Q. 現地校で、発言回数が重要視されるのはなぜですか?
授業の際、娘の発言が少ないと、先生から注意されました。確かに、娘は家庭内でも口数は少ない方ですが、なぜ現地校では発言回数を重視するのでしょう?
A. 授業態度を低く評価され、成績が下がることがあるからです。
授業への参加?
アメリカの学校での授業態度の評価項目の1つに「授業への参加(Class Participation)」があります。文字通り、子供がどれだけ積極的に授業に参加したかを評価する項目です。
具体的には、授業中の質疑応答やディスカッションで積極的に発言し、自分が学ぶだけではなく、グループ全員が学ぶことに、グループの一員としてどれだけ貢献しているかを評価するものです。先生によって、評価の基準に多少の差はありますが、子供の学習態度を評価する大切な項目であることに、変わりはありません。
【授業参加の例】ディスカッション
授業でのクラス・ディスカッションやグループ・ディスカッションは、あるテーマについて子供同士が意見を出し合って、一緒に考えます。もう少し詳しくみると、「他の人の発言を聞く」「それについて考える」「自分の意見をまとめる」「その意見を皆に向けて発言する」というステップを繰り返します。そして、時には、グループとしての意見や考えをまとめるというプロセスです。
この「聞く」「考える」「話す」という繰り返しのプロセスをトレーニングするのがディスカッション活動です。活動には、「子供同士で学ばせる」「良きアメリカ国民を育てる」という、大きなねらいがあります。
子供同士で学ぶ。日米の教育の違い
学校での授業には、「先生が教え、子供は受身で学ぶ」「先生はサポーターで、子供同士が主体的に学ぶ」という2つの方法があります。「先生の話をしっかり聞き、先生に聞かれた時に発言する」という日本の典型的な授業は、前者の受身的な学びが中心であることが理解できます。
一方、アメリカの教室では、「授業は先生と子供全員で作り上げていくもの」という考え方のもと、後者の「子供が主体的に学ぶ」方を大事にしています。
さらに、アメリカの授業では、ディスカッション活動を通して、自分1人では思いつかないような考え方や情報を、また、それについてみんなの考え方を、お互いに提供・共有(share)するという「子供同士での学び合い」が、日本と比べてより大きな意味を持っています。
この日米の授業に対する考え方の差が、「発言」に対する評価の違いに表れているのです。また、お子さんだけではなく、日本の教育しか受けていない保護者の皆さんの「発言」についての混乱の原因にもなっているのです。
良き国民を育てる。アメリカの教育の目的
「子供同士で意見を出し合って、1人1人がよく考え、お互いの意見を修正し合って、最終的には1つの意見にまとめていく」というディスカッションのプロセスは、アメリカの国の基礎である「民主主義」の根幹です。
そのプロセスを、国民としてこの国を支えていく子供たちに身に付けさせるために、国民の税金を使った学校教育を通して、日々の学校での活動の中でトレーニングすることは当然です。「良きアメリカ人」を育てるという、アメリカの教育の目標です。
例え、皆さんが数年の滞米のみで日本に帰られるとしても、現地校で、この国の教育を受けているならば、お子さんを「良きアメリカ人」に育てていかないと、高い評価は受けられません。
☆
アメリカの学校で学んでいる子供をサポートしていくために、保護者として知っておいてほしい「アメリカの教育の考え方」についてお話しました。ここで紹介した背景を含めて、おとなしい性格であっても、「必要な時にははっきりと発言する」という努力が必要だと、お子さんに話をしてあげてください。その努力によって、友達の輪が広がり、学校での生活がより楽しくなるに違いありません。
また、いつもの話になりますが、その努力が、日本帰国後やお子さんの将来に「宝」になることを、最後に付け加えておきます。
(2008年3月16日号掲載)
Q. 成績表で「積極的に質問を」と 指摘されました。その理由は?
A. 「授業中の質問・発言は成績の一部」は、アメリカの教育の特徴
「授業中の発言が少ない」「より積極的な授業参加を」と、学期末・学年末の成績表に記入されたり、保護者面談で現地校の先生から指摘されることがあります。
日本からやって来た子供たちは「質問ベタ」です。その背景には日本とアメリカの学校教育の違いがあります。
日本:質問は恥ずかしい!
