Q. 小学生2人。夏休みに自宅で指導できる日本語力向上の良い方法は?
A. 読み聞かせ、書き写しがおすすめ「継続は力」で、習慣付けを
夏休みです。子供に「勉強しなさい」と言っても、「夏休みは遊ぶためにあるんだよ」と切り返されるのが落ちです。「勉強」と考えずに、「日本語に毎日触れる習慣付け」を目標にしてみませんか。その方法として、幼児、低学年の子供には「読み聞かせ」を、4年生以上には「書き写し」をすすめます。
読み聞かせ簡単です。毎日決まった時間に、少なくとも30分位、日本語の本をお母さんが読んで聞かせるだけです。クッションのよくきいたソファーに子供と一緒に座って、子供が選んだ本を読んであげるのです。
低学年の子供は、まだ字を拾い読みです。「うちの子はもう本が読めるから」と言わずに読んであげて、書かれた日本語のリズムや言葉のイントネーションをお母さんが口移しで教え、言葉の意味を説明してあげるのです。
始めは、子供が絵本や童話を選んでも気にしないで続けます。子供は同じ本を何度も持ってきまので、お母さんの頑張りどころです。短い文章でも、大げさに演技して読んであげましょう。しばらくしたら、「この本、お母さんが子供の頃読んだけど面白いよ」とそっとお母さんの好みの本を出してみましょう。そして、お母さん自身も楽しみましょう。
我が家の3人娘は、小学校高学年になるまで、母親にほとんど毎日「読み聞かせ」をしてもらいました。「読み聞かせで、日本語の基礎、日本の文化や習慣を日本語で学んだ。そして、日本に興味を持ち続けることができた」は、バイリンガル・バイカルチャーに成人した娘たちの言葉です。
書き写し
3、4年生からは子供に日本語の本を選ばせて、その本を1日に原稿用紙1枚(400字程度)書き写させるだけです。
家庭での会話が日本語でも、バイリンガルとなるためには書かれた日本語を読めるようになることが必要です。書き写す作業を通して、日本語を読み書く基礎を作ることが目的です。あまり難しく考えないで、「書かれた日本語に触れる」が当面の目標と考えてください。
場所はキッチンやリビングルームのテーブルなどでOKです。できれば、お母さんも付き合ってください。お母さんが台所仕事をしながら「やりなさい」では、子供のやる気はもうひとつ。
お母さんのやってはいけないこと。
その1
「何これ。もっときれいに書きなさいよ!」とは絶対に言わないこと。毎日漢字を書いていない子供が、お母さんが満足するレベルの字を書けるわけがありません。やんわりと「丁寧に書こうね」ぐらいで辛抱してください。
その2
「教科書を書き写しなさい」もダメです。子供の好きな本はOKです。最初は、ひらがなばかりの本を子供が選んでも、ニッコリと。教科書は、お母さんは教育上良いからと思われるでしょうが、子供にとっては大嫌いな本の一つです。子供が喜ばない本を選ばないこと。絵本から写し始めてもOKです。ただし、「マンガ以外ね」とルールを決めます。
中・高校生には、『天声人語・英文対照版』がベストです。朝日新聞に掲載された「天声人語」とその英訳が見開きで掲載されています。英語の方が得意な子供は、英文で内容を理解してから日本文を書き写します。日本文は800字程度ですから、書き写し2回分です。漢字に振り仮名が打たれ、簡単な用語解説も付いていますので、自習用に最適です。
「書き写し」は勉強とは呼べないかもしれませんが、私自身の経験で、帰国子女大学入試を目指す高校生、日本の大学を目指す外国人留学生に活用してもらって大きな成果を上げています。
継続は力
