最近の本誌で、「眺めの良いアウトドア・バー」という特集があったのをご覧になっただろうか。
とてもいい特集だ。
一年中気候のいい南カリフォルニアやハワイのこと(この記事はハワイでも読まれているのです!)、このすばらしい贅沢を享受せずしてなんとしよう! ピクニックで食べるお弁当やオニギリって、家の中で食べるよりずっとおいしく感じるでしょう?
それと同じで、沈む夕日を見ながらのパティオや、陽が落ちてからファイアピットを囲んで飲むお酒って、格別のうまさがある。
そして、まわりのお客たちのピープルウォッチングも楽しい。
じつは僕は最近も、すばらしい経験をしたところだ。
この6月にマルセイユに行ったとき、そこで泊ったRelais et Chateaux*の、こぢんまりしたブティックホテル。
地中海の湾が見渡せる小高い丘にあって、うっとりするほどの景色だ。
夕方、パティオバーに出て、ワイフと共にプロバンス産のロゼワインなど飲み始めた。
まわりのテーブルは、どれもマルセイユやニースあたりの高級住宅地から来たと思われる、いかにも生活に余がありそうなフランス人ばかり。
7、8人のおしゃれな年配グループも楽しそうに談笑しながら飲んでいる。
僕たちのすぐとなりのテーブルは、30過ぎと思われるカップルで、これが着こなしといいアクセサリーといい、ワインの飲みかたといい、胸のすくようなカッコいい男女だ。
アメリカ人にはカジュアルなよさはあるけど、こういうふうに「決まった」人というのはそう多くない。
ウェイターたちもピチッとグレーのタキシードを着込み、これがまた全員いい男。
海を渡る涼しい風と、ピッと冷えたロゼワイン、おしゃれなアミューズ(突き出し)。
至極のときとはこのことである。
そして、適当なタイミングで、室内のレストランのテーブルに移る。
このレストランの料理が、僕の拙なる文章力では書ききれないすばらしいものだった。
30点満点で30点以外つけようがない。
料理もさることながら、このレストランの最大の想い出は、外の風にふかれながらの食前酒と、テーブルクロスのフォーマルなディナー、という「2ステップの組み合わせ」だった。
最初から最後までテーブルに座ったままでよりも、楽しさが二倍になる。
じつは、逆もまた真なりで、食事が済んだあとに、ファイアピットのまわりで炎を見ながらディジェスティーフ(食後酒)、というのもまた格別だ。
もちろん、フランスだけではなく、アメリカにもパティオバーのある店はたくさんある。
でも考えてみたら、日本ってあまりそういう店ってないですよね。
土地が狭いせいだろうか。
南カリフォルニアは、夕方の空気の気持ちよさは世界一だ。
ハワイの、花の香りを含んだ湿り気のある空気も、世界に類をみない。
アメリカにいるときこそ、楽しまなくちゃ。
(2011年8月16日号掲載)
まだある!眺めの良いアウトドア・バー
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