日本の子供たち(小学生から大学生まで。大人も?)は、「授業中に質問することは恥ずかしい」と言います。その理由を聞くと、「『そんな簡単なこともわからないの』とクラスメートや先生に思われるから」との返事です。この「質問することは恥ずかしい」との思いは、実は、日本の学校教育の中で受けた指導や教育の結果なのです。
授業中に質問した生徒に対して、「お前、授業をちゃんと聞いていなかったのか!?」と詰問する先生すらいます。その先生の頭には、「僕は、ちゃんと説明をした。その説明で理解できないのは、生徒の努力不足だ」との思いがあるはずです。そして、その思いは、「教師の話を聞いて理解するのは、生徒の責任だ」、もっと極端には「先生の説明はいつも完全だ」という考え方に基づいています。
この考え方を元にした学校教育を受け続けた子供が、「質問することは恥ずかしい」と思い、質問をしなくなるのは当然です。
アメリカ:質問は先生の恥?
一方、アメリカの先生は「子供が質問をするのは、私の説明が不十分な証拠だ」と考えています。「子供に理解させる責任は、先生にある」との教育文化が背景になっています。
そのため、「Any questions?」と、子供たちに何度も問いかけます。そして、出てきた生徒の質問に対して、前とは異なる新たな説明をして、「これでわかった?」と確認をします。理解する責任が子供にある日本と先生にあるアメリカ。まったく逆の教育文化です。
質問を活用した授業
現地校での質問の大切さには、もう1つの理由があります。それは、子供からの質問に答えることで、クラスの子供全員の理解を深める授業方法の活用です。
「くだらない質問はない!」は、現地校の先生の口癖です。1人の子供の質問が、他の子供たちが抱いていたのと同じ疑問である場合が多くあります。また、その質問が、他の子供たちが「わかったと思い込んでいた」、基礎的で重要な内容の場合もあります。さらに、クラスメートの誰も思い付かない、まったく異なった視点に立った貴重な質問であることもあります。
これらの、子供たちから出された質問を活用して、子供たちの間でのディスカッションを展開し、学習内容のより深い理解へと進めている授業を、現地校でよく見かけます。
発言は、成績評価の一部
このように、授業中の子供の質問、また他の子供の質問や回答に対する発言(コメント)などを、授業中に積極的に発することが子供たちに求められています。そして、その授業中の発言や質問は、授業態度や授業参加(class participation)の一部として、評価に反映され、成績表に記載されます。授業参加の評価を、評価全体の2割程度まで配点する先生も珍しくありません。
お子さんへのアドバイスを
日本で学校教育を受けてきた子供にとって、「質問はしない」日本の学習習慣を、現地校への編入と同時に「積極的に質問する」に切り替えることは、不十分な英語力も加わって、大変な努力が必要です。しかし、お子さんが現地校での勉強にサバイブするために、「質問上手」になることが必要です。
もし、お子さんが「質問は恥ずかしい」と感じているならば、ここで紹介した日米の学校教育の違いを話して、その理由を理解させてあげてください。
◇ ◇ ◇ ◇
「積極的な発言力」「的確な質問ができる」は、帰国子女の大きな「望ましい特性」です。お子さんが、現地校での学習を通して、これらの「宝」を身に付けられるよう、サポートしてあげましょう。
もっとも、友人の現地校の先生の言う「授業中の質問と、授業中のおしゃべりを勘違いして、むやみやたらに発言する子供が増えてきた」にもあるように、アメリカの子供たちにも変化が出てきているようです。
(2010年8月1日号掲載)
