たかがワイン。
ああだこうだとカッコつけてみたところで、単なる飲みものじゃないか。
気楽に楽しめばいいんだよ!
…といわれたような気がした。
エアフランスのビジネスクラスで食事をしたときのことである。
ワインを飲むためのグラスが、タンブラーなのだ。
赤ワインでも白ワインでもおかまいなし、水を飲むのと同じような丸いコップ。
もちろん、揺れることがある機内では、タンブラーは茎のついたワイングラスより安定性がいい、という理由もあるだろうが、なんといってもエアフランスである。
サーブされるワインもフランスの高級ワイン。
料理もさすが! といわざるをえないフランス料理に、ちゃんとでてくる食後のチーズ。
他のエアラインのビジネスやファーストクラスでは、ちゃんと茎のついたワイングラスしか見た覚えがない。
ワインにどの国よりこだわりがありそうなフランスの航空会社が、タンブラーときたもんだ。
しかし、僕としては妙に納得してしまった。
レストランでワインを注文すること自体も、フランスでもイタリアでもそうだが、必ずしもワインリストをしかつめらしく眺めたり、知った顔をしてソムリエと意見交換したりする必要はないのである。
「赤(または白)ワインを!」。
これでいい。
ボルドーもブルゴーニュも、ビニヤード(ワイナリー)もバラエタル(ぶどうの種類)もナシ。
重いのがいいか軽いのがいいか、くらいは質問されることもあるが、赤か白をいうだけで「合点!」とウェイターが適当に選んで持ってきてくれたり、ハウスワインを樽からピッチャーに注いで持ってきてくれたり、これが安くてうまくて、こころから楽しめるワインなのである。
ワインを飲むことが何千年もまえから日常生活に染み込んでいるヨーロッパだからこそ、気取る必要がないのだろう。
エアフランスのタンブラーを見て、まさにそれと同じ感じがしたわけだ。
多くの人は、ワイングラスを店で買おうと思ったとき、あまりにいろいろな種類があって、どれとどれをそろえるべきなのか、困ってしまうだろう。
僕にいわせれば、二種類あれば十分だ。
赤ワイン用に口が広いもの。
これはグラスに鼻が入ることによって赤ワインのブーケをより楽しむためである。
白ワイン用に口が狭いもの。
これは空気にふれる面積が少なくて室温に温まりにくいから。
あと、シャンペンを飲むのであれば、縦長のフルートとよばれるやつ。
これは上っていく気泡をじっくりと眺めることができるのと、口が狭いぶん気泡の抜けが遅いため。
ただしいずれもグラスの質はできるだけいいものにしましょう。
手や唇が触ったときの感触は、かなり重要である。
プラスチックはナシね。
というわけで、今回は「たかがワイン」という話を書いたのだが、とはいうものの、ワインには「されどワイン」という世界もある。
それについてはまたこんどね。
(2008年4月16日号掲載)
たかがワインのグラス
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