今回はハンガリー料理。
どうしてこのタイトルにしたかというと、ハンガリーについて考えていたら、ハングリーという単語が頭に浮かんできた、という学術的にいって、たいへん理にかなった理由である。
僕は東欧の国はすべて旅したが、うまいものに関しては、共産主義の後遺症もあってか、あまりめぐりあわなかった。そのなかで、ハンガリーだけ例外的に食べものをエンジョイした記憶がある。
それは、ひとつにはパプリカのせいだ。
パプリカは唐辛子の一種で、赤い。でもちっとも辛くない。すなわち、赤いピーマンのことである。これを乾燥させて粉にした調味料が、ハンガリー料理の基本中の基本。まさに日本の醤油に相当するもので、ほとんどの料理に使われるといってもいい。
レストランのテーブルには、ほかの国なら塩と胡椒がおいてあるように、ハンガリーでは塩とパプリカのシェーカーが必ずおいてある。
もともと唐辛子は南米が原産だから、そうそうハンガリーにおける歴史は古いものではないと思うのだが、なにはともあれハンガリーにおいて品種改良され、辛味よりもうまみの原料として定着したというわけである。
ハンガリーには大農園や牧場が多く、アメリカのカウボーイのように馬にのって放牧牛をあやつっている大農園を見学したことがある。
そこで、ひとびとが大農園で作業の途中にランチを食べるとき、大鍋を持ち出して火にかけて煮込み料理を作って食べた。
その大なべのことをハンガリー語で「Gulyas(グャーシュ)」とよぶ。
その鍋で作ったシチューがドイツやオーストリアにも広がり、少し訛って「グーラッシュ」となった。
トマトとパプリカをベースに、タマネギなどとともに牛肉の塊を煮込んだものである。
シチューといっても、スープのようにサラッとしているものが多い。
いまドイツやオーストリアを旅行しても、「Ungarische Gulaschsuppe」、つまりハンガリー風グーラッシュスープは、どこのレストランにもある、といってもほぼ過言ではないくらい、ポピュラーな料理だ。
ハンガリーでは、メインコースの料理として食べることはまずなく、日本の味噌汁のように、毎食欠かせないスープとして食される。
ハンガリーという国は、日本人にはちょっと意外な国だ。
まず、ヨーロッパの中にあって、フィンランドとともに、アジア人の国である。
もともと蒙古のフン族の地で、そのあと9世紀に、やはりアジア遊牧民族のマジャール人がやってきて国を作った。
いまでも彼らは、自分の国名はハンガリーではなく、「マジャール」とよぶ。
さすがに長い間には、ほかのヨーロッパ人との混血がすすみ、また気候的な影響もあってか、外見上はアジア人にはみえない。
でも、その歴史はハンガリー語(マジャール語)にちゃんと生きているのである。
マジャール語は、英語やフランス語といったほかのヨーロッパ語とはまったくちがうアジアの言語で、日本語も含まれるウラル=アルタイ語属のひとつだ。
日本人は、第2次世界大戦でドイツとイタリアが日本と手を組んだことはだれでも知っているが、ハンガリーもそうだったということは意外に知らない。
そういったことも関連して、ハンガリー人はたいへん親日的である。
首都はブダペスト。景色もすばらしく、歴史的な建物も豊富、親日的で、さらには食べものもうまいときては、いちどは訪れていただきたい国のひとつである。
(2006年4月16日号掲載)
おなかがすいたらグーラッシュ
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