足掛け2年以上におよんだ新型コロナのパンデミックは、世界中の経済に大きなインパクトを与えました。2022年、アフターコロナが少しずつ見えてくる中で、懸念されるのが世界的なインフレ。そして、アメリカでは過剰なインフレを抑制するために利上げが発表されました。そんな今だからこそ改めて見直したい、お金・資産のこと。素朴な疑問から専門的な悩みまで、プロに聞いてみました。
(2022年4月号ライトハウス・サンディエゴ版掲載)
Q. 引退後、物価の安い日本に帰国したい。税金面でメリットを最大に享受するには?
A. アメリカの年金を残して日本で受け取ることをおすすめします。
帰国する前に考えておきたいことは?
世界的なインフレと言われていますが、アメリカと日本では物価の上昇率に歴然たる開きがあり、リタイア後はアメリカに比べて物価が安価な日本で暮らしたいという方のご相談は今、とても増えています。実際に日本に帰国にするにあたっては、人それぞれの事情や、帰国後にどのように暮らしたいかといった観点も重要になってきますので、アメリカの資産をどうしていくことがベストとは一概には言えません。ただ、もし仮に日米の物価のギャップを最大限に活用し、税金面で最も優遇を受けるということを最優先にするのであれば、王道の選択はありますので、今回はそれについて解説します。
アメリカにいるうちに不動産を売却
自宅などアメリカにある不動産は帰国する前に売却することをおすすめしています。その理由は、大きく二つあり、ひとつは、アメリカでは自宅を売却した場合に夫婦だと50万ドルまでの税金控除があること。このため、実際には税金がほとんどかからないというケースが非常に多いのです。もうひとつの理由は、日本に帰国してからアメリカで家を売ると、その売った額に対して日本で税金がかかる可能性があるためです。
日本に帰国したらすぐに永住権を破棄
生活の拠点を日本に移しても、永住権を維持しているとアメリカの居住者という扱いになり、アメリカでの収入の有無に関わらず、毎年、アメリカでタックスリターンをしなければなりません。日本帰国後すぐに破棄すれば、一定以上の所得がある人以外、ほとんどのケースで、その翌年からタックスリターンの申告が不要になります。ただし、ケースバイケースで、永住権を破棄しない方がいい場合もあります。アメリカ市民権に関しても、永住権と同じ扱いと考えてください。
金融資産は年金だけ残しておく
お金の面だけを見れば最善の策は、金融資産は年金だけをアメリカに残しておき、定期的に引き出して日本に送ることです。アメリカと日本の間では年金協定があり、日本の居住者であれば引き出した年金がアメリカで課税されることはなく、日本でのみ課税されます。ただ、日本の居住者であれば、ですので、この協定の対象になるためには永住権などは破棄している必要があります。
ちなみに、アメリカの年金には、RothIRA、TraditionalIRA、401kなど、いくつか種類がありますが、日本で受け取ることを考えると一番おすすめなのはTraditionalIRAです。その理由として、RothIRAはアメリカで受け取るのに税金がかからないことがメリットであるのに日本で受け取ると日本では課税対象になるため。
また、401kは、年金協定の観点や、帰国後の金融機関とのやり取りなどを考えるとIRAに移行することをおすすめしています。また、帰国する前に、ご自身の口座がある金融機関に、年金を引き出して日本に送ることが可能か、帰国後もメールや電話で相談がしやすいか、を確認しておくことも大切です。
最後になりますが、一番重要なのは、会計士、税理士選びかもしれません。というのも、日本とアメリカ、両方の税金についての知識がなく、その扱い方を知らなければ、せっかくの日米のギャップのメリットを有効に活用することができないからです。なお、今回ご紹介したのは、あくまでもお金の面での優遇だけを第一に考えた場合の理論上での選択です。現実には、お持ちの資産、家族構成、日本のどこで暮らしたいかなど、さまざまなことを考慮した上でベストな選択をすることが何よりですので、帰国を考えている方はお早めにご相談ください。
アメリカ公認会計士 石上洋さん
業務内容:会計監査業務、会社設立、経理専門アウトソーシング、タックスリターン(法人・個人)
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Q. お金について漠然と不安があるけど、何から手をつければいい?
