いま、パリに来ている。
毎年少なくとも一度は来るのだが、何度来てもこころをうたれるのは、その街並みだ。
それは、ほかの街のように、「美しい街並みがある」、などというなまやさしいものではなく、表通りも裏通りも、右を見ても左を見ても、ひとつ残らずの建物が、パリそのものが、美しいのである。
そしていうまでもなく、嗚呼、フランス料理。
素朴なものから伝統的な料理、芸術性あふれた創造的な品々、それにエスニックフードもふくめて、どれもが感動の世界である。
そんなフランスのハイクラスな食事のスタイルに、Menu Degustation、メニューデギュスタシオンというものがある(以下Menuという)。
日本の懐石料理と同じように、ちいさなポーションが皿に絵のように美しく盛り付けられ、いくつもの料理がコースとなって登場する。
フランス人のシェフたちが日本を訪れるようになって発見し、持ち帰ったスタイルである。
それは、季節の食材をたくみに使い、冷たい料理と温かい料理のたくみなかけひきや、芸術性と創造力にあふれている。
客は、次にくる未知の料理への期待や、その料理がテーブルという舞台に登場したときの感動、口に入れたときの興奮、そして粋な遊びのこころなどをあじわうことになる。
懐石料理に親しんでいる日本人ならよくわかる世界である。
Menuは、テーブルのみんなが感動を共感するために、全員が注文しなくてはならない。
もちろん、Menuと懐石の違う点もいくつかある。
懐石はまず、ちょっと先取りした「季節」というものが「テーマ」としてコースを流れる。
Menuの場合は、旬の食材はうまく使うが、季節感はよりゆるやかである。
懐石は、さしみ、煮物、焼き物、といった料理方法によるコースの順番が決まっていて、そのなかでいかに独創的なものを打ち出すか、というものだが、Menuにはそういうルールはなく、あるのはシーフードから肉、軽い味つけのものからしっかりしたソースの料理へ、といった流れである。
つまり、懐石は、季節と、決まったルールのなかでの内面的ひろがり、まさに俳句の世界なのである。
Menuは、ルールという殻から外へ広がる芸術である。
さらに、日本酒をずっと飲み続ける懐石とちがって、料理にあわせてワインを変えていく。
じつは、もうひとつ大きい違いがある。
僕にはだいじなポイントである。
デザートなんです。
懐石では、季節の果物、メロンとかぶどう、といったものだけだが、Menuでは、チーズのあとに、ラストスパートのように、いくつものデザートが登場する。
たとえば三種類の自家製アイスクリーム、次に果物のワイン煮、それからチョコレートベースのデザート、そして最後にプティフール(フィンガーサイズのクッキーやガトー)、といったように続く。
もちろんワインは甘く夢をみるようなデザートワインである。
至福の世界、とはまさにこのことである。
みなさんもパリに行ったらぜひMenuを食べてくださいね。
(*フランス語でメニューとは、お品書きではなく、コース料理のことをいう)
(2005年7月16号掲載)
パリに行ったらメニューを食べましょう
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