今回はクレンザーを食べるはなし。
といっても、掃除用のクレンザーを食べるはなしだと思った読者はいないだろうが(たぶん)、口の中を清掃するクレンザーのはなしである。
正確にいうと、パレット・クレンザー。Palate CleanserともPalette Cleanserとも書く。
Palateとは口蓋、上あごのこと。転じて口の中で味覚を感じるところ全体、味覚そのもののことをさす。
Paletteは、絵の具をまぜて色を調合するボードのこと。
口の中で料理が咀嚼されて素材や調味料がまざりあい、全体としての味や嗅覚が感じられるボードという意味だ。
PalateとPaletteはまったくちがうことばなのに、同じ意味で使われ、発音もとても似ているというのはこれいかに。
いずれにしても、パレット・クレンザーとは、ひとつの料理を食べたあと、次の料理を食べるまえに、口の中をいったん洗い流して、あたらしい味をあじわう準備をするためのものである。
だからコース料理などで、さかな料理と肉料理のあいだにシャーベットがでてきたりする、あれである。
さかなの味やそれに使われたソースのあと味を消して味覚をリセットし、肉料理をできるだけ楽しむ。
さらには、温かい料理のあとにいったん口の中を冷やして、次の料理の温かさを楽しむという意味もある。
ところが、ホテルの宴会コース料理などで、まずサラダがでてきて、そのあとにすぐシャーベットがでてくることがあるが、理にかなっていない。ちょっと気どってるだけですね。
シャーベットのフレーバーはレモン、グレープフルーツ、桃、ミント、ライムなどの柑橘系やさっぱり系が好まれる。
チョコレートアイスクリームはまず絶対でてこない。
日本料理のコースでは、料理から料理への移り変わりというものもちゃんと考慮されて組み立てられているから、パレット・クレンザーは必要ない。
例外は寿司だ。
寿司のネタはどれもとても繊細微妙な味ゆえ、一貫一貫口の中を清掃して味覚を研ぎ澄ましてから次のネタにいきたい。そこで日本料理としては珍しく、最初からお茶がでているし、ガリもまさにパレット・クレンジングの役割の一端を担っているのである。
そう、お茶のように、飲みものでもクレンザーになる。
チャイニーズ・レストランでは最初からお茶がでる。これも割と味の濃い中国料理にあって、まさにその目的だ。
フランス人やイタリア人は、料理といっしょにワインはもちろん、まずかならず水を注文する。これもやはり同じ目的。
ところで、この「強い味のあとにさっぱりしたい」という感覚、ほかにもなんかあったような気がしませんか。
そう、デートのあとですね。
強い個性の相手、よくしゃべる相手とのデートのあと、ちょっと疲れてあたまの中をクリーンにしたい、個性の少ない、自分をあまり主張しない人に会ってほっとしたいということはありませんか。
そういう相手のことを、英語でpalette cleanserというそうである。
いい得て妙ですね。
LA&OCではココ!「予算」は2人分です
Providence
LA界隈ではトップクラス、すべての料理を含めてもベスト5に入る店。ここにはおまかせコース料理が何種類かあり、内容はそのときによってちがうが、だいたい途中にパレット・クレンザーがでてくる。
予算:$200
5955 Melrose Ave., Los Angeles
☎323-460-4491 www.providencela.com
Lunch: Fri 12:00pm-2:00pm
Dinner: Mon-Fri 6:00pm-10:00pm
Sat 5:30pm-10:00pm
Sun 5:30pm-9:00pm
Basilic
小さくて、派手ではないけれどホンモノのフランス料理が食べられる店。スイス系料理もある。ここのコース料理(テイスティング・メニュー)には通常パレット・クレンザーがでてくる。それだけでも非凡な味。
予算:$100
217 Marine Ave., Newport Beach
☎949-673-0570 www.basilicrestaurant.com
Tue-Sat 5:30pm-9:00pm
Closed on Sun and Mondays
(2012年10月16日掲載)
クレンザー食べたい
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