン問題の勃発に加え、昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻に端を発した世界同時株安で、一気に景気が落ち込んだことによる部分が大きい。
 
「カリフォルニア州の歳入の7割は、住民が支払う所得税、消費税、事業税だと言われています。昨年末からの急激な景気後退で、給与カット、人員削減、事業縮小が本格的に進んだことにより、これらの税収が大幅に減っていることは間違いありません」と、ユニオンバンク経済調査部長の松田慶太郎氏は解説する。
 
また、ロサンゼルス郡経済開発公社(LAEDC)のエコノミスト、ジャック・カイザー氏は、「カリフォルニア州は、財源を個人所得税に頼り過ぎています。景気が良い時は、州は十分な財源を確保できますが、景気が悪くなった途端、財政難に陥ってしまいます。ですから、今回の景気後退で、急激に歳入が落ちてしまったのです。今後もしばらくこの状態が続き、回復にはもう数年かかるであろうと、私たちは予測しています」と語り、前出の松田氏と同意見だ。

 

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「今後、カリフォルニア州の優れたリーダー選ぶ州民の確かな目が重要」と語るカイザー氏

09年前半に見込んだ赤字額は、240億ドルとも、260億ドルとも言われている。少なく見積もっても、この額の7割近くが州民が払う税金に匹敵することを見ても、景気の善し悪しが州財政に与える影響の大きさをうかがい知れる。
 
また、「春の確定申告前は、州の財政が毎年苦しくなる傾向があります」と松田氏が説明するように、季節的要因と景気後退による歳入激減が重なり、財政危機に拍車がかかったというわけだ。

州財政に見られる構造的欠陥

松田氏は、景気後退のみならず、州の財政難には色んな要因がからみ合っていると指摘する。「風邪をひいた場合、直接原因はウイルス感染ですが、不摂生のため免疫力が落ちていたり、酔っぱらって寒い中で寝てしまったなど、風邪をひきやすい状況にも起因します。それと同じことが、カリフォルニアにも言えるのです」。つまり、カリフォルニア州は慢性的に財政難に陥りやすい体質を抱えているようなのだ。その要因を、それぞれ分析していきたい。

問題要因1:複雑な州憲法でがんじがらめ

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カリフォルニア州の憲法は、これまでに500回以上も改訂されており、世界的にも複雑なものである。その理由は、住民投票によって決議されるプロポジション(住民提議)が、毎年のように書き加えられることによる。そして、何百と存在するプロポジションの中には、その財源に合わせて用途を特定するものが数多くあるのだ。例えば、02年に可決されたプロポジション42では、「ガソリン税による歳入は道路や交通網整備だけにしか使えない」と定めている。
 
このように、特定の財源による特別予算は十分確保されてはいるものの、その用途が州憲法で定められているため、非常事態が起こっても議会で用途を変更することができない。元来、これらの条例は住民の意志に基づき、歳出を決定するという民主主義を反映するものだが、この度の財政難などの危機的状況では、州議会の手足を縛ってしまう原因となってしまう。結果、特別会計には十分予算があるものの、それを一般会計に補填することが法律上できない事態を招いてしまう。

問題要因2:共和・民主党共に相容れない州議会

カリフォルニア州は貧富の差が大きく、それが州財政に大きく影響を与えていると松田氏は分析している。「カリフォルニア州議会は、他州に比べ、共和党は超保守的、民主党は超リベラルと、お互いに相容れない体質があり、これは貧富の差が激しい州経済を反映しています。今回の財政危機にあたっても、共和党は福祉プログラムへの予算削減や事務効率を良くする解決案を主張する一方、民主党は富裕層への増税と貧困層のためのセーフティーネットを維持することを重視し、両者共に譲りませんでした。またカリフォルニア州は、議会の3分の2の賛成がなければ法案が通らない「スーパーマジョリティー制」を、予算と増税の両方に適用している全米で唯一の州です。そのため、過半数を占める民主党も、共和党の賛同なしには赤字を埋める手を打つことができません。危機的状態では、両党の思想の大幅なズレとコミュニケーションの悪さが、対応を遅らせる原因となるのです」。
 
