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“Sweetbread”
「甘いパン…? なぜそんなものがメニューにのっているんだろう?」と、フレンチ・レストランでメニューをみながら思ったことはありませんか?
日本語は「仔牛の胸腺」。
ふだんはあまり耳にしないなまえである。
じつはこれ、食い道楽のあいだではツトに知られた、リドヴォー(リードボーともいう)なるもので、乳を消化するための内分泌器官だ。
つまり乳を吸うあいだだけ体内にある器官で、成長して乳を飲まずに草を食べるようになると消えてしまうし、取れたとしても一頭から少ししか取れないので、希少価値であり、高級に属する食材なのである。
そこでふと考えてしまう。
そんな、乳を吸っているだけの、罪のない仔牛ちゃんの内臓なんか取り出して食べちゃって、いいものなんだろうか?
だが考えてみたら、大人の牛だって、豚だって鶏だって、罪がないことにはかわりがない。
キリスト教によれば、こういった動物たちは人間の食べものになるために神がお作りになったものだそうだ。このときばかりはそれを信じて食べましょう。
さて、リドヴォーはいかなる食べものか?
なんといっても、その食感に個性がある。
ふんわり、もっちり、まったり。
なんとも形容がむずかしいが、ほかの食材にはない、リドヴォーだけの食感だ。いかにも乳飲み子らしく、ほのかに乳の香りがする。内臓臭さはない。
前菜にもメインコースにもなる。
今年パリに行ったときにも、前菜としてサラダ仕立てのリドヴォーを食べた。グリルドチキンを乗せたサラダなどと同じく、植物性と動物性の味のコンビネーションが満足感を与えてくれるものだが、リドヴォーはことさら、その食感と香りが高級感を抱かせてくれる。
マッシュルームと一緒にあえたリゾットなんかも、すごくしゃれた味だ。
メインコースでは、ソテーしたりワイン仕立てのソースを使ったりするが、軽くフリットにすると、表面がわずかにカリッとして、むっちりした内部との食感とのバランスが絶妙である。
パリのトップクラスレストランのひとつ、Le Bristolは去年行って大感激したのだが、そこのメニューには、(食べなかったけど)フェネル(茴香)としょうが、レモンでソテーしたリドヴォーが88ユーロ。つまり一皿150ドルだから、もともと値段の高いパリの高級レストランにしても、高級食材であることがおわかりだろう。
しかし、それだけの価値があるのだ。
ところで、なぜこれを英語で”sweetbread” というのでしょう?
“sweet” は、「甘い」すなわち「ウマい」、という意味で、 “bread”というのは、英語の古語で「肉」を意味する “brd” から来ていると思われる、とWikipediaに書いてある。
日本語では「シビレ」という。「スイートブレッド」が訛ったものらしいが、もしかしたら、お値段がお高くて、頭がしびれちゃうからかもしれない。
(2008年12月1日号掲載)