Q. 現地校の出欠管理。 なぜ、こんなに厳しいの?
A. 子供の指導に加え、学校の財政維持が大きな理由
アメリカの小学校から高校まで、子供の出・欠や遅刻早退に大きな注意を払っています。子供の発達段階に応じた理由と、学校自体の都合があります。
小学校:学習指導のため
「出欠記録を見ていると、子供の学校外での生活や学習の様子がわかる」。現地の小学校の校長先生の言葉です。
「子供が学校で落ち着いて勉強できるように登校させる」ことを、小学校の先生たちは保護者に期待しています。小学生の欠席や遅刻は、保護者の家庭生活のコントロール不足とみなされます。当然その結果が、子供の学校での学習や生活に現れてきます。
欠席や遅刻が多くなった子供に、まず先生が事情や理由を聞きます。担任や校長から保護者に家庭生活改善の希望が電話で伝えられます。それでも続く場合は、保護者を呼び出して面談を繰り返します。家庭を訪問するようなことはありません。
中学:生活指導のため
中学では、学習指導や生活指導のために、出欠記録が活用されます。
中学校になると、勉強が質量共に増えてきます。教科によってはレギュラーやアドバンス(オナーズ)などと呼ばれる習熟度別クラスで、子供の学力に応じた指導が始まります。この変化に、子供たちは勉強のプレッシャーを感じ始めます。「遅刻・欠席が多くなってくると、勉強が赤信号」とみなされます。
また、中学生は思春期の真っ只中です。急激な身体的成長と並行して、反抗的な態度が目立ってきたり、生活態度が大きく変わってきます。学校が、友達との社会生活の場所へと変化してきます。身体・精神の急激な変化に自分自身がどう対応したら良いのか戸惑って、行動や生活のモデルとして学校の友達を大変気にするようになります。友達の影響(peer pressure)を強く受け、一緒に行動することが多くなり、家庭や学校での問題行動がしばしば見られるようになります。その変化が出欠記録に現れてきます。
遅刻や欠席、時には早退などが増えてくると、校長やカウンセラーの本人との面談に始まり、保護者の呼び出しへと発展していきます。
高校:単位発行のため
アメリカの高校は、受講クラスの科目・種類や取得単位数で卒業が決まります。単位の発行は、受講クラスでの宿題やテストなどの学習成果に加えて、授業への出席日数・時間数を基にして決められます。
成績がたとえ「A」でも、一般的に、合計授業時間数の1割以上の欠席があると単位は発行されません。例えば、年間授業日数は180日で毎日同じ時間割で授業があるとすると、学期(セメスター)の授業時間数90コマとなります。そのうちの1割、9回を欠席すると「F」が付いて単位が発行されません。授業への遅刻や早退も「3回で欠席1回とみなす」などと扱われます。
欠席や遅刻・早退の回数が増えてくると、土曜日や放課後などに補習させて、なんとか出席時間数を確保する機会を与えてくれる学校もあります。
学校:補助金確保のため
公立の学校を運営・維持管理していく基礎的なお金は、「学校に出席した児童・生徒数の毎日の平均(ADA)」に基づいて、州政府から補助金が出るのが一般的です。
補助金を少しでも多く得るためには、1人でも多くの子供が出席し、その出席者数を正確に把握・記録することが大切です。また、欠席や遅刻が「正当な理由」のあるものであれば補助金は支給されるのが一般的ですので、欠席した場合の保護者の届出やその理由の記録が欠かせません。そのための努力、出欠を記録する担当者やオフィスの設置などを、学校区や学校は決して惜しみません。
「1人の生徒が無断欠席すると、1日に数十ドルをもらえない」と、ずいぶん昔に聞いたことがあります。学校が出欠管理に必死な理由がよくわかります。
◇ ◇ ◇ ◇
ここで述べた学校での出欠に関わる話は一般的なものです。実際のルールや運営方法等は、州・学校区・学校により大きく異なります。お子さんが学んでいる州や学校のルールがどのようなものかを、一度確認されることをおすすめします。
(2010年10月16日号掲載)
Q. 子供がレポート作りで苦戦。レポート指導の目的と対策は?
A. 「調べて、書く」トレーニング。レポートの「型」を身に付ける
レポート?
