Q. 日本語教育のチョイスを教えてください
小学校からの日本語・日本文化の教育のチョイスは?
A. 子供の教育目標とニーズに合わせて選ぶこと
1. 日本人学校(全日制)
海外にある、日本の学校のコピーです。
基本的に、日本の学校と同じ学習内容を週日の朝から夕方まで(全日制)受けられ、日本の小学校・中学校の卒業資格が与えられます。北米の4つの日本人学校では約500人が学んでいます。
日本人学校に比べ現地校で学ぶ子供(約2万人)が圧倒的に多いのは、アメリカの学校と英語での教育への保護者の期待からです。それに対して、海外にいても日本語での教育、特に帰国後の進学のため日本と同じ教育を願う保護者が選ぶのが日本人学校です。その結果、滞在予定が短かったり、帰国までの滞在期間が比較的短い子供が多く在籍しているのが実情です。
2. 補習授業校(補習校)
現地校での学習と並行して、週末や週日の夕方に日本の学校のカリキュラム・教科の一部を学ぶ学校です。しかし、日本の法律による小・中の卒業資格は取得できません。
北米には10人程度から千人以上の子供が学ぶ補習校が約80校あり、およそ1万2千人の子供が学んでいます。
海外に一時的に滞在する子供が日本帰国後の学習で困らないように指導するのが、補習校の設立目的です。そのため、日本の学校と同じ教科書を使用して、日本語で授業をしています。
近年、長期滞在の子供が半数以上を占める北米の補習校が多くなり、その教育にも変化が起きています。それは、渡米間もない子供と長期滞在の子供の日本語力・日本語での学力の差が大きく、一斉授業が困難になる問題です。多くの補習校は、レベル別のクラスを作り対応していますが、さまざまな問題が生じています。
長期滞在の子供にとって、現地校と補習校の勉強を並行して続けるのは大変です。しかし、言語習得の完成期である中学1・2年まで、日米の学習をやり遂げた子供で、どちらもネイティブレベルのバイリンガルに育った若者が多く出てきています。
3. 日本語学校
第2言語(外国語)として日本語を教える学校です。
日系人の保護者が子弟の教育のために作った学校が中心で、北米の大都市や歴史的に日系人の多く住む地域にあります。最近は、日本文化に興味を抱く日系以外の子供たちも在籍するようになっています。
家庭で日本語以外の言葉を使って生活している子供を対象とした日本語や日本文化の教育が中心です。子供の日本語力に応じて、教材を選び、日本語や英語で指導します。
4. 日本語イマージョン校
カルバーシティーにあるエルマリノ小学校は、キンダーから6年生までイマージョン方式で日本語と英語で授業を行っている、全米で有名な公立の学校です。
日本語のイマージョン・クラスでは、母語や人種の異なる児童が、午前中は日本語、午後は英語で、言葉だけではなく、他の学校と同じように算数・理科・社会などの学習をします。
5. 塾・家庭教師
子供の日本語力や興味に応じて、個人や少人数で指導を受けます。
比較的日本語・国語力の弱くなった子供を対象にしたクラスを設ける、大都市の日本人向けの塾が増えてきています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お子さんには、どの学校?
どの学校で学ばせるかは、お子さんをどのレベルまで教育するかという、保護者の希望や夢によります。日本語での日常会話・読み書き、それともバイリンガル・バイカルチャー。どのレベルが目標ですか?