A. まずは今ある資産を法的に守る、リビングトラストを準備しましょう。
お金、資産については、どう増やすかだけでなく、どう守るかを考えることが不安を軽減する鍵です。そのためには今ある資産を法的に守るためのエステートプランを作成しておくこと、中でもリビングトラストの作成を特におすすめしています。
アメリカでは、一定額以上の相続が発生した場合、裁判所のもとで行う「プロベート」という手続きが義務付けられており、これには時間も費用もかかります。リビングトラストを作成しておけばプロベートを避けられるうえ、病気、事故など万一の事態で自身で資産の管理ができなくなった時に、必要な人が使えるように準備しておくことができます。昨今はリビングトラストを作成する方が多く、手続きに時間がかかる傾向にありますので、いざという時に備えて今すぐ準備を始めましょう。
YouTubeチャンネルで情報発信中
リビングトラストをはじめ、アメリカで暮らす日本人が知っておきたいエステートプランや相続の情報を動画で分かりやすく解説しています。
弁護士法人佐野 & アソシエーツ Youtubeチャンネル
弁護士 佐野郁子さん
業務内容:エステートプラン(リビングトラスト、相続、事業承継など)
本社:2173 Salk Ave. #250, Carlsbad(ニューポートビーチ、アーバイン、ミッションビエホ、トーランス、デルマー、サンノゼ、ホノルルにもオフィスあり)
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Q. インフレで老後資金や教育資金が今後足りるか心配…。
A. インフレ率より高い利率が見込める貯蓄法を混ぜるのがおすすめ。
インフレは端的に言うとお金の価値が下がるということですので、銀行口座など利率の高くない口座に多くの資金をお持ちの場合、額面は同じでも実際には目減りしているのと同じことになってしまいます。また、家計という観点で見ると、インフレでは物価が上がるため、必然、生活コストは上昇します。仮に1カ月の生活費が2000ドルだったとして、5%のインフレが起こると2100ドルかかる計算になります。インフレ率と同じくらい収入が上がればとんとんと言えますが、そうでない場合、これまでと同じままではやはり目減りしていくと言えます。
以上のことを踏まえると、貯蓄において、インフレ率と同じ、もしくはそれ以上の利率を確保することが安心材料の一つになると思います。現在、銀行口座では高い利率は望めないため、高い利率が見込める他の貯蓄法と資産を分散させることをおすすめしています。その他の貯蓄法にはリタイアメントプランや貯蓄型生命保険などさまざまあり、何が良いかは貯蓄の目的や、何を優先するかによって変わります。複数の金融商品を熟知した専門家とプランニングし、ベストな選択を見つけてください。
ファイナンシャル・ コンサルタント 大熊麻子さん
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Q. もうすぐ65歳。保険料も医療費も節約できるメディケアプランはある?
A. 最適なプランは人それぞれ異なります。ぜひメディケア保険のエージェントに相談を。
メディケアは、65歳以上の方と、障がい者のための健康保険で、アメリカ連邦政府が運営している制度です。65歳を対象とするメディケア保険には65歳の誕生日を迎える3カ月前の1日から加入手続きをすることができますが、加入期間を過ぎると生涯ペナルティーが発生するため、まずは加入期間を逃さないことが出費を抑える第一歩です。
その上で、メディケア保険で節約する最大のポイントは、ご自身に合ったプランを選ぶことです。メディケアには「パートA(入院費をカバー)」「パートB(外来で発生する医療費、医師が投与する薬をカバー)」「パートC(パートAとBを合わせた内容+処方箋薬の費用もカバー)」「パートD(処方箋薬の費用をカバー)」、さらに、パートAとBでカバーされない医療費をカバーする「メディギャップ・プラン」があり、各人の医療、薬剤ニーズやライフスタイル、価値観に合ったメディケア・パートCまたはメディギャップ・プランを選択することで、保険料、医療費、薬代を大きくセーブすることが可能です。ぜひ保険エージェントに相談してください。
Q. アメリカで暮らし続けたいけど、老後の医療費の高さが心配…。
A. 不安を払拭するためにも具体的なシミュレーションを。
アメリカは医療費が高いということで、特に高齢になった時のことを心配されている方は多いようですが、適切なプランに加入していれば、自己負担として支払う医療費が想像を絶する金額になるということはまずないと言っていいと思います。具体的に金額をシミュレーションしてみると、「これなら全く問題なくやっていける!」とほっとされる方が多くいらっしゃいます。
また、日本帰国を考えているけれど永久帰国するかはまだ決めきれないという場合には、メディケアの保険料を数十ドル程に抑えて、日米を行き来する間はとりあえずメディケアを維持しておくという選択もあります。不安は事実に基づくものではなく憶測からきていることが多いので、一度具体的に確認することをおすすめします。
健康保険ブローカー ヘイグ博子さん
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☎ 310-525-4496
Email: hirokohaig@yahoo.com
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Q. できる限り節税したい。どんな準備&対策が必要?
