このあいだ、ある日系ラーメン店でタンメンをすすっていたとき、ふとあることに気がついた。
タンメンって、中国にはないなあ。
いや、正確にいうと、ただ単に「タンメン」とよぶものはないのである。
スープ麺のことを「湯麺(タンメン)」というのだが、どういうスープ麺なのか、どんなグが入っているかという説明がかならずつく。
搾菜肉絲湯麺とか牛肉湯麺、蝦仁湯麺といったたぐいである。
日本でいうところのタンメンは、キャベツやニンジン、マッシュルーム、ベビーコーンなどのいろいろな野菜に、豚肉の切れハシなどもわずかに入れて炒め、塩味スープに入れた麺だから、あえていえば日式很多蔬菜僅少肉片清燉湯麺とでもいおうか。
もちろん中国にはそういうものはない。
タンメンは日本で独自の発展をしたものなのである。
しかし、これが野菜好きの僕にとっては好物である。
日系のラーメン屋さんの多くにおいてあり、スープもクリアな塩味でありながら、コクがあって、野菜のエキスがしみだしていて、麺もしっかり鹹水(かんすい)の香りとコシがあり、うまい。
発祥はラーメンと同じく、横浜の中華街らしい。
ラーメンもスープ麺だから、湯麺の一種ということになる。
中国では湯とはスープのことである、と書いたが、中国人が日本に行ったとき、お風呂屋さんの「湯」というノレンをみて、日本人は洗面器を持ってスープを買いにいっているのだと思ったというはなしがある。
それでは、「女湯」では女のスープを売っていると思ったのだろうか。
中国語では温めた水のことは湯ではなくて開水または熱水というのだが、日本ではなぜ湯というのであろう。
じつは、むかしは中国でも湯といった。
その証拠が「湯婆子」、つまりゆたんぽで、いまでも使っている。
「湯婆」だけで「たんぽ」とよむわけで、日本語の「湯たんぽ」というのは、湯という字をよけいにひとつつけてしまったというわけだ。
このばあいの湯はもちろんスープではなく、温めた水のこと。
むかしの中国語が日本に伝わって、いまでも日本ではそれが残っていて、中国のほうで意味が変化したのである。
そういう例はよくあって、たとえばスペイン語の古い使いかたが南米に残っていたりするのとよく似ている。
韓国の参鶏湯(サンゲタン)や雪濃湯(ソルロンタン)などは、いまの中国語と同じだ。
中国風湯麺でいえば、僕が大ファンだったNorwalkの『大元』という店、ここの牛肉湯麺は、世界でいちばんうまいと思っていたのだが、残念ながらついにクローズしてしまった。
中国人は必ずしもコシがある麺を好むとは限らないようで、うどんまたはそれに近いような、鹹水を使わない白くてやわらかい食感の麺をだすところが多い。
いろいろとグの入った湯麺類は基本的に北方または上海系の店によくあり、広東系の店には少ない。
広東系では、ワンタン麺のようなシンプルなスタイルのものがおおい。
日本のラーメンも中国や台湾に逆輸出され、街中でも店をみかけるようになったが、本家の湯麺もまた楽しからずやである。
(2005年4月16日号掲載)
タンメンは中国にはない?
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