エスニック上級者コース、モヒンガー

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Mr.世界(モヒンガー)

ミャンマーのモヒンガー。文中の屋台ではなく、高級レストランで撮影(Photo by Masakazu Sekine)

モヒンガー?? なんだそれ、モモンガーの親戚?
エスニック好きの読者でも、モヒンガーをご存じの方はそう多くはないだろう。これは、ミャンマーを代表する料理のひとつである。
 
ミャンマーは、以前ビルマと呼ばれていた国である。「ビルマ」はイギリス植民地時代の呼称だということで、1989年にかれら自身の呼称、「ミャンマー」に改めた。
 
じつは、僕は最近、ミャンマーを初めて訪問した。
首都ヤンゴンだけの短い滞在だったが、滞在中はすべてミャンマー料理を食べ歩いた。
 
街を歩くと、終戦直後の日本といったおもむきで、バスがわりのトラックの荷台に人があふれて走り回っていたり、道端の生ゴミの山を犬があさっているといった風景。
走っている車のほとんどは60年代か、せいぜい70年代のボロボロの日本車である。
東南アジアでも最貧国のひとつだ。
 
食べもの屋も、例外的にある冷房つきのレストランをのぞいて、ほとんどの庶民は屋台とも言えないような道端の掘立て小屋や、泥の床と粗末な囲いにガタガタのいすとテーブルといったところで食べている。
人々の顔は日本人そっくりの人が多く(美人多いです)、僕としては小さいころを想い出し、ノスタルジーをおぼえる街だった。
 
さて、そのモヒンガー(Mohingar)だが、これはミャンマーではどこでもだれでもいつでも食べる、まさに国民食である。
特に朝食には、必ずこれを食べる、という家庭がふつうで、昼や夜にも屋台でこれを食べる人が多い。
僕も屋台で食べた。
 
まず、日本で言うソウメンそっくりの、米から作った細い麺を茹でてドンブリに入れたものが、テーブル(と呼べるかどうかわからないが)に出てくる。
次に、球形のカマボコや、日本のさつま揚げやタマネギのかき揚げそっくりなもの、茹で卵などが入ったボウルが出てくる。
これらは別勘定のトッピングで、「これとこれを入れてくれ」と頼むと、オバサンがハサミでチョキチョキと切って麺の上にのせてくれる。
そこへ、魚のスープをかける。
 
このスープが問題なのである。
これはナマズを形がなくなるくらいよーく煮込んで作ったスープで、魚醤や干し魚で味付けをしてある。
その上に、お好みで香菜、ニンニクをカリカリに煎ったもの、そして唐辛子のきざんだものなどをのせ、ライムを搾ってできあがり。
これをスプーンで食べる。
 
さて味はどうか?
うーん。
タイ料理とも、ベトナム料理とも、もちろん中華料理とも、まったくちがう強烈な個性の味と香りだ(タイなどの隣国にもこの料理は多少普及している)。
ヨーロッパにも、ブイヤベーズやサルスエラなど、魚をじっくり煮込んだスープがあるが、あれに近い、非常にコクのある味だ。
 
ただし、ナマズの独特の臭みと魚醤の風味、そして香菜の香りが、モヒンガーならではの強烈な特徴を出している。
東南アジアエスニックの上級者料理と言ってもいい。
うまいかまずいか、と言われると、うまい、と言える。
異国情緒の奥に、少なくとも4千万人と言われるミャンマー人が、国民食としているだけの、人をやみつきにさせるなにかがちゃんとある。
 
僕はこれを、さっき書いたような、屋台とは言えない、泥の道端で、お風呂で子供が使うようなプラスティックのいすにすわって食べた。
もちろん、皿や食器はどこから持って来たかわからないバケツの水で洗っているわけだから、さすがの僕もちょっと勇気がいった(ちなみに値段は約20円でした)。
 
ほかにもミャンマー料理はいろいろあるが、ちゃんとLAでも食べられるのだから、まったくこの地はすばらしい。
本国とちがうのは、清潔度だ。
「安心感」というのは、「空腹」とともに、食べものをおいしく食べさせてくれる調味料のひとつであることは疑いない。
 
(2006年2月1日号掲載)

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