州議会議員の背景、支持層、思想の違いがもたらす州議会の二極化が、財政でもちぐはぐな結果を生んでいると言えるようだ。

問題要因3:強い経済への過信と長期ビジョンの欠如

色々要因があるとは言え、不景気にそれほど影響を受けていないエンターテインメント業界やテクノロジー業界の中枢を担う州であり、米国経済の8分の1を占めるカリフォルニアが、いとも簡単に財政難に陥ることには、少々疑問が残る。
 
「カリフォルニア州には、たくさんの長所がありますし、経済もとても強い。しかし、それに頼るだけではなく、政治家は将来をきちんと見据えた戦略を立てると共に、何よりも、優れたリーダーを選ぶ住民の賢い選択が絶対必要です」とカイザー氏は語る。
 
また、松田氏は「実は、01年から03年にかけても、カリフォルニア州の財政危機がありました。まさしく今回は、同じ問題が起こったわけです。今後また同じことを繰り返さないよう、構造的解決が求められています」と説明している。
 
カリフォルニア州は、景気の良い時に余剰金を積み立てたり、構造的なムダを省くなど、将来を見据えた長期的な財政計画を実施せず、財政難を一時的にしのごうとする傾向がある。また、景気回復によってできた余剰金はすぐに選挙区が喜ぶプログラムに使ってしまうなど、政治家の悪習がはびこっているのも事実のようだ。

問題要因4:投資家がソッポを向く信頼性の低下

前述のように、州財政は「均衡予算」を原則としている。そのため、1度組まれた予算は、通常月々の歳入と歳出を反映させながら1年半先まで予測し、修正を重ねていかなければならない。
 
しかし、実質的な短期の赤字補填として、州債を発行し乗り切ることは可能である。だが、カリフォルニア州のクレジットレーティング(格付け)は全米で最低。そのためカリフォルニア州債へのリスク感は高く、投資家たちからソッポを向かれる傾向が強い。このことから、州債の発行で危機を乗り切るのは、実質的には難しいと言わざるを得ない。松田氏も、「いざと言う時のために、投資家に魅力的な州になる必要があります」と語っている。

財政危機は知事の失策?

ご存知の通り、カリフォルニア州政府で最高権限を持つのが州知事である。それだけに、今回の財政危機が知事の失策として考えられてしまいがちだが、実はそうとも言い切れない。
 
「予算案や法案を可決するのはあくまでも州議会で、知事は最終決議案に調印したり、拒否権を発動したりと、レフリー的な存在意義を持っています。シュワルツェネッガー知事は、政界外からやって来た、いわゆるアウトサイダー。そのため、(財政難を招かないための)構造改革をしてくれると大きく期待されていました。しかし、かえってアウトサイダーであるがゆえに難しいところが、色々あったようです」と松田氏は話す。
 
今回の財政危機にあたって、シュワルツェネッガー知事は各地で、「カリフォルニア州は危機に瀕している」「公共サービスが止まっては州民が困る」「議会で早く解決案を出してほしい」と演説し、州議会に圧力をかけることに徹していた。「シュワルツェネッガー知事の功績としては、全米および世界に出て、カリフォルニア州への投資や貿易を推奨したことでしょう。何と言っても、世界一有名な州知事ですからね。そういう意味では、プラスの効果があったとは思います」と松田氏。\
 
さらに、シュワルツェネッガー知事は、選挙区や任期の見直しにも積極的に取り組んできた。「カリフォルニアの選挙区の区割りは、共和党・民主党の支持エリアに合わせてねじ曲げられており、結果が固定化されています。これでは公平な選挙はできず、州議会が硬直化してしまいます。区割りをやり直すことができれば、両党共に柔軟性のある政治家が出てくると考えられます。また、任期が2期8年に限られるため構造改革がままならず、新人議員だけでまた一から議論しなければならないという問題もあるのです」。

カリフォルニア州の財源である税収にまつわるデータ

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カリフォルニア州は他州に比べて、消費税・所得税共に高水準である。連邦税、州税の総額も全米で第1位。人口が全米で最も多いだけに当然ではあるが、州民の税金は、政府へ十分貢献している。
 