サウスベイの主な日本語教育機関
種類 | 学校名 | ホームページ |
日本人学校 | 西大和学園カリフォルニア校 | www.nacus.org |
補修授業校 | あさひ学園(土曜日授業) | www.asahigakuen.com |
西大和学園補習校(土曜日授業) | www.nacus.org | |
三育東西学園(平日授業) | www.sanikutozai.org | |
日本語学校 | 日本語学園協同システム | www.kyodosystem.org |
ガーデナ仏教界付属日本語学校 | www.gbcjls.org/jls_jp | |
イマージョン校 | El Marino Language School | elmarino.ccusd.org |
(2009年11月16日号掲載)
Q. 米国人の夫との間に幼稚園の娘。現地校のみにするか迷っている
夫がアメリカ人です。娘は今、日本語の幼稚園に通わせていますが、今後、こちらで生活をすることを考えると、この先は現地校だけに通わせるほうがよいのか、それとも土曜日の日本語学校にも行かせようか迷っています。
A. どのレベルを期待するかによって指導や学校の選択が違ってくる
帰国の予定がないのなら英語が第1言語
言語の習得には、話す・聞くが中心の生活言語、読み・書きの学習言語の2段階があります。そして、それら4技能の段階のほかに、幼児・小学生・中学生・大人などの年齢・発達段階に応じた言語の違いがあります。
ご相談の場合は、この先、日本への帰国予定もないようなので、現地校での聞く・話す・読む・書くの言語の4技能すべてが身に付く英語が、お子さんにとっての第1言語になります。さらに、ご主人がアメリカ人で英語が第1言語だと思いますので、お子さんにとって日本語は第2言語になります。
ご相談のケースだと、日本語が母語のお母さんが、お子さんにどのレベルまでの日本語を期待するのかによって、指導や学校のレベルが異なります。年齢や学齢での違いもありますが、ここでは、お子さんが成長し、英語が学習レベルで完成する6年生になった時の日本語力のレベルをみてみましょう。
① 本人は英語で話すが、お母さんの日本語での指示を理解できる
② お母さんと日本語で、日常会話程度ができる
③ 日本の同学年の子供と話ができる
④ 日常会話に加えて、簡単な日本語(2・3年生程度)の読み書きができる
⑤ 日本の学年相当の読み書きができる
ここで示したどの段階までを、お母さん、お父さんが希望するかにより、教育の方法や学校が決まります。
もし、これらの選択肢の内、①、②程度の日本語力を希望するならば、お母さんがご家庭で努力すれば実現可能です。しかし、③以上のレベルを期待するならば、学校などで他の子供たちと一緒に学ばせることが必要です。
南カリフォルニアには3タイプの学校
南カリフォルニアには、週末などに日本語を指導してくれる教育機関がいくつかあります。それらの学校は、日本語の指導レベルで次の3つに大きく分けられます。
① 英語が完全に第1言語になっている子供に、英語で日本語を教える
② 主に日本への帰国予定のない子供を対象に、日本語のレベルに応じた内容を日本語で教える
③ 日本帰国を前提として、日本の学校と同じ学年レベルの教材を使用し、同じレベルで教える
ご質問にある「日本語学校」がどんな学校を示しているのかはっきりしませんが、上の①、②に該当するのが「日本語を教える学校」です。③は日本語補習授業校(補習校)と呼ばれ「日本語で学習をする学校」で、日本語の言語学習だけではなく、日本語で算数・社会・理科などの科目の勉強をします。
このように、将来の子どもの日本語力への期待度、通学可能な学校などの条件も関わってきます。
現地校での勉強でまず学習スキルを付ける
今まで日本語の幼稚園に通わせていたのですから、土曜日の補習校へ続けられるまで行かせてください。しかし、お子さんの言葉を超えた学力の基礎は、月曜日から金曜日毎日通う現地校での学習によって培われるものであることを忘れないように。また、将来、日本語でも読み書きできるようなレベルのバイリンガルに育てたいなら、本人だけではなく、お母さんの大変な努力が必要であることをよく肝に銘じて、指導してください。
高いレベルのバイリンガルに子供たちを育てるのは、親にとっても、子供にとっても、大変な仕事です。しかし、最終的に完全なバイリンガルに育てることができなくても、子供は多くのことをそのプロセスで学びます。単に言葉だけでなく、文化を含めて非常に多くのことを学びます。子供の将来に必ず役に立ちます。
しかし、バイリンガルの基礎は、第1言語です。ご相談の場合は英語が第1言語です。まず、現地校での英語での学習を大切にしてください。アメリカの学校では、日本の学校で決して学ぶことのできない学習スキル(Study Skills)を身に付けることができます。このスキルは、日本語や日本語での学習にも大きな力を発揮します。
(2004年9月1日号掲載)
Q. 日本人向けの学習塾について教えてください
子供の友達が日本語で勉強する学習塾に通い始めました。南カリフォルニアにはどんな塾がありますか?
