映画やテレビ、舞台で活躍を続ける俳優の仲代達矢さん。2014年5月に開催される「仲代達矢映画祭」では、主演映画等3本が上映される他、仲代さんによるトークショーや舞台挨拶も行われます。渡米前にお話をうかがいました。
―昨年公開の『日本の悲劇』についてお聞かせください。
仲代達矢さん(以下、仲代):『日本の悲劇』は、小林政広という若い監督によるものです。私は、19歳から俳優活動を始めて、これまで約60年の間に150本近い映画に出てきましたが、このシナリオを見たとき、こういうものは初めて見たなという感じがしたんです。人間の生き様、死に様を描いた作品はいっぱいありますけれど、これは私がミイラになるって話で、非常に独創的で興味を引かれたんです。
出来上がった作品は、やはり今までに見たこともない映画です。芸術―映画や演劇が果たして芸術の分野に入るかどうかは分かりませんけれども―は、常に今まで描かれなかった新しいものをやりたいわけです。好き嫌いのある、万人に喜ばれる作品ではないかもしれませんが、素晴らしい仕事をさせていただきました。
―今回の映画祭では、時代劇も上映されます。時代劇と現代劇では、演技に違いはありますか?
仲代:日本の時代劇は、アメリカの西部劇と同じように、やはり日本にしか作れないもので、日本映画特有のものだと思います。私は現代劇も含めて、黒澤明さん、小林正樹さん、成瀬巳喜男さん、市川崑さんら巨匠と呼ばれる方々に随分使っていただきましたけれど、同じ時代劇でも黒澤さんと小林さんの時代劇、岡本喜八さんの時代劇では全然違うんです。時代劇、現代劇にかかわらず、作る人や作品によって演技の質を変える必要はありますね。
現代劇より面白いなと思うのは、虚と実というものがありますでしょう?時代劇はそれって嘘じゃないかというような虚も堂々と描けるんですよ。ただそれを描くために、黒澤さんが生きていらした頃の時代劇などは、例えば『影武者』がそうですけど、ワンシーンのために1カ月、猛烈に稽古をするとか、時間もお金も随分かけたし、時代劇の歩き方とか、そういう様式を役者に対して厳しく指導しましたね。
―黒澤さんはどんな監督でしたか?
仲代:何より純粋で正義感と強さがありました。『乱』なんて見事な反戦映画でしょう。『用心棒』は何で作ろうと思ったかと聞くと、「ヤクザが大嫌いだから」だと言うんですよ、ヤクザを滅ぼすにはヤクザ同士をケンカさせろって。『椿三十郎』も悪しき者に対する告発ですよね。
外国に行くと、日本の総理大臣を知らない人も、黒澤だけはどこに行っても知っています。かつては黒澤さんがいて、小津安二郎さんがいて、溝口健二さんがいて、彼らが贅沢にお金をかけて映画を作ることができ、映画が最大の娯楽で、世界に冠たる日本映画であった時代があったんですよね。今、経済状況はその頃に比べて貧しくなってはいないのだけど、映画や演劇に対する関心が薄くなってきたのかな。世相でしょう。パソコンや色々なものが出てきて、劇場にわざわざお金を出して見に来るのが難しくなっています。エンターテインメントも必要ですけれど、テーマをしっかり持って、こういう人間もいるんだ、こういう社会もあるんだというようなものを見せられたらいいなあ。まずは我々作り手が魅力的なものを作って、見に来てもらわないといけないね。
―これからのチャレンジについてお聞かせください。
仲代:81歳になりましたので、役者人生もそろそろか、とは思っておりますけれども、倒れるまでは、まだ遭遇していない作品や役柄を目指したいですね。俳優座にいた頃、「失敗した作品はいつまでも覚えていてもいいけれど、成功した作品はすぐに忘れろ」と言われました。世阿弥もそう言ってるんですよね、「常に壊せ」と。成功作の後を追っていると、だんだん小さくなっていくと言うんです。ですから今までやったこともないことをやりたいなと思いますね。それと、「無名塾」なんてのをやっておりますから、僕一人じゃなくて、これまでやってこられた先輩からの文化、特に演劇を、次世代の人にどうつなげていくかということを後押ししたいと思っています。
―ロサンゼルスのファンにメッセージを。
仲代:外国に行ってそこで生活をしておられる方は、開拓者というのか、ドラマチックな生き方をされているような気がしてならないのですけれど、そういう方に今度の映画祭で、私の映画を見て共感していただけたら、非常に嬉しいです。
仲代達矢映画祭 @ LA日本映画祭
5/10(土)
『仲代達也「役者」を生きる』+仲代さんトークショー(New Gardena Hotel)
『用心棒』仲代さん挨拶あり(New Beverly Cinema)
5/11(日)
『天国と地獄』仲代さん挨拶あり(Double Tree by Hilton Santa Ana)
前売り映画チケット:
映画+仲代さんトークショー:
その他の映画情報やチケット購入:www.JFFLA.org
5/10~/18に開催のLA日本映画祭では、LA、OC、サンディエゴにて約20作品を上映予定。
(2014年4月16日号掲載)