「読み聞かせ」「書き写し」は単純な作業です。単純だからこそ、工夫すれば長続きします。その継続の中で、子供の日本語力、日本語での知識が身に付いていきます。1日の書き写しを完璧にやらせるよりも、「50点、60点の書き写しを30日続けさせる」と考えてください。
そのためには、お父さんの参加も大切です。帰宅したお父さんが、子供が書き写した原稿用紙の隅っこに「見たよ。Very good」と書いてあげるだけで、継続する力となります。頑張ってください。
(2011年7月16日号掲載)
Q. 夏休み中に現地校の教科の成績を上げる勉強法を教えてください。
子供が6月に6年生を修了しました。英語は問題ありませんが、現地校の教科の成績が良くありませんでした。中学になる9月からの学習が心配です。
A. 新学年の学習内容の予習をおすすめします
英語力と成績
現地校の成績が伸び悩む原因として「英語力不足」がよく挙げられます。滞在年数の短い場合は、英語の基礎力(基本的な単語や文法)が十分に身に付いていないケースが多く見られます。しかし、滞在が長くなり基礎的な英語力に問題がなくなっても、道具としての英語を使って、学習内容を理解できるかどうかが成績向上の鍵となります。お子さんの成績を上げるサポートに、英語力の向上だけではなく、学習内容の理解向上を目指しましょう。
新学年への予習
英語より日本語の方が得意であれば、日本語で9月からの学習内容を予習させてあげてください。この予習の目的は、9月からの現地校での授業で、最初から「お客さん」にならずに、その学習内容を少しでも理解させてあげることです。授業の内容が理解できると先生の評価が上がります。AやBが付き始めると、良い成績への欲も出ます。このサイクルに入れば、自然に成績も上がり、子供の自信につながります。
最終的にお子さんに自信を付けさせるための予習ですので、「新学年の学習内容を完全に予習し、理解させる」など気合を入れ過ぎて、逆に自信を失わせることのないようなサポートを心がけましょう。
算数・数学
現地校より1つ上の学年の日本の教科書を使って、予習をさせてあげてください。日本の教科書の学習進度は、現地校での同学年の学習進度よりも遅れている学年が多いです。そのため、補習校や日本の学校で算数が得意だった子供でも、学習内容が先に進んでいる現地校での算数の勉強に苦労する場合があります。計算問題ができるように予習させることが必要です。新しい単元の概念や細かな説明が理解できなくとも、式を見て、その計算ができるようになるだけで十分です。
英文法の勉強
小学校高学年以上ならば、日本語で英文法を勉強させて、英語力の向上を目指すことが可能です。その内容は、中学1・2年生レベルの基本的な文法事項で十分です。名詞・代名詞・形容詞・副詞などの品詞の区別、動詞の活用と簡単な時制などの項目を、受験用ではない、基礎的なテキストを使って教えてあげてください。基本的な動詞の活用(現在・過去・過去分詞)をゲーム感覚で覚えさせると効果があります。くれぐれも、ご自分の知っている内容をすべて教えようなどと意気込まないでください。
社会
予習の効果が最も大きいのは、社会です。どの学校区でも学年ごとの学習分野(カリフォルニア州の歴史・地理・アメリカの歴史など)が決まっています。次の学年での学習分野を、近所のお子さんなどに聞いてください。また、来年度の教科書を入手してみてください。入手困難な場合、教材店でその内容のテキスト・問題集などを購入することをおすすめします。教科書・テキスト・問題集のいずれも、どんな内容を勉強するのかをお子さんに知らせる程度の予習で十分です。写真・表・図など簡単な説明を、日本語で話してあげるだけでOKです。文章の解説を覚えさせる必要はありません。
誰が教える?
