「煨麺」。さてこれはなんと読むのでしょう。
「くまめん」かな?いや、「隈」なら「くま」だが、「煨」はちがう。
「煨」は、日本語で「うずみ火」と読む。なんと美しいひびきのことばだろう。
灰の中などに埋めた火のことである。『なかなかに 消えは消えなで うずみ火の』とは新古今和歌集の歌だ。
中国語では「ウェイ」と発音する。
現代の中国語では、「とろ火でとろとろ煮る、または焼く」、という意味に使われる料理用語である。
熱灰の中に入れて焼くことも含まれる。
すなわちヤキイモ。まさにあれはするわけで、中国語では「煨白薯」という。
「喂」と口ヘンになってもやはり「ウェイ」で、中国では電話で「もしもし!」というときには「喂!」(ウェイ)という。
火ヘンのはなしに戻るが、東京は六本木に、『香妃園』(シャンピーエン)というチャイニーズレストランがある。
すくなくとも僕が小学生のころからあり、六本木のすぐ近くでうまれ育った僕は、よく父に連れて行ってもらった。
当時から、『特製とり煮込みソバ』というのが大人気メニューの店で、いまでも夜となると、場所柄、同伴出勤のホステスなどがみーんなこれを食べている。
チキンのダシで、土鍋でとろとろと長時間煮込んだスープ麺で、鶏肉片と高菜が入っている。これこそまさに煨麺だ。
僕が小学生時代から味がまったくかわっていない。
チキンのコクと香りがたっぷりで、麺は柔らかく、コシのある麺とはまたちがった独特の魅力がある。
暖かさあふれる食べもので、夕食はもちろんのこと、酒を飲んだあとの夜食にも最高である。
それに匹敵するような麺がここカリフォルニアでも食べたいなー、と思っていろいろ探しまわったが、なかなか見つからない。
しかし、これが最近ついに見つかったのです。
それが今回紹介の『江南春』で、ここの「嫩鶏麺」は、とろとろのスープ、鶏らしい味と香りがすばらしく、六本木の店にくらべると麺のコシがもっとしっかりしていて、これはこれで負けずとも劣らない。
「葱油開洋麺」は、乾燥小エビのダシとネギの香りがチャイニーズらしいマッチングで、スープはひとくちでうならせるうまさ。
「家郷濃湯麺」は、「煨麺」という名こそついていないが、それを超越するようなとろとろさ。土鍋で煮込んだスープ麺で、その点が『香妃園』のとりソバを思い出させてくれる。
われわれ日本人も、鍋ものをしたあとにうどんを入れて食べると、スープにいろいろな具の味がとろとろに溶け込んでいて、これこそが鍋を食べる目的!
というほどうまいものだが、まさにあれとおなじような、複雑なコクのあるスープ。
中華スープ麺ファンの読者のみなさん。アロンドラの『大元』がついにクローズして、あの牛肉麺が食べられなくなったのは残念ですね。
でも、よろこんでください。『江南春』の麺が現れました!
麺などのコクのあるスープ麺は、一般的に言って、上海系の店にいくと出会う確率が高い。広東系の店は淡白なものが多いが、それはそれでまた別の味わいがある。
山東系は辛いスープ、四川系はスープ麺に関しては逆にあっさり系が多い。
ひとくちに中国スープ麺といっても、いろいろな味わいがある。
(2006年1月16日号掲載)
煨麺
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