日米の入学時期が違うことで生じる弊害
現時点では、新型コロナウイルス感染拡大による非常事態宣言のために、日本の多くの小中高等学校は休校となっている。感染者数の少ない地域では学校を再開する動きも出てきたが、東京や大阪など大都市圏ではまだ実現していない。そんな中で、出てきたのがコロナ危機による休校を機会として、全国一斉に「日本の学校制度を9月入学に変えよう」という動きだ。
この意見は、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事などが賛同しており、5月に実施された読売新聞の世論調査では 54%が賛成するなど、世論の関心も高い。
アメリカの日本人・日系人のコミュニティーとしては、この日本の9月入学案にはぜひ期待したい。例えば、アメリカ在住で、子どもを現地校に加えて補習校に通学させている家庭にとっては、仮に日本の学制が9月入学に統一されることになれば、子どもたちが日米間を動く際の手続きがシンプルになることが期待される。
というのも、現在は、アメリカは9月、日本は4月と入学時期が異なっていることで、さまざまな弊害が生じているからだ。一番困った問題は、アメリカから日本の高校に進学するケースだ。日本の高校の多くは、現地校9年生修了を受験資格としている。ところが、アメリカの学制における遅生まれ(基本的に9月以降の誕生日)の生徒は、日本では中3でも、現地校で9年生が終わるのは日本の高1に入った年の6月になる。つまり受験資格がない。これを避けるためには、日本の中3の後半に帰国して日本の中学校の卒業証書を得るとか、アメリカで4月入学の全日制日本人学校に編入して卒業するなどの手間をかけなくてはならない。
また、反対に日本からアメリカに来る場合、学年の数え方が日本とはズレていることもあり、英語力が不足していることと生まれ月の関係から、教育委員会から1年下の学年に下がることを勧められてしまう問題もある。これを安易に受けてしまうと、帰国して中学や高校を受けたり編入する場合に、資格がなくて困るということになる。
最大の問題は、6月に現地校の高校を卒業して日本の大学の帰国生受験をする場合に、まだ秋入学は少数派であり、国公立をはじめとする多くの大学の入学時期である4月まで待たねばならないということだ。大学レベルの学習をどんどん先へ進めたい学生にとっては、これは大きなロスになる。
国際化には必要な日本の9月入学
日本側としては、家族の駐在に帯同して行き来する子どもたちだけでなく、日本発の海外留学、また欧米から日本への留学が秋入学で学制がそろっていることは教育の国際化という視点から極めて望ましい。このアイデア、在米の日本人・日系人コミュニティーとしては、とにかくこの機会を捉えての実現を期待したい。
一方で、日本では反対意見も出ている。例えば、移行するには1つの学年だけ4~3月生まれの12カ月分だった人員を4~8月生まれの17カ月分に増やさなくてはならず、それを避けるには1カ月ずつ対象の生まれ月をずらして5年で移行する煩雑な手続きが必要になるという。これなどは、とにかく実施してしまえばいい問題だ。また、今回のコロナ危機による休校対策としては、リモート授業の充実が急務であり、9月入学は逃げだという批判もある。この点については、必要に応じてリモート授業ができるIT化と9月入学は、どちらも重要な施策なので、並行して進めるべきだ。
さらには、日本の入学式は桜の季節でないとダメだという声、あるいは3月卒業でないと就職時期が変わってしまい混乱するという意見もある。就活については、時代遅れの新卒一括採用を変えるには、9月入学は良いチャンスにできると考える。季節感について言えば勉学に集中できる秋の季節が新学年というのはアメリカでも成功しているので、日本でも問題ないであろう。急浮上した日本の9月入学、何とか実現をしてもらいたい。
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(2020年6月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2020年6月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
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