2007年度カリフォルニア州の税収総額
●連邦税総額:3,140億ドル
※ 全米1位。アメリカ全体2兆2740億ドルの13.8%(全体の1/8)で、2位のニューヨーク州の1.4倍
●州税総額:1147億ドル
※全米1位。アメリカ全体7498億ドルの15%で、ニューヨーク州の2倍
 
各州における税率の比較
●消費税(州税のみ)
1位:カリフォルニア(8.25%)
2位: テネシー、インディアナ、ミシシッピ、オハイオ、ニュージャージー、ロードアイランド(7%)
3位:ワシントン、ミネソタ、ネバダ(6.5%)
 
●消費税(市・郡税を含めた最高基準)
1位:イリノイ(11.5%)
2位:アリゾナ(10.6%)
3位:カリフォルニア(10.25%)
 
●州所得税率
1位:ハワイ(11%)
2位:カリフォルニア(9.3%) (4万4814ドル以上の所得がある場合)
※所得税のない州:アラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、テキサス、ワシントン、ワイオミング(ニューハンプシャーとテネシーは配当・利息収入に限り課税)
 
●連邦税や市税と合わせた税率
1位:ニューヨーク市(45.50%)
2位:カリフォルニア州内(約45.3%)
3位:バーモント州内(約44.5%)
※最低水準は、シアトル、ヒューストン、ダラス、マイアミ(35%)

現状~一般市民への影響

財政危機脱出!? 大幅減の補正予算

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7月下旬、補正予算案が州議会を通過し、シュワルツェネッガー知事が承認した。総額260億ドルと言われる赤字がひとまず予算上では埋められたわけだが、その内容は一体どんなものだろうか。
 
「補正予算は大別すると、①州憲法解釈の見直し、特別予算の一部を一般予算へ充てるなどの処置と事務の効率化、②各種プログラムの見直し、縮小による予算削減を中心とした歳出削減、③州サービスの手数料の値上げによる歳入増、という3つの柱から成っています」と松田氏は解説する。
 
この中で、特に私たち一般市民に最も影響を及ぼすのが、各種手数料の値上げだろう。わかりやすいところでは、今年4月から州消費税が1%上昇、5月には自動車登録料も価格の0.65%から1.15%へ引き上げられた。

 

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「財政危機は、コミュニティーだけでなく、治安の悪化
につながるかも知れません」と語る水谷氏

ジェトロ・ロサンゼルスの調査部長、水谷剛氏は、「今後、ビジネス関連の税金が引き上げられることになれば、日系企業へ大きな影響を与えることになります」と懸念を示している。
 
さらに、補正予算にからむ増税や地方自治体への予算削減は、州経済の回復にも悪影響をもたらす可能性があるという。「世界的な不況の中、連邦政府が色んな景気刺激策を実施しているにもかかわらず、それらを打ち消すような州の政策が、カリフォルニア経済の回復を遅らせることが心配されます」と水谷氏は続ける。
 
またカイザー氏は、州の財政難は、州内での新たなビジネスチャンス、さらにはカリフォルニア経済の発展の手かせ足かせになると説明する。「財政難による各種手数料や税率の引き上げにより、他州からカリフォルニアにビジネス展開しようとする企業が躊躇してしまい、計画を白紙に戻しています。カリフォルニア州は、もっとビジネスをしやすい環境を提供しないといけません」。

サービス低下。治安を危ぶむ声も

何と言っても、直接被害を被っているのが、カリフォルニア州の職員たちと各種サービスを必要としている州民だ。前述のように、州職員には給与10%減に匹敵する、月3日の無給休暇取得が義務付けられ、DMVを始め州関連サービスは、金曜日の休業が当たり前となってしまった。
 
消防、警察、医療など、緊急を要する分野への予算は削減しないとするものの、地方自治体へ充てられる予算自体が減っているため、ロサンゼルス市などでは消防への予算削減を決定している。「今回のロサンゼルスの山火事で、緊急事態に対応する予算が年度末を待たずして底をつく可能性があります」と水谷氏は指摘する。松田氏も「市や郡が提供する公共サービスでも、その財源は州政府に頼っている場合が多くあります。地方公共団体も財政的に苦しいので、地域内の公園の清掃スタッフがいなくなったり、市民が集うコミュニティーセンターが閉鎖されたりという変化が起きるかもしれません」と語る。
 