A. 年齢、指導の目的、指導方法、規模など、多様性に富んでいます
1. 現地校の学習サポート
学習塾の目的の中心は、現地校での学習への適応や成績向上です。
■「英語の基礎力向上」
渡米間もない子供が現地校の授業に参加・理解できるように、基礎的な英語(ESLレベル)の会話や読みを中心として、指導してくれます。英語だけを教えるために、学校とは別の独自の教材を使うところがほとんどです。
■「現地校の学習の補習」
現地校で学ぶ教科や内容に苦労している子供に、宿題や課題などの手伝い、学習内容の予習・復習などのサポートをしてくれます。アメリカの歴史や地理などは、日本から来た子供はまったく学んだことがないので、予習をさせて、効果を上げている塾があります。
2. 日本の中学・高校の受験準備
日本の中学・高校の入学試験受験のための指導をしてくれます。
日本へ帰国した子供たちは、帰国児童・生徒向けの、国内の受験生向けとは異なる入学試験を受験するのが普通です。この「帰国子女入試」の試験科目・試験方法などは、中・高の違いや、学校によって大きく異なります。
例えば中学入試では、国内の受験生には国語・算数(学校により理科・社会も)などの筆記試験が課されるのが一般的です。しかし、海外から帰国した子供たちのために、筆記試験を課さないで試験当日の面接・作文だけで入学判定をする学校もあります。
「受験準備」の学習塾とひと口に言っても、どのようなタイプの入学試験に対する指導をしているかで、それぞれの塾の特徴が出てきます。
■「国内向け筆記試験」
国内の受験生とまったく同じ入試科目・問題の受験の指導です。このタイプの入試の受験は、日本の受験生と同じレベルの学力・知識を要求されるので、海外にいる児童・生徒にとって受験準備が最も厳しいものになります。
■「帰国向け筆記試験」
入学後、日本語での、その学校のレベルの授業についていける基礎的な力があるかどうかを見るための筆記試験です。国語・英語・算数/数学などの筆記試験が課されますが、国内生への試験内容より比較的やさしい帰国生向けの試験内容が一般的です。時には、国内受験生向けと同じ問題を出題するものの、採点で加点したりして帰国生に対する考慮をする学校が多くあります。このタイプの入試を受験する人は、国内向けほどのレベルではなくとも、日本語で書かれた問題を理解し回答しなければなりません。そのため、出題教科の内容の学習指導と受験テクニックのトレーニングを中心に行う学習塾が多くあります。
■「作文・面接」
筆記試験をまったく課さずに、現地校の成績・作文・面接だけで、入学者を決める帰国子女受入れ校が多くあります。作文は「英語のみ」「日本語・英語どちらか」と学校により使用言語が決められます。特に日本語での作文は、海外の子供たちが最も苦手とするものですので、面接同様、トレーニング・指導が必要です。それらの指導を得意とする塾もあります。
3. 日本語での基礎学力の向上
滞米期間が長くなる子供が増え、帰国や日本の学校の受験予定のない子供たちを対象に、日本語の基礎力・日本についての知識や考え方など「日本人に育てる」ための指導をする学習塾のニーズが増加しています。このタイプの塾では、「日本の学校教科書で勉強する補習授業校」と「英語で日本語を指導する日本語学校」の間のレベルと内容の指導が一般的です。
ここで紹介した学習塾のほかに、現地校での学習の補習やさらなる学習を目指した「アメリカ人向けの学習塾」や、日本とアメリカの大学進学の準備に特化した学習塾などが、南カリフォルニアでは多く見られます。これらについては、別の機会に説明しましょう。
いかがでしょうか。「学習塾」と言っても、大きな違いがあるのをおわかりいただけましたか。「子供を学習塾で学ばせるかどうか」の判断は、お子さんに何が必要かをしっかり理解することが先決です。決して、「友達の子供たちが通い始めたから」といって、慌てて決めないでください。
(2008年10月16日号掲載)
Q. 日本語に接する機会が少ないので日本人が多い学校に転校させたい