お父さん・お母さんが、感情的にならずに、子供に教えるのがベストです。次の候補は、バイリンガルの高校生・大学生です。説明しようとする学習内容を自分自身が勉強した経験があり、日本語で説明できるお兄さん・お姉さんを探してください。「日本語では説明できません」と断られたら、「テキストに出る言葉や単語は英語のままでいいから」と交渉しましょう。「これはSanta Barbaraのmissionの写真でしょ」と話ができれば十分です。
個人的に指導してもらえる人が探せなくて、塾などに頼む場合は注意が必要です。進学や受験を目標にした塾ではなく、基本を個別指導してくれるところを探してください。受験指導の塾は、日本の学年での学習項目を受験レベルで勉強させます。その内容とレベルは、現地校の学習内容とは異なり、子供が困難を抱え、自信を失うケースが多く見られます。「秋の新学期には、こんなことを勉強するんだ」とお子さんに知らせるための、日本語での予習です。試してみてください。
(2008年7月1日号掲載)
Q. 夏休みを使った有意義な勉強法を教えてください。
現地校の小学校と中学校に通う子供がいます。夏休みの間にできる勉強法を教えてください。
A. 前の学年の復習や予習をするのに絶好の機会です
現地校の勉強
「夏休み前に教えたことを忘れてしまうので、9月からの指導が大変」と現地校の先生である友人が言いました。夏休みには、前の学年の復習や次の学年の予習などができます。
●復習
算数・数学など、前の学年の学習の上に新しい学習内容を積み重ねていく教科に遅れがある場合は、ドリルやワークブックなどの自習教材を与えて、復習する必要があります。もし、英語での復習が大変ならば、同じ内容の日本の教科書を使うのもいい方法です。もちろん、日本の教科書は予習にも使えます。
●予習
次の学年で学ぶ社会、特に歴史の予習を強くおすすめします。これまでの日々の生活の中で、見聞きした歴史事実を柱にして指導していくのが歴史学習の特徴です。アメリカの歴史なら、お子さんたち(保護者も)はあまり知識はありません。少しでも知識を貯金しておくための予習です。次の学年で使う教科書は、一般の書店で購入できます。また、ドリルやワークブックも使えます。
●補習
教科書の内容ではなく、単語・読解力・文法などの基礎的な英語力の向上です。これは、夏休みだけではなく、日頃から色々工夫されていると思いますので、お任せします。
ただ1つ、予習と同様に、次の学年で読む小説などの課題を学校の先生に聞いて、事前に読ませてください。いきなり英語が大変なら、日本語の訳本を先に読んでも構いません。お子さんの学校や学校区で作っている「Core Book List」には、必読・推薦図書が挙げてあります。英語の読書は、夏休みだからできる最も大切な活動です。
サマースクール
最近は、学校教育に使える財源が少なく、学校や学校区が提供する無料のサマープログラムも少なくなってきました。しかし、州の統一試験結果などに基づいて、英語力の不十分な子供のためのプログラムなどを実施している学校区もありますので、学校からのお知らせに気を付けてください。
高校生になると、成績が良くなかった科目の再履修や、基礎科目の単位が取得できるサマークラスがあります。ほとんどのプログラムは、学校区が承認した短大などから有料で提供されます。8年生終了後の夏休みのサマースクールで取得した単位は、高校の単位と見なされるので、成績にも十分注意が必要です。
日本語での勉強
●補習
現地校と違って、補習校は日本の学期に近く、夏に入ってもしばらく授業があります。年間授業日数を確保するために、夏の集中授業を行う補習校もあります。いつもどおりに勉強を続けてください。
帰国が近い、もしくは帰国後に受験があるお子さんは、学習が抜けた部分や理解不足の学習内容を復習するのにいい時期です。すぐに塾や家庭教師に頼らずに、ご自分たちでお子さんの勉強の状態を把握することが大切です。
体験入学
この夏、日本に一時帰国する機会があるのなら、日本の学校に2、3週間通い、学ぶことができます。ただし、短い期間なので、学力向上よりも日本の学校生活の体験を中心に考えてください。事前準備が必要なので、体験入学を希望する学校にすぐ連絡を取ってください。
家庭での学習
日本語での学力向上を目指す場合、家庭での学習環境作りが保護者の仕事です。特に、お子さんの日本語での読書の習慣化に、家庭全員で挑戦してください。夏時間で長くなった夕方や夜のひと時を、家族で本に親しむ時間と決めましょう。そこで獲得した読書の習慣は、一生の宝物になります。
全部はダメ!
