アイスティーには、いろいろな不思議がある。
まず第一に、この飲みものはアメリカ人のあいだで何ゆえにこんなにポピュラーなのだろう?
もちろん、他の国でもまったく飲まないわけではない。
ソフトドリンクとしての缶入りアイスティーはマーケットで売っているし、カフェやバルで注文することはできる。
でも、アメリカにはこれを食事と一緒に飲む人がべらぼうに多い、というところが珍しい。
コーヒーショップなどで見渡すと、ホットティー(紅茶)を飲んでいる人はほとんどいないのに、アイスのほうはお客の半分以上が飲んでいる。
近ごろのファーストフードの普及と一緒になって、コーラ類を食事と共に飲む習慣は世界中に広がっているのに、アイスティーのほうはそうではない。
ちなみに、ヨーロッパ人が食事中に飲むものとしていちばん一般的なのは、もちろんワイン、そしてボトルの水だ。
炭酸入りとそうでないのと、どちらもポピュラーである。
さてそのアイスティー、アメリカ人のことだから当然ストレートではなく甘くして飲むわけだが、そこで次に不思議に思うのは、テーブルには粉の砂糖(または人工甘味料)しか出てこないことだ。
日本のレストランや喫茶店なら砂糖を水に溶かしたシロップが出てくるから、冷たいアイスティーでもすぐ溶けるのだが、粉のままの砂糖ではいくらかき混ぜたところでちょっとやそっとでは溶けてくれない。
なかなか甘くならないから、どんどん砂糖を投入し、ザラザラのままの溶けていない状態で砂糖を過剰摂取するということになる(僕のことです)。
まだある。
もうひとつ不思議に思うのは、コーラ類でも同じことだが、必ずグラスあるいは紙コップに、ストローを突き刺して飲むことだ。
僕はストローは決して使わない。
だって、直接コップから飲むことで、あの冷たいアイスティーが唇に触れながら口の中全体にひろがっていき、その香りが鼻腔に抜けていく、それでこそアイスティーのうまさを感じることができるのでしょう?
ストローで口の奥までいきなり吸い込んで喉に流し込んだって旨くはないと思うんですけど。
最後にもうひとつ。
あの、ピーチだのラスベリーだのチェリーだの、フルーツの香料を加えたアイスティー、あれね、紅茶本来の香りがどこかへ消え去って、甘ったるい別の飲みものになってしまうんですけどね。
いちばんおいしいのは、アールグレーの葉だけでいれたアイスティー。
ちなみに、僕が家でつくるときは、イギリスはFortnum & Masonのアールグレーと決めている。
ヘンなこだわりを持っているわけではないつもりだが、そもそもおいしい紅茶というのは世界広しといえどもイギリスとインドにしかないといつも思っている。
このアールグレーの葉をふつうの倍くらいポットに入れ、よーく煮立った湯をそそぎ、おそろしく濃い紅茶を作る。
これをグラスに注いで砂糖をふつうの倍くらい入れてよくかきまぜる。
そしてそれをすかさず、氷を淵まで詰め込んだトールグラスに一気に移す。
不思議なほどおいしい飲みものができますよ。
(2008年7月1日号掲載)
不思議なアイスティー
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