A. 基本的な控除項目を知っておき、領収証を取っておきましょう。
例年、タックスリターンの時期が近づいた時に節税について調べる方が多いのですが、実際にはギリギリなってでは遅過ぎるということが多々あります。節税のためには、日頃から対策を心がけておくことがとても大切で、そのためにもまずは控除項目やタックスクレジットに対してある程度の知識を持っておくことが重要です。以下に、節税という観点で、知っておきたい知識を簡単に解説します。
標準控除以外の項目別控除
誰でも申請ができる標準控除の金額は、2021年度は、個人だと1万2550ドル、夫婦合算では2万5100ドルですが、これとは別に項目別控除というものがあります。項目別控除は、それぞれの経費を個別に申請するという形で、項目別控除の金額が標準控除より大きくなる場合は、項目別控除を使って申請する方が得になる可能性があります。特に家を購入した場合などはその可能性が高いと言えます。項目別控除では、非営利団体への寄付金や医療費が控除できたりしますので、それらの領収証を取っておくようにしましょう。
タックスクレジット
控除は、収入から経費と控除金額を引いた差額に税金が発生するものですが、それとは別に、税金そのものを減額できるタックスクレジットという制度もあり、控除と併用して申請ができます。子どもがいる方はデイケア費用に、また大学生がいれば教育費用にタックスクレジットが適用できます。
また、あまり知られていませんが、暖房・冷房の改良や、新規購入で、クレジットの対象になる可能性もあります。なお、2021年に政権が変わったことにより、新しいタックスクレジットの導入といった可能性もありますので、注視しておきたいところです。
相続について
もし相続についてお悩みであれば、生前贈与を検討するのも手です。受取人一人につき年間1万5000ドルまでの贈与には税金はかかりません。
年金について
節税を心がけても税金を多額に払う場合は、リタイアメントプランに使うことをおすすめします。中
でもTraditional IRAは税金の控除になります。
投資について
投資をしている方は、キャピタルゲインに注意しましょう。キャピタルゲインがある場合、過去の損失が繰り越されて、キャピタルゲインと相殺されますので、これまでの購入価格や、不動産なら賃貸収入や費用など、記録を必ず取っておくことが役立ちます。なお、リターンは少ないけれどリスクも少ない投資としては、政府関連のポンドに注目しましょう。配当金がタックスフリーであるなど、確実に増やしたい場合におすすめと言えます。
個人事業主
個人で事業をされている場合は、特に節税が欠かせません。自分が出した費用は、返済を受け取っていなければ控除の対象となりますし、マイレージも控除の対象です。また、14歳以上の子どもがいれば、子どもに手伝ってもらい、給料を払うことで、ビジネスの費用(控除)を増やすという選択もあります。ただし、その場合、Kiddie Tax Credit(児童税額控除)や大学生だと大学のファイナンシャルエイドなどに影響する可能性があるため、専門家にアドバイスを仰ぐ必要があります。
総じて言えるのは、タックスリターンに有効かどうか定かでない出費でも、控除の対象になる可能性があると言うことです。ですから、普段から出納帳や家計簿を記録しておき、領収証を整理しておくことが、一番の節税対策と言えます。
同じ理由で、会計士から常に新しい情報を得ておくことも有用です。また、タックスリターンの手続きのちょっとした間違いで、桁違いの税金が発生してしまったり、ペナルティーを課せられてしまったり、税務署から手紙がきたり、監査が入ってしまったり、ということも起こり得ます。3年以内であれば修正申告が可能ですので、信頼できる専門家を見つけて頼ることも、広い意味では節税対策の一つと言えます。
会計士 尾崎真由美さん
業務内容:確定申告、経理アウトソーシング、法人およびLLC 設立、バーチャルオフィス、日米不動産投資税務、相続税、 FBAR、ITIN
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(2022年4月号ライトハウス・サンディエゴ版掲載)