アメリカでいちばんよく食べられる鴨はなんだかご存じですか?
答えは、ペキンダック。
「えー??中国ならともかく、アメリカで?」と思われるだろうが、ちゃんとWikipediaにそう書いてある。
じつは、Pekin Duckという種類の鴨があるのだ。それがアメリカではいちばんよく食べられる種類だとのこと(厳密にいうと〝家鴨﹇アヒル﹈〞だけど)。
その名は「北京ダック」と関連しているのだろうが、gが抜けているところが料理としてのPekingDuckとは違う。
料理の北京ダック(北京烤鴨)については、じつは二種類ある。
北京スタイルの北京ダックと香港スタイルの北京ダックだ。
日本語のまちがった表現として、よく「馬から落馬した」という例がひかれるが、これじゃまるで「馬から落馬」と「ロバから落馬」みたいですね。
北京スタイルは、肉のついた皮を、ブリートのように薄い皮で巻いて食べる。いっぽう香港では、皮だけを削いで薄いパン状のものにはさんで食べる。
どちらも優劣つけがたいうまさがあるのだが、アメリカにあるのはほとんどが香港風で、北京風は滅多に食べられないのが残念だ。
僕が北京で食べた北京風北京ダックは(しかもPekin Duckだったかも)、全聚德という超老舗と、大薫焼鴨店といういま人気の店。
前者はトラディショナル、後者は、ニュースタイル。最初に焼鴨といっしょにザラメがでてきて、これをちょっとつけながら食べる。本来ダックは甘いものにあうのだが、ザラメとはおどろいた。
蝦えびのテンプラに塩をちょっとつけて食べるのと似て、本来の味がよくわかる。
そのあとは、伝統的な甜テンメンジャン麺醤に、ちょっと甘めの漬物を足して食べる。とてもしゃれていた。
他の国の鴨料理では、バリ島のbebekgulingが印象に残る。田んぼにいて虫などをついばんでいる地鴨を、皮がバリバリになるまで焼く。夜の屋外レストランで、カエルの声を聞きながらバリ産ビールをのみながら食べる。素朴なうまさだ。
イタリアで食べた、野生の鴨。
野趣のある濃い味で、人工飼育の鴨とはまったく違う食材といってもいい。
食べている途中、ガリッと歯にあたるものがあるから、なんだ?と口から出してみたら、散弾銃のタマだったのには驚いた。
鴨のことを書いて、パリのラ・トゥール・ダルジャンのことを抜かすわけにはいかない。
この店の名物は、鴨を、その当人というか当鴨の血を絞ってソースに使う。
お客に供された鴨にはすべて連番がついているというのは、有名なので聞いたことのある方も多いだろう。
はたして味はどうか。
濃厚。馥ふくいく郁。緎鋭。さすが400年まえから続く伝統料理だなあ。しかし、いいかえれば400年前の味だなあ、と思った。
つまり、冷蔵庫はもちろん、料理方法も限られていたころの料理なのだ。
しかしこの店のすごいところは、まったく新しい調理方法によるモダンで創造的な鴨料理もちゃんと提供する、というところにある。
軽く、洗練された味だ。
伝統をしっかり保ちながらも、進歩は怠らない。
温故知新とはこのことだ。
LA&OCではココ!
「味」は30点満点、「予算」は2人分です
Mr. Stox
太古の昔からあるコンチネンタル料理の店でスタイルはやや古いまま だが、昔に比べると味はかなり向上した。ここの鴨料理はバルサミコの リダクションソースで洗練された味。サービスはとてもプロフェッショ ナル。
味:24 予算:$80
1105 E. Katella Ave., Anaheim
☎ 714-634-2994 www.mrstox.com
Lunch: Mon-Fri 11:30am-2:30pm
Dinner: Daily 5:30pm-10:00pm
Open 7 Days
Tasty Duck
以前この場所にあった、LAで数少ない北京風北京ダックの店が、有名に なって別の場所に引越した。そのあとには、やはり北京ダックが売りの 店が新しくできた。味は勝るとも劣らずで、店の雰囲気とサービスがぐっ とよくなった。
味:25 予算:鴨一羽とって$40-$60
1039 E. Valley Blvd. Suite B102, San Gabriel
☎ 626-572-3885
Daily 11:00am-10:00pm
Open 7 Days
(2010年10月1日号掲載)
温故鴨知新鴨
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