みなさんは今年も雑煮を食べただろうか。
日本では、全国どこでも、正月に雑煮を食べるという習慣があるのだが、その味は地方によってかわる。
大きく分けると、関東では醤油仕立て、関西では味噌仕立てだが、どんな味噌を使うかとか、具はなにを使うかというようなことが、地方によって細かくきまっている。
それはそれでおもしろいのだが、そもそもなぜ日本では正月に雑煮を食べるのであろう。外国ではどうなのだろう。
まず、雑煮とはなんぞや。
文字通り読めば、雑多なものを煮たものということになるが、実際にはそれだけでは雑煮とはいわない。
雑煮と呼ぶかどうかは、モチが入るかどうかということによってきまるのは読者もご存じのとおり。
外国ではどうかというと、韓国にもトックというモチ入りスープがあって、僕も韓国でも食べたし、LA界隈でもときどき食べる。
中国にもモチ入りスープがある。中国にも韓国にもあって日本にもある、ということは、中国から朝鮮半島を経由して伝わってきたもの、と考えてまずまちがいないだろう。
ところが中国では、「餅(ビン)」という字は、モチのことではない。
餅は小麦粉を焼いた円盤状の薄いパンのことだ。
円盤投げに使う円盤、なんと、あれを鉄餅とよぶのである。
日本のような米のモチのことは「年糕(ニェンガン)」という。
日本のモチのようにフワフワ、あるいはネバネバはしていなくて、どちらかというと硬めで、平たい白玉モチのような食感。
ただ焼いて醤油をつけて食べる、ということはないようで、野菜や肉といっしょに炒めるか(「炒年糕(チャオニェンガン)」という)、またはスープに入れて煮る。
このスープバージョンが「湯年糕(タンニェンガン:湯はスープのこと)」という名の雑煮ということになる。
ここからが大事なのだが、「年糕」は年とともに出世するという意味の「年高」と同じ発音であり、文字やその発音による縁起かつぎを得意とする中国人のあいだではめでたい食べものとなっている。
だから、今年は出世しますようにという意味で、中国でもやはり年の初めの正月に多く食べられるのである。
餃子も家族が交わるという意味でやはりめでたいのだが、これはどちらかというと北方で、南方、たとえば上海などでは年糕を食べる。
かくして、日本にモチが伝わったときにも、これはめでたい食べものであるというふれこみで伝わったのではないだろうか。
日本では本来、大晦日にその年にとれたいろいろな食べものを神様にそなえて感謝するわけだが、そこにモチが重要な食物としていっしょに供えられ、正月になるとそれらを一緒に煮て家族で楽しんだから、モチ入り雑煮が正月に欠かせない食べものになった…、というのは単なる自説であるが、たぶんまちがっていないと思う。
僕が生まれ育ったのは東京なので、母親の作る雑煮は、だしと醤油だけの味付けで、具はカモとネギだった。
でも、誕生日が1月1日という僕にとって、雑煮は正月と誕生日をいっぺんに祝う、たいへん大事な食べものなのである。
(2005年1月1日号掲載)
雑煮はどこから来た?
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