この11月にまた韓国を訪れた。
ソウルには日本人で古くからの友人が住んでいて、彼に会うのも楽しみのひとつである。
今回も、着いて早々、「さ、なにを食おうか!」ということになって、彼が「最近凝ってるウマイものはね…」という話になって、「よし、それを食いに行こう!」と簡単に結論が出たのが、ポッサムである。
あの不気味な小動物、オポッサムを食おうというのではない。
ポッサムは、日本人のあいだではまだよく知られていない(と思うのですが)、韓国の隠れた美味料理のひとつだ。
簡単にいえば、豚肉の白茹で。
豚の三枚肉を厚く切って、茹でる。または蒸し器で蒸す。
そうすると、余分な脂分は溶けて落ち、豚肉特有のウマミだけが残る。
同じ豚肉でも、前々回の東坡肉よりは悪い脂が少なく、体にいい。
…と勝手に自分で決めている。
茹でたあと、室温まで冷やされてテーブルに出てくる。
さて、このポッサムが韓国料理であるゆえんは、キムチで巻いて食べることだ。
キムチは、これ専用のものである。
浅漬けで、酸っぱさやニンニクの香りが少なく、繊細な豚肉の味と香りとよくマッチする。
豚肉にはなにも味付けしていないから、このキムチが適度な味と風味を追加する。
韓国のレストランでは、オンドル式の床に座って食べることが多い。
日本のレストランはほとんどが椅子とテーブルで、畳に座って食べるようなところは高級料亭になってしまうのとはちがって、韓国では庶民の店ほど床に座って食べる。
センベイ布団がおいてあるのでそれを敷き、ヒジ掛けや背もたれなどはないから、あぐらをかいたり、立てヒザをして食べる。
この時の店もそうだった。
こういう店でソージュー(焼酎)を友と酌み交わしながら豚肉をほおばるのは、なかなかオツなものである。
さて、ポッサムには、キムチ以外の野菜が出てくることも多い。
とくにキャベツだ。
茹でたキャベツ、その大きな葉が味付けをなにもせずに出てくるから、これとポッサムを一緒に、ミソを付けながら食べる。
じつはこのミソがミソである。
それぞれの店はこれに特色を出して売りにしている。
テンジャンという韓国ミソに、ニンニク、ネギ、エビの塩辛などを合わせたり、唐辛子をいれたりする。
ほかにもいろいろな葉っぱの盛り合わせが山と出てくることもあり、ベトナム料理も顔負けだ。
焼肉を食べるときの葉っぱ、サムチュの要領である。
焼くといえば、肉だけではなく、キムチも焼いてしまうこともある。
「漬物を焼く」というのは日本人にはなかなか出ない発想だ。
焼肉をハサミで切る、というのと同じくらい不思議なことかもしれない。
でも、とてもうまいものです。
(2008年12月16日号掲載)
ポッサム隠れた美味料理
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