秋、キノコの季節。
日本人が、松茸が食べられる秋を楽しみにしているのとおなじように、イタリア人も9月になると、ポルチーニ(porcino・複数形:porcini)というキノコを楽しみにしている。
僕は8月末に食べたこともあるが、日本なら真夏の真っ盛りの8月は、イタリア北部では下旬になればそろそろ秋の気配が感じられるころである。
だが、やはりポルチーニの旬は9月といっていいだろう。
とれるのはトスカーナやピエモンテ。イタリアの北部で、森が多い地域である。
このころになると、トスカーナのシエナやフィレンツェあたりのレストランでは、店の入り口付近におおきなザルを置いて、新鮮なポルチーニを山盛りにして飾っていたりする。
このキノコは、松茸やトリュフとおなじで、野生で生きている樹の根にしかはえないので、栽培ができない。したがって旬の期間は限られているのである。
「ああ、ポルチーニの季節になったか。よし、今日はそれを食べよう」ということになる。
では、どうやって食べるか。
僕にいわせれば、オリーブオイルをしいたフライパンで、さっとまるごと炒めただけ。
これに勝るものはない。
僕は初めてこれをフィレンツェで食べたときは、あやうく悶絶するところであった。
こんなうまいものが世の中にあっていいのだろうか。
芳香が脳天を突き抜ける。
松茸と似た、繊維質の弾力がある歯ざわりがなんともいえない快感だ。
傘の表面が、うすーくオリーブオイルで揚がっていて、そこがわずかにカリッと歯ごたえがある。
世界でいろいろなものを食べたけど、これはまさに俗に『世界三大うまいもの』とよばれるフォアグラ・キャビア・トリュフにも負けないうまさ。
これからポルチーニを加えて『四大うまいもの』ということにしたい。
スライスして乾燥させたものは一年中出回っているが、新鮮なものとはまったく別ものといっていい。
キノコや海産物は、乾燥させることによってウマミ成分がふえることがあるが、舌触りや香りという点が犠牲になるのである。
乾燥ものはそのまま食べるのではなく、うまみだしのためにパスタや肉料理のソースとして使われると、俄然威力を発揮することになる。
だが、残念ながら新鮮ものはアメリカをふくめ、イタリア以外ではいちどもお目にかかったことはない。
乾燥ものしか食べたことがないとすれば、ほんとうのポルチーニは味わったことがないということになる。
キノコはイタリア語で「fungo」。メニューにはふつう複数形「funghi」が現れる。
英語の「fungus」の関連語だ。
つまり「黴(カビ)」である。
キノコは「菌界」に属して、黴や、はたまた水虫の白癬菌と同じようなものなのだが、それってこんなにおいしくっていいんだろうか。
日本には「香り松茸、味しめじ」で有名な天然の本しめじがあり、スウェーデンには「Kantarrell」、中国には最高級きのこ「花茹」などなど、世界には数々の伝説的超美味きのこがある。
またどこかに行って悶絶したい気分になってきた。
(2007年10月16日号掲載)
悶絶フンギ
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