イギリスにはうまいものがほとんどない、でも朝食だけはうまい。
だからイギリスを旅行するときは、毎日三度朝食を食べればいい。
…というのは有名なジョークだが、これはけっこう真理をついている。
朝食というのは、どこの国でも、昼や夜の食事とは異なった性格があるものだ。
そのひとつは、一日のスタートとして、エネルギーを産み出すようにできている、ということ。
卵を使ったり、炭水化物が豊富なのはそういう理由による。
もうひとつは、庶民がいつも食べ慣れているもの、その土地で取れるローカルな食材が好まれる、ということだ。
朝っぱらから、旬の素材を吟味しました! だの、産地直送! だの、究極の味! だの、面倒なことをいう人はあまりいない。
変わったものよりも、毎日同じでもいい、慣れ親しんだものを食べたい。
これは、どこの国でも朝ゴハンに共通していることのようである。
イギリスでも、燻製にして保存してある魚、煮豆、ソテーしたマッシュルーム、ボイルドトマト、ハッシュドブラウン、オムレツか目玉焼き、それにトーストと紅茶。
これが長年続いている朝食で、ほんとにおいしい。
その土地の人が慣れ親しんだもの、ということは、とりもなおさず、そこの伝統的な食文化がはっきり現れた食べものである。
日本だってそうでしょう?
昼にはカレーやハンバーガー、夜はスパゲッティを食べる人でも、朝はかならず味噌汁に納豆、白いゴハン、という人が多いでしょう?
そこで、旅行中にその土地の伝統的な食べものを味わおうと思ったら、朝食が手っとり早いということになる。
外国人観光客向けのホテルであっても、朝食だけは必ずその国の伝統的な料理を食べることができるものだ。
フランスなら、どんなホテルだって焼きたてのクロワッサンにカフェオレはまちがいない。
ドイツの朝は、ドイツならではのさまざまなうまいハムが楽しみで目が覚める。
香港なら、インターコンチネンタルとかシェラトンといった欧米系のホテルであっても、朝食には広東風のお粥や点心を注文することができる。
マレーシヤの朝食メニューには、かならずナシ・レマック(ココナッツミルクで炊いたゴハンに干し魚やピーナツを載せて食べる)が載っているだろう。
インドでは、超辛くてたちまちバッチリ目が覚めるスープ、サンバルに、豆と米の粉をまぜて団子にしたイドリ。
グルジアやモルドバあたりでは、フレッシュなヨーグルトが山盛りボウルに入っていて、ヨーグルトってこんなにうまいものだったのか! とまさに目が覚める思い。
メニューからアラカルトでも頼めるが、朝食バフェには、まずかならずローカルコーナーがある。
ローカル色たっぷりの食べものを、たとえ初めて食べるものだって、料理の名前を知らなくったって、自由にトライすることができるのはありがたい。
どこに旅行したときでも、その国の食文化を楽しみたかったら、一日三度、朝ゴハンを食べることである。
(2008年8月1日号掲載)
旅の朝食 その①
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