また、刑務所運営の経費削減のため、刑期を短縮し、囚人の数を減らそうという動きもある。「本来は刑期中のため刑務所にいるはずの囚人が釈放されることになれば、治安面への影響も心配されます」と水谷氏。17万人といわれる囚人に費やす年間経費が100億ドルというものの、州民の安全な暮らしと天秤にかけるのはいかがなものかと疑問が残る。

未来を担う若者たちにも負担

「州内のほぼすべての分野で予算削減が実施され、基本的に影響のない分野はありません。なかでも、特に打撃を受けているのが幼稚園から高校、コミュニティーカレッジ、そして州立大学などの教育関連です」とカイザー氏は力説する。
 
幼稚園からコミュニティーカレッジへの予算は、現況の1割強が削減されるという厳しい現実に直面している。生徒数が増えたものの教職員が減ったクラスでは、高い質の授業を遂行することがますます難しくなる。なかには学校の統廃合が進み、遠方の学校に通わなければならない子供たちも現れてきた。特に低所得者層への歪みが大きいと、松田氏は指摘する。

州立大学の現状

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大幅な予算削減で多大な影響を受けているのが教育現場。その中でも州立大学(California State University、以下CSU)への打撃は著しい。1960年、「すべての子供に高等教育を」をスローガンにまとめられた「California Master Plan of Higher Education 1960」に逆行する事態が次々起きている。
 
CSUのプロフィールと共に、今、学生や大学職員が何に苦しんでいるのかデータをまとめた。
 
CSUプロフィール(www.calstate.edu)
●キャンパス数:23
●学生数:45万人
●教職員数:4万7000人
●年間平均卒業生数:8万2000人
●学生がコミュニティーのために奉仕する時間数:3500万時間
●卒業生が携わる仕事数:20万7000件
●卒業生が従事する州の仕事:看護婦、エンジニア、IT、教師、警察官、建築家、その他専門職
●1年間に及ぼす経済効果:136億ドル
 
CSUへの経費削減による影響
●今年度の経費削減:5840億ドル
●学費上昇率:32%
●職員の給与減少率:9.23%
●資格があるにもかかわらず、入学できなかった学生数(2008年):1万人
●09年、10年に受け入れ拒否される学生数(コミュニティーカレッジからの転入生を含む):4万人
 
そのほかの影響
●経費削減のため、何千ものクラスが閉講となる
●1学期に取得可能なクラス数が減り、卒業までの時間が長くなる
●教職員が月2回の無給休暇を余儀なくされる
●学生は高い学費のために仕事量を増やさなければならない
●教職員の労働時間縮小のため、学生が十分なサポートを得られない

協力:テリー・ヤマダ教授

 

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「政府の援助がなければ、学生の在学期間が伸び、勉強時間も減ります」と懸念するテリー・ヤマダ教授

もちろん州立大学も例外ではない。州政府からの奨学金や助成金がぐんと減るだけではなく、1人当たり平均1千ドル上乗せという学費の高騰に、親や学生たちは苦しんでいる。「これまで高等教育を受けることができていた若者たちも、経済的事情からそれを断念しなければならないケースもあるでしょうね」と松田氏は心配する。
 
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で教鞭を執るテリー・ヤマダ教授は、この状況では、年間に受け入れる学生数を極端に減らさなければならないと指摘している。「08年度、カリフォルニア州立大学(CSU)は、例年なら入学が許可されたはずの学生1万人を受け入れることができませんでした。09年、10年は、さらにその数が増えて、合わせて4万人に達するだろうと言われています。やる気のあるすべての子供たちに高等教育の機会を与えようとする計画『California Master Plan of Higher Education 1960』の約束は、一体どこへ行ってしまったのでしょうか。CSUは、全米でも広く開かれた教育を実現してきました。しかし、残念ながらもうその力はないようです」と失望を隠せない。
 
