日本に帰国してからも、住民票取得や銀行口座開設など、生活を送る上で重要な手続きがたくさんあります。居住先が決まり次第、自治体に問い合わせて、早くから必要な生活の情報を確認しておくとスムーズです。また、収入源として不可欠なソーシャル・セキュリティーの申請や受給も忘れずに。
※本特集はあくまでも一般的な情報です。詳細は個々の事情によって異なるため、専門家にお問い合わせください。
生活の基盤を整える
帰国したらすぐに 転入届または住民票提出を
日本に帰国すると、以下のような手続きを早く行う必要があります。
◉転入届
◉住民票取得
◉国民健康保険加入手続き
◉介護保険加入手続き
もし渡米前に「海外転出届」を提出していた場合は、まず転入する先の役所に「転入届」を出さなければなりません。「この手続きを踏まないと住民票を取得することができないのです。手続きに必要なものは、パスポートや戸籍謄本などで、帰国後日以内に行ってください。ただし現在は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、自宅待機が要請されていることもあって、海外からの帰国など正当な理由がある場合、日間を過ぎても手続きできる役所が増えています」と説明するのは日本ライフパートナーズ協会代表で行政書士の東向勲さん。「ちなみに、戸籍謄本の交付申請書には、名前や本籍地などを記入します。数十年前に渡米した方や結婚によって本籍地が変わった方だと、正確な本籍地を覚えていないケースも多いのです。帰国前に本籍地をしっかり確認しておくとよいでしょう」とアドバイスしています。
住民票を取得したら、国民健康保険に加入します。また、40歳以上なら介護保険制度への加入手続きも行います。いずれも、役所内の別の窓口で対応しており、同日に手続きできるところがほとんどです。
「身元引受人」と「連帯保証人」を探す
日本に帰国する際、病気になったり入院したりした場合、また老人ホームなどに入居する場合は、身元引受人や連帯保証人を探しておくことも大切です。該当する人がいない場合は、身元引受人や連帯保証人を紹介するサービスを利用することもできます。
◉身元引受人/身元保証人
病気になった場合に、入院手続きなどをしてくれます。また亡くなった際に葬式などの手配も行います。
◉連帯保証人
般的な賃貸のアパートまたは老人ホーム(賃貸または終身利用問わず)入居時の保証人となります。
また、コロナ禍では感染のリスクを軽減するため、銀行での支払いや買い物など、日常生活で利用できる代行サービスの利用を検討してもよいでしょう。「コロナ禍では、今まで以上にもしもの備えが必要です。老後を安心して過ごすためにいろんなサポートやサービスについて情報収集しておきましょう」(東向さん)。
日本でソーシャル・セキュリティーを受給する
老後の大切な収入源となるソーシャル・セキュリティー(連邦年金)は、日本で申請または受給することが可能です。現在、すでに受給している場合は、アメリカの銀行口座を維持し、そこから日本に送金します。送金には手数料がかかるのでまとめて送った方が良いでしょう。または日本の銀行口座に入金してもらう方法もあります。
日本に帰国した後に申請する場合は、日本の「日本年金機構」で手続きを行います。Webサイトの「アメリカの年金請求者のための申請書」から申請書をダウンロードし記入します。または、米国大使館領事部年金課で手続きする方法もあります。窓口は完全予約制となっています。現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、連邦年金課業務の一部を制限中です。予約や質問はオンラインフォームから行いましょう(2021年1月日現在)。申請は、受給開始年齢の3カ月前から可能です。受給方法は前述のように、アメリカの銀行口座に入金して日本に送金するか、日本の銀行口座に入金してもらう2つの方法があります。
◉日本年金機構
Webサイト:www.nenkin.go.jp
◉米国大使館領事部年金課
Webサイト:jp.usembassy.gov/ja
Tel:(日本81)3-3224-5000
営業時間:火・木曜日 9:00am~12:00pm
E-mail:FBU.Tokyo@ssa.gov
代表理事・行政書士
東向(ひがしむき) 勲さん
日本ライフパートナーズ協会
大阪府大阪市中央区備後町3-4-8-303
Tel:(日本81)6-6484-6814
Email:info@jlp-a.com
Webサイト:jlp-a.com
気になる日本での生活費
「ゆとり老後ひと月36.1万円」は可能?