この文章を読んで、「全部やらせよう」などと決して思わないでください。「こんなことが可能ですよ」という、私からの情報ですから。どれかを実行してみたいと思われるならば、お子さんの様子や環境をよく観察し、お子さんの意見も取り入れてください。お子さんにとっても、お父さん、お母さんにとっても、良い夏休みになることを祈っています。
(2008年5月1日号掲載)
Q. 滞米2年の5年生、社会科で苦戦。夏休みにできる勉強は?
A. 現地校の6年の教科書を購入し、夏休み中に日本語で予習を
英語での知識不足
英語力は伸びてきたのに、社会や理科の教科学習で成績が伸びないケースの理由のひとつに「英語での知識不足」があります。
日本の小学校3、4年生が都道府県名の漢字の読み方とその地図上の位置を覚えるのと同じように、アメリカの子供も州名のスペリングとアメリカ大陸での位置を学びます。日本から来たばかりの子供は、マサチューセッツ州の英語の綴りが読めず、ボストンがアメリカ地図のどの辺りにあるのかを知らないので、アメリカ建国の歴史を覚えたり理解することが十分できません。
また、日本・アメリカ共に小学校高学年になると、教科書で学ぶ学習内容、項目が急激に増えてきます。さらに、現地校の社会の教科書は500ページにも及ぶ厚さです。限られた英語力でそのページを読みこなし、その多い学習内容を理解し、しっかり記憶することは至難の業です。
このように、学んだことがない内容や不十分な英語力で学習内容が理解できないことが理由となって、「英語での知識不足」が起こり、良い成績をあげることが困難になるのです。
日本語で予習を
その知識不足を補うために、夏休みの間に、現地校の新学年の教科書を日本語で予習することをおすすめします。
まず、9月から現地校でお子さんが使用する社会の教科書を購入してください。教科書ですが、一般の書店で購入できます。そして、その教科書の内容を日本語で予習します。予習の目的は、教科書の文章を細かく理解することではなく、何が書いてあるか、どんな内容の学習なのかを理解することです。ご両親が手伝える現実的で簡単な方法は、教科書中の絵、写真、図などの説明です。それらの下に書いてある簡単な説明を読んで、何の絵・写真なのかの説明だけでも結構です。それができれば、文章中に太字やカラーで印刷されている基本的な用語を説明してあげてください。自分で購入した教科書ですので、説明を教科書の余白に書き込みしてもOKです
説明の秘訣は「子供がすでに身に付けている知識を活用する」ことです。日本語で知っている知識と、教科書に英語で書かれた内容をリンクしてあげることで、その内容がよく頭に入って、覚え、理解することが容易になります。もうひとつは、物語風やお芝居調で説明し、お子さんの記憶に少しでも残るように工夫することです。
この予習を通して学習内容が頭の隅に残っているだけでも、新学期の授業で「今、何の勉強をしている」かがわかるので、授業の「お客様」でなくなり、学習内容の理解が進みます。この方法で数多くの子供の予習を手伝ってきた経験から、強くおすすめできます。
役立つ補習校の勉強
補習校での日本語での学習も「英語での知識不足」の解消に大きな効果を発揮します。まず、日本語で基礎知識を習得して、その知識の内容を英語に置き換えることにより、現地校での英語の学習でサバイブできるのです。
渡米後の学年の進行と共に、日本で習得した知識のレベルよりも高い内容の学習が現地校で始まります。この「知識の貯金」を使い果たす現象は、大体渡米後2年くらい経つと始まります。この現象を少しでも遅らせるためには、補習校での日本語での学習を頑張って続けることです。
さらに、渡米後、数年間は英語力が壁になって、現地校の学習でフルに頭を回転させる機会が限られます。しかし、その間、日本語でしっかり考え理解する訓練を積み重ねることは、最終的に、日英の言葉の障害を乗り越えた真の思考力・学力を養成します。
日本語の習得、伸長に加え、これらの理由から、補習校で日本語による教科学習を続けることが大変重要なのです。
◇ ◇ ◇ ◇
安全な学校生活のためにも、日本語での予習が必要です。現地校の校長から、「日本から来たばかりの子供たちに、理科の実験の基礎的内容を日本語で予習させてほしい」と、何冊もの現地校の教科書を渡されたことがあります。「先生の英語での指示が理解できなくて、火や薬品を使う理科実験中に、日本人の生徒に事故があった」が、協力依頼の理由でした。
効果の大きい日本語での予習です。試してみませんか?
(2011年6月1日号掲載)