多くのクラスが閉講し、教職員の勤務時間が減らされる今、学生への負担は経済的なものばかりではない。「開講しているクラスが減れば、卒業までの時間が長くなることになります。すると学生たちは、学費を稼ぐためにアルバイトなどの仕事を増やさなければならず、逆に勉強の時間が減ってしまいます。また私たち教職員も、〝より働かないこと〞を要請される。そんな状況で、彼らがきちんと学べているのか、彼らの将来が輝かしいものであるのか、とても心配でなりません」とヤマダ教授は語る。
 
卒業生の中には、看護婦、エンジニア、コンピューター関連、教師など、州が運営する機関の仕事に携わる若者が多く、州財政が傾くことで、専門分野を活かした雇用機会が減少することも危ぶまれている。「将来を担う人材を育てることは、カリフォルニア州経済の明るい未来につながります。優秀な学生が学ぶ機会を持てないばかりに、その才能が開花されないとすれば、州にとっても大きな痛手でしょう」と松田氏。

州政府が州民に借金!?

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納税者に実際に送られてきたIOU

各種予算を大幅に削減しても、赤字は免れない。そこで、州政府はついに、IOUなる期限付き借用書の発行に踏み切った。 
「州政府は、毎月予算と実際の歳出入を比較し、1年半先までの収支予測を立てています。その過程で、近い将来資金不足に陥ることが発覚してしまいました。できるだけ手元に現金を残そうと、期限付き借用書であるIOUの発行に踏み切ったというわけです」と松田氏は語る。
 
一方、カイザー氏は「州には十分な現金がなかったために、IOUを発行したのだと思います。州の収支計算は、すでに合っていないのではないでしょうか」と語り、州の金庫が既に空なのではと予想している。
 
この借用書は、09年7月から発行が始まったが、現在は発行されていない。当初は10月2日以降の期限付きだったが、現在は少し早まり9月4日には換金できるようになった。また州は、年率で3.75%の利息を払おうともしている。
 
主なIOUの発行先と金額
●奨学金など学生助成金:1億5900万ドル
●高齢者や身体障害者への助成金:5億9100万ドル
●福祉サービスの事務費、職員への給与など:6400万ドル
●身体障害者へのサービスセンター運営金:3億6300万ドル
●ア ルコール、ドラッグ中毒プログラムへの助成金:1億2700万ドル
●地方裁判所運営金:4100万ドル
●その他、地方自治体への助成金:2億2900万ドル
●州政府取引業者への支払い金:4億2400万ドル
●個人への税還付金:1億4000万ドル
●企業への税還付金:5800万ドル
 
補正予算案に含まれる主な予算削減事項
●幼稚園から高校、コミュニティーカレッジまでの教育関連:61億ドル(総予算580億ドルの10.5%)
●その他、州立大学など高等教育:20億ドル
●州職員の無給休暇による収入減分:13億ドル
●州職員の給与支払日を翌年度に遅らせる:12億ドル
●医療関連費:13億ドル
●市やカウンティーへの予算:47億ドル
●地方再開発事業:17億ドル予算削減事項

今後の展望

財政難にあえぐ、カリフォルニア州の展望は?

これまで、さまざま事象を取り上げながら、カリフォルニア州財政危機の概要、現状、原因などを分析してきた。しかし、誰もが一番気になるのが、今後のカリフォルニア州の姿である。そこで最後に、今回の取材で協力いただいた4人の識者に、カリフォルニア州の今後の展望やあるべき姿をうかがった。

同じ危機に陥らないよう長期的構造改革が必要
◉ユニオンバンク 経済調査部長 松田慶太郎氏

補正予算が州議会で可決され、財政危機を脱した感がありますが、それは妥協策に過ぎません。短期的には、カリフォルニア州の財政状況は、景気の回復と共に改善されるでしょう。州の歳入は景気次第で戻ると予想されますが、景気の回復に時間がかかれば、州にとっても苦しい時間が続くでしょう。
 
景気が回復し、歳入が十分になった時こそ、構造改革を進めるべきです。再び景気が後退した時のために、余剰金を積み立て、緊急時に臨機応変に対応できる法律の見直しなども必要でしょう。
 
シュワルツェネッガー知事が取り組んできた選挙区の見直しも有効です。共和党、民主党共に、自分たちの要求を押し通すのではなく、広い視野を持ち、互いに歩み寄れるような柔軟性を持った政治家が、活躍できるシステム構築が求められていると思います。
 