総務省統計局が2019年に発表した「家計調査年報(家計収支編)」によると、高齢夫婦無職世帯の家計収支の消費支出平均額は、税金などの非消費支出を加え27万929円でした。また、公益財団法人生命保険文化センターが行った「生活保障に関する調査/令和元年度」では「老後の最低日常生活費」は月額平均22.1万円。そして「ゆとりある老後生活費」は36.1万円となっています。
ただし、アメリカから帰国となると事情は少し変わってくるようです。行政書士の東向さんによると、日本にずっと住んでいる人の場合は、リタイアする頃には住宅ローンは完済していることが多いので、36.1万円でもゆとりある老後を送れる可能性が高いものの、新たに住まいを探す在米日本人の場合、実際には消費支出はもっとかさむ確率が高いとか。「場所や物件の種類にもよりますが、例えば都心のサ高住に夫婦2人で住むと、家賃だけで20~25万円ほどになります」。ちなみに、前出の「家計調査報告」の内訳では、住居費は約1万3700円! 住居費に関しては少なくとも数十倍になる可能性があります。日本での生活費がどのくらいかかるのか、事前に細かい内訳を出して計算しておいた方が無難でしょう。
スペシャルインタビュー
柔軟に考え動けるシニアになろう。コロナ時代のセカンドライフ
インターネットを活用し 第2の人生の基盤作りを
現在、コロナ禍で一時帰国もままならない状況ですが、インターネットを利用すれば情報収集や人とつながることができます。アイオーシニアズまきたけしジャパンの代表理事を務める牧壮さん(84歳)という方は、「スマート・シニア・アソシエーション」という団体を立ち上げ、シニアとITの親和性を高める活動を行っています。牧さんによると、周囲の友人や知人が少なくなっていくシニアこそ、今後ITは欠かせないツールとなるそうです。たとえ一時帰国ができなくても、アメリカに住みながら日本のシニア向けオンラインイベントに参加して友人を作ったり、SNS上で情報交換したりすれば、日本に帰った時の楽しみが増えますよね。また、今は各自治体のウェブサイトも、文字の情報だけでなく動画を配信しているところも増えているので、オンライン上でもその土地や人の様子、雰囲気が分かります。
一時帰国の際は 住み放題サービスで地方巡り
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の発表(2020年5月)によると、コロナ禍で東京圏在住者の約5割が地方暮らしに関心を持っており、実際に移住した人も少なくありません。そういった流れもあってか、昨年話題を集めたのが、会員になって定額料金*を払うとその会社が運営している物件や施設に居住できる住み放題サービスです。光熱費込み、敷金などの初期費用なし、何度でも移動可能など、利点もさまざま。これまでは主に時間に余裕のある職種やフリーランスの人が利用していたようですが、コロナ禍で在宅ワークが増えたこともあり人気となりました。このようなサービスを利用すれば、アメリカに住んでいても、一時帰国の際に気軽に全国を回ることができます。なんといっても、いきなり移住はケガの元です。また、首都圏に拠点を置きながら、週末や季節ごとに地方に行く「逆参勤交代」にもぴったり。日米の往来が緩和されたら試してみる価値ありです。
コロナ禍で人々の生活は一変しましたが、輝くセカンドライフのための極意は変わりません「。カラダの安心=良い病院はあるか」、「オカネの安心=生活コストはどうか」、そして第2の人生を過ごす街で、自分の生きがいや役割を見付け、貢献・承認欲求を満たす「ココロの安心」という3つの安心が必要です。日本に行けないと何もできないと嘆くより、インターネットを駆使して情報収集や準備をし、一時帰国の際に自分の目でしっかりと確認しましょう。これからは、シニアにとっても、バーチャルとリアルの組み合わせをうまく生かすことが大切になってくると思います。
*定額住み放題サービス「ADDress」の場合、月額4万円~。
主席研究員
松田 智生さん
三菱総合研究所
Webサイト:platinum.mri.co.jp
1966年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。専門は高齢社会の地域活性化、アクティブシニア論。内閣府高齢社会フォーラム企画委員。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の地方創生x全世代活躍のまち検討会座長代理などを歴任。著書に「明るい逆参勤交代が日本を変える」「日本版CCRCがわかる本」がある。