大晦日は、ローマだった。
2008年最後の食事は、ローマで最もおしゃれな通り、ベネト通りからちょっと入った、トスカーナ料理の店にした。
第一の皿は、冬のトスカーナの風物詩、白トリュフをたっぷり使ったタリアテーレ。涙が出るほどおいしかった。もったいなくて、麺を一本ずつ、ゆっくり味わって食べた。
メインコースは、ビステカ・アラ・フィオレンティーナ、すなわちフィレンツェ風Tボーン・ステーキ。
この、トスカーナ地方フィレンツェの名物は、フィレンツェに行くたびに必ず一回は食べることにしているが、ローマで食べたのは初めてだった。
この世界にまたとないステーキに、あらためて言葉もなく、ただ感激あるのみであった。「ちょっと、オーバーじゃないの?」とおもうでしょう? ステーキは神戸牛か松阪牛が世界最高じゃないの?
僕の意見はこうです。
神戸牛や松阪牛の霜降り肉は、もちろん柔らかくて風味がすばらしい。
しかし、その風味は霜の部分、つまり脂身のうまさによるところがおおきい。
そこへいくとトスカーナ牛は、ほとんど霜が入っていない。つまり英語でいえば「lean」である。
突然寄り道しますが、英語の「lean」をイタリア語でなんというか、というと、「magro」といいます。マグロみたいでおもしろいでしょ?つまり、マグロのトロはマグロじゃない。
で、そのマグロなビーフは、肉の赤身自体から滲み出るうまみ、これがすばらしいのである。
焼き方は単なる炭火焼き。
口に入れて噛むと、神戸牛のように脂身が溶けてうまさが流れ出てくるのではなく、肉の繊維質自体からジュースが染み出してくる。
肉の縁に脂身はついているが、硬くて食べられない。
肉にはスジがある。
柔らかさでいえば、神戸や松阪とは比較にならない。
しかし、噛めば噛むほど味が出てくる。
焼きかたはしっかりレア。
気がつけば、注文したときに、「焼き方は?」って聞かれなかったなあ。
レアこそがステーキのいちばんうまい食べかただと決まっているからだろう。フィオレンティーナはレアしかないらしい。
もともと僕はステーキは必ずレアなので、まったく文句がない。
焦げ目が適度についていて、その香りがまたすばらしい。
おそらく、この肉をしゃぶしゃぶやスキヤキに使ったらおいしくないだろう。それは神戸や松阪の守備範囲である。
しかし、ステーキになったら、トスカーナ牛に軍配をあげてしまう。
これが僕の2008年の最終結論であった。
(2009年2月1日号掲載)
マグロなビーフステーキ
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