本来、エンターテインメントやテクノロジーなど、カリフォルニア経済にはすばらしい資質があるのです。ですから、州政府には民間部門の底力を頼みにする一時しのぎではなく、将来にわたって経済を伸ばしていくような政策を期待します。

Union Bank
www.unionbank.com

数年かかる財政回復有能なリーダーが必要
◉エコノミスト ジャック・カイザー氏

カリフォルニア州の財政問題は、今もまだ続いています。景気が良い時は歳出を増やし、景気が後退すると財政難に陥る体質が災いしています。景気に伴う歳入については、今後数年間は停滞すると予想しています。そして、極めてゆっくりとしたペースで回復に向かうでしょう。
 
来年、再来年と、サクラメントでの動向を注意深く見守ることが重要です。まずは、2010年の国勢調査による選挙区の再区画に注目しましょう。民主党、共和党が分裂することのない選挙になることを望んでいます。
 
私たちがすべきことは、すべての州選挙に投票すること、そして選ばれた役人たちが、どのような働きをするかじっくりと見守ることです。なかには、これから噴出するであろうさまざま問題を解決するノウハウを持つ団体もいくつか存在しますから。
 
財政難に苦しむカリフォルニアですが、今でも強さを秘めた素晴らしい州であることに変わりありません。しかし、戦略的なビジョンを持ち、実行力のあるリーダーと、それを支える州民や企業の力が必要となってきています。

The Kyser Center for Economic Research
LAEDC(Los Angeles County Economic Development Corporation)
www.LAEDC.org

石油や天然ガスへの課税で高等教育のサポートを
◉カリフォルニア州立大学 ロングビーチ校 テリー・ヤマダ教授

現状を考えると、皆さんが質の高い生活を送るためには、高等教育がどれだけ大切かをわかってもらうのは難しいと思います。教育現場が完全に崩壊するまで、政治家は何の打つ手もないかもしれません。それでも教育は大事なんです。州民は、機会を見つけて、選任された役人に電話をして、学校をサポートするよう少しでも働きかけていただきたいと思います。州政府には、公約通り、学校に資金援助を続けていただきたいものです。
 
今後数年間、高等教育への予算が減少することが予想されます。解決案としては、石油や天然ガスへの課税です。カリフォルニア州は、全米で唯一これらに課税していません。テキサス州では、100年間にわたって、石油への課税で高等教育の資金を調達してきました。このように、『AB 656 The Oil Severance Tax for Higher Education』が法律化されるには、州民のサポートが必要。自分たちのためではなく、州政に求められているのは何かを考えられる、責任感のある政治家を選任するようにしたいものです。

Dept. of Asian and Asian American Studies
President of California Faculty Association, CSU Long Beach
www.csulb.edu

日系団体の懸念を積極的に州政府に伝えたい
◉ジェトロ・ロサンゼルスセンター調査部長 水谷剛氏

財政危機の企業への直接的な影響としては、IOUでの支払いや州関係の開発プロジェクトの中止・延期などが考えられます。日系企業への影響は現在、州関係のプロジェクトに関係する一部企業にとどまっており、影響を実感している企業は多くないようです。
 
今後、州政府による増税か歳出削減による財政立て直しが予想されており、これらの日系企業のビジネスへの影響が懸念されています。すでに、他州と比べて高水準の労災保険の企業負担が、さらに上昇することも懸念されているほか、州政府の予算カットにより影響を受ける企業もあると考えられます。
 
世界的な不況の中で、増税や地方自治体を中心に大幅な予算カットを強いられ、カリフォルニア州経済の回復が遅れることも考えられます。それによるビジネスへの影響も心配ですが、ジェトロ・ロサンゼルスセンターでは、日系企業向けにカリフォルニア州の財政危機に関して情報提供すると共に、南カリフォルニア日系企業協会(JBA)とも連携・協力し、日系企業の懸念を州政府にも伝えていきたいと考えております。

JETRO Los Angeles Center
www.jetro.go.jp/jetro/overseas/us_losangeles/

※このページは「2009年10月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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