現在、子供を通わせている現地校は日本人が少なく、子供が日本語に接する機会が少ないです。土曜日は習い事があるので補習校に通わせることはできません。日本人が多い学校に転校をさせたいと考えていますが、どのような手続きが必要ですか。
A. 転校そのものは簡単な手続きだが、日本語学習は現地校以外で
転校の手順
まずは、現地校の転校のための一般的な手順をご説明しましょう。
① 現在の学校の事務室に行き、その学校から転出する旨を伝える。
② 事務員の指示に従って、学級担任(小学校)や教科担任(中学・高校)のところに行き、教科書を返したり、転出日までの成績を受け取ったりする。これで転出完了。
③ 新しい学校へ行き、転入のための書類一式をもらって記入・提出し、転入の許可を得る。
④ 登校初日に、事務員の指示に従い、小学校の場合には決められた学級に出向き、中学・高校の場合は、決めた時間割に従って授業を受け始める。これで転入完了。
高校生の場合は、卒業に必要な受講科目や単位の詳細について、カウンセラーとの相談が入ったりしますが、基本的な現地校の転出・転入は、以上のように簡単です。
同じ学校区内での転校
一般的に学校区(School District)は通学区域を指定しています。ですから、同一学校区内で転校を希望する場合、転入先の校長や学校区に説明を求められます。
Open Districtでは、学校区内の学校を自由に選べます。また、通学区域をその学校区全体に広げた特定の学校(マグネットスクールなど)を持っている学校区もあります。これらの学校に転入するのであれば、転入先の校長の許可だけが必要です。
他の学校区への転校
他の学校区の学校へ転入する場合は、アメリカの学校に初めて入学した時と同じ手続きが必要となります。特に、法律で決められた予防接種は、前の学校に入る時に完了しているはずですから、その証明を前の学校からもらって新しい学校へ提出すれば良いでしょう。
さらに、家庭での使用言語(Home Language)が英語以外であれば、英語の能力試験(Placement Test)を受けた後、転入後の受講クラスが決定します。
越境入学
どの学校区でも、保護者の勤務先がその学校区内にあるなどの特別な理由があれば、学校区や通学区域を越えた転入学(越境入学)を認める場合があります。越境入学に限らず、通常の転入でも、児童生徒数が多すぎるなどの理由で転入を拒否される場合がありますので、事前の調査が必要です。
学業の記録は?
アメリカの学校では、児童生徒の学業や活動の記録はファイル(Accum File)に記録・保管されています。転校した場合は、保護者の要請に基づき、このファイルを前の学校から新しい学校へと学校間で移すのが原則です。履修単位を元に卒業資格を授与する高校の場合とは異なり、小学校や中学校ではこの記録の扱いが雑で、時として紛失してしまう場合もあります。転出時に学校へ申し出て、ファイルを保護者自身が新しい学校へ持参することも可能です。
日本語のために、現地校を転校?
これまでの子供たちの実態から判断すると、現地校での友達との日本語による接触程度では、遊びの中に出てくる、ごく限られた単語を覚える程度です。
この文からだけでは、お子さんの年齢、滞在歴、今後の予定などがはっきりしませんが、「土曜日は習い事があるので補習校に通わせることはできません」とのこと。日本語の実力をどのレベルまで伸ばしたいと考えられているのでしょうか。
「日本人が少ない」からといって、転校しても、昔のように1クラスに日本人生徒が何人かいる学校は、南カリフォルニアといえども、ほとんどなくなってしまったのが現状です。よく調べてみてください。逆に、この地域には、良くも悪くも、全米の他の地域では望めないほどの、塾や平日の補習校など、日本語での勉強の機会に恵まれています。「日本語に接する機会」を求めるならば、その中から、お子さんの状況に合った勉強の方法を探すことをおすすめします。
また、私の持論ですが、お子さんが大人になった時に役立つ日本語力をつけるためには、会話だけではなく読み書きのトレーニングが必要です。もう1度、お子さんの日本語教育について考えてみませんか?
(2006年8月16日号掲載)