アメリカの学校で必ずトレーニングされる「レポート」は、「調べた事実や内容、それに対する自分の考察・考え・感想をまとめた文章」のことです。読書後に感想を書かせたり、内容を分析させたりする「ブックレポート」と区別してください。また、「考えて、書く」のがエッセイで、「調べて、書く」のがレポートだと理解してください。
小学校での練習
小学校でのレポート作成指導は、レポートの「型」と「方法」をしっかり身に付けさせるのが目的です。「考えて、書く」エッセイと並行して、「調べて、書く」レポート作成のトレーニングが始まります。
最初のステップは、3年生くらいで、半年から1年かけて、先生の指導に従って、表紙・内容・まとめ・感想とレポートの内容を徐々に仕上げていきます。この段階では文字よりも絵・写真・サンプルなどを決められた大きさの用紙に書いたり貼り付けたりして、1ページずつ作っていきます。最後に、それらを綴じこんで1冊の本(ノート)にして、レポートの完成です。レポートの「型」と作成のステップ・内容を、子供が身体で覚えていきます。
次は、自分の住んでいる州の地理や歴史の学習の一環としてのレポートの作成です。カリフォルニアの4・5年生が作る「ミッションレポート」がその例です。キリスト教伝導のために、南から北へと建設された21のミッションをたどることにより、ヨーロッパ人による開拓初期のカリフォルニアの歴史が概観できます。子供たちは、1つのミッションを選び、1年かけてそのミッションについてのレポートを作成します。
レポートの全体構成を示す目次が、先生より渡されます。表紙にミッションの絵を書き上げ、地図を示し、建設の歴史や建物の特徴を文章にまとめます。最後に、子供自身の考察や感想を書いて完成です。選んだミッションの調査は、インターネット・図書館や自分で購入した資料を活用します。さらに、ミッションを訪問し、資料を集めたり子供自身が写真を撮ったりするのに、家族全員が協力します。子供によっては、自分のミッションの大きな模型を作って、レポートの一部として提出する場合も多くあります。
小学校の最後は、アメリカ合衆国全体の学習の一部としての「State Report」の作成です。さまざまな方法がありますが、1つの州を選んで、その地理や歴史、さらには現状を調べまとめます。あるクラスでは、自分の選んだ州の観光局に子供自身が手紙を書いて、観光用の資料を送ってもらいます。その資料の中の写真・絵・地図・図表を活用して、レポートをまとめました。
中学・高校での練習
小学校でのレポート作成トレーニングを基礎として、中学校では「調べる」、調べた結果を「まとめて書き上げる」スキルの向上が中心となります。口頭で発表する「プレゼンテーション」のトレーニングも始まります。そのトレーニングは、すべての教科の学習の中で行われます。英語・社会・理科はもちろんのこと、最近では数学でレポートを作成させる学校も見受けられます。
高校になると、「レポートが書ける」のを当然として、レポート課題が出されます。指導の中心は、「調査の方法や内容が十分で、考察ができているか」「読者が理解できるような、より効果的なレポートが書けているか」など、より高度な指導が行われます。
帰国生の「宝」
アメリカの学校で学んだ子供が日本に持ち帰る「宝」の1つが、レポート作成能力です。「レポートって、何を、どう書いたらいいんですか」と質問する日本の大学生に、レポートは書けません。日本の学校では指導されることのない能力を、お子さんは身に付けているのです。
◇ ◇ ◇ ◇
このコラムは、レポートの一般的な内容や指導方法を、保護者の皆さんに理解していただく目的で、まとめてみました。ここで説明したレポートの構成や狙いを、お子さんに日本語でお話ししてあげてください。お子さんのレポート理解の参考になると思います。
(2011年1月16日号掲載)