原美樹子さんをはじめとする4人の写真家が写した東京が並ぶ、「In Focus:Tokyo」展がゲティーセンターで開催中です。原さんに同展の見どころやご自身の写真について、お話をうかがいました。
―ゲティーに収蔵された原さんの作品から、12点が展示されている「In Focus:Tokyo」展。見所は?
ロスに初めて来て本当に車社会なのにびっくりしたのですが、あんなに大きな美術館に自分の作品が展示されていることにも驚きました(笑)。この展覧会には、4人の写真家がそれぞれの切り口で2000年代東京を写した写真が展示されています。ロスとは全く違う都市構造の東京の街路やそこに生きる人々など、写真の細部に写りこんだ東京の魅力を見ていただけたらと思っています。
―今回の展覧会からどんなものを受け取ってほしいですか?
展示をご覧になっていたアメリカのご婦人が、私の写真の中の若い女性を見て「この人に会ったことがある気がする」とおっしゃっていました。全く異国の写真なのに、そんなふうに既視感みたいなものを感じてくださったのは不思議だなと思いました。私は写真を通して何か特定のメッセージを伝えたいとは思っていません。写真は見る人の経験や記憶によって見方もそれぞれ違うと思いますし、それぞれの方の感じ方を限定したくない。見てくださった方の記憶の断片や、それぞれの方の持つ言葉にならない複雑な感情などに、どこか触れることができればいいなと思っています。
―撮影されるときには、何を考えていらっしゃいますか?
なるべく何も考えないようにしています。ふっと感じたときに撮っています。私が使っているのは1930年代のフィルムのカメラで、ほとんどビューファインダーを見ないで撮影しています。デジカメと違って、撮ってすぐには見られないし、フレームにどんな状態で画像が収まっているかも全くわからない。だいたいこのへんが撮れているかなくらいの感覚で撮っていますね。被写体との直接の対話もほとんどありません。
―日常を撮り始めたきっかけは?
写真を始めたきっかけは、父親からカメラをもらったとか、会社勤めをしていたのだけど辞めたくて写真学校に行ったといった些細な理由でした。写真学校での最初の課題がたまたま「街に出て人を撮る」というストリートスナップで、人にカメラを向けるのは勇気がいりますが、私はそういう雑踏の中の人波に分け入っていく高揚感みたいなものが嫌いではなかったので、その課題を続けていきました。
最初は35㎜の一眼レフカメラを使っていたのですが、カメラや撮影方法を少しずつ変えていき、本当に自分の写真がこれでいいのかと行き詰まっていた1995年頃、知人がイコンタというドイツ製の6×6のカメラのボディーに50年代のレンズを付けて提供してくれたんです。それ以来、気に入ってずっと使っています。
こんな古いカメラですから、実際に撮影に使う人はあまりいませんけれど、軽くて使いやすいし、いつもバッグ入れて持ち歩いています。
―フィルムを使い続けられますか?
デジタル化が進み、フィルムや印画紙の供給量も減っています。でもなくなってしまうまでは、今の形を続けていこうと思っています。デジタル写真は物質感がないので、手応えのなさを感じてしまう部分もあります。フィルムが発酵したり熟成したりするわけではありませんが、フィルム写真の「撮ってすぐに見る」ことができない時間に、何か加味されるものがあるんじゃないかと。それに、自分にとっては今のままのスタイルでまだできることがあるように思っています。
―原さんにとって写真とは?
「写真とは何か」「なぜ撮るのか」について明快な答えはいまだに見いだせなくて、余りのある割り算をずっとし続けているような気がします。でも、答えなんてないのかもしれないですね。正しい答えなどないからこそ、写真を撮り続けている、その状態が私にとっての写真行為なんじゃないかと思っています。
『In Focus:Tokyo』展
原美樹子、森山大道、長野重一、瀬戸正人ら日本を代表する4人の写真家による、巨大都市、東京を写した写真展。そこに生きる人々の日常と街の風景は、東京に暮らしたことがある人にも、見たことがない人にも、どこか懐かしい表情をしています。
開催期間:12/14(日)まで|The Getty Center|1200 Sepulveda Blvd., Los Angeles|☎310-440-7300|www.getty.edu|入館無料(駐車料金$15、午後5時以降は$10)
(2014年11月1日号掲載)