この冬、香港に行ってきた。返還後はじめてである。
がっかりだった。
10年くらいまえまでは毎年行っていたのだが、返還が近づいて物価がすごくあがったりしてから、足が遠のいてしまった。
以前は行くたびに感激した香港の味だが、今回ははたしてどう感じるだろう。この10年のあいだに、LA界隈のチャイニーズの味のレベルもますますあがった。
もう香港に行かなくても、LAで充分なのではないか。
そんな気がしていたのだが、今回行ってみて、やっぱりまだダメだ、ということがわかって、LAのチャイニーズにがっかりしたのである。
その最たるものは、一流店の洗練された広東料理。
これは、材料のちがいも大きいが、やはり競争のはげしい本場だからこそであろう。
それに飲茶(ヤムチャ)。
香港では点心(ディムサム)といい、大きくわけてふたつの種類がある。
ひとつは高級レストランで、一品一品メニューから注文するスタイル。
注文してから作るので、出てくるまでに時間はかかるが、そのかわり蒸したてのホカホカ。
こういうところは材料もいいし、手が込んでいて、ほかの店とちがう工夫がこらしてあったりする。
今回も、たかがシューマイのたぐいであっても、ひとくち食べて、「参りました」と降参するうまさであった。
もうひとつのヤムチャは、カートにのせていろいろと点心を運んでくるスタイル。
残念なことにだんだん香港ではこのスタイルが減りつつあるようだが、がんばっている店もある。
たとえば市庁舎。ここには10年前にも行った。
市庁舎? と思われるだろうが、ここの食堂は、香港でもカートスタイルなら一、二を争うような人気店。
500、600人は入れるような巨大な店が昼時になると満員になり、数十人の売り子が押すカートが、引きもきらずにまわってくる。
これとこれ!とせいろをテーブルにのせてもらって、それっ!
とパクつく間もなく次のカートがやってくる。
うわ、それもうまそうだ、と注文して売り子が伝票にスタンプを押してるあいだに、次のカートがもううしろにきている。
これで興奮せずにいられようか。
そこへ現れるのが、「ハーカオ、シューマイ」と名乗りながらやってくるカート。
点心の種類がいくつあっても、ヤムチャはハーカオ、シューマイを食べなければ気持ちがおさまらない。
ハーカオ(蝦餃)は、プリンプリンの小エビの剥き身を、これまたプリンプリンの透きとおった皮(片栗粉を溶いたもの)で包んで蒸した、あれである。
このプリンプリン度がものをいう。
流行っていない店によくあるような、皮のネチャっとしたところなど微塵もなく、かといって歯に抵抗するような固さもなく、エビと皮の、質の異なるふたつのプリンプリンが口の中で絶妙なハーモニーをみせる。
そして焼賈(シューマイ)。
日本のシューマイとはまったくちがう。これもまたプリンプリンしていて、エビ、豚肉、しいたけなどをすって、タマゴ入りの黄色い薄い皮で包んだもの。
カニ入りのものや、うえにカニのタマゴがのっているものもある。
日本人は、シューマイにはしょうゆやソースをつけて食べる習慣があるので、ヤムチャでもしょうゆをつける人が多いが、このふたつの点心の、エビをはじめとする材料の繊細な香りはしょうゆで隠してしまってはもったいない。
そのまま、なにもつけずに(つけるとすれば赤い唐辛子ペーストだけ)食べる。
LAも店によってはかなり高いレベルのハーカオ、シューマイを出すところがあるが、僕としては今回も軍配は香港にあげざるを得なかったのである。
(2005年2月16日号掲載)
ハーカオ、シューマイ!
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