ライトハウス・サンディエゴ版編集長、吉田聡子が、サンディエゴのブランドを訪問。世界に羽ばたいた物から、ローカルにこだわる物まで、名品の背景にある物語を探ります。
Baklavalicious / バクラバリシャス
Baklavaliciousのお菓子を初めて目にした時の高揚感は、幼い頃、おもちゃの宝石箱を開いた時のそれと似ていた。色とりどりの小さなバクラバは、ジュエリーのような優美な佇まいがある。口に運ぶとサクサクとして、ふんわりとナッツの香りが広がる。甘いけれど、品が良い。
バクラバというのは中東や西アジアで定番のペイストリーだ。けれど、Baklavaliciousのようにフレーバーをアレンジしたバクラバはありそうでいて、ない。この秋オープンしたこの店はサンディエゴ発の新しい名物になる予感がして、オーナーであり、ペイストリーシェフであるエマ・トンボーリアンを訪ねた。
エマは祖父、父親と続くペイストリー一家に生まれ、レバノン系アルメニア人の父親がバクラバやフレンチ菓子を作る姿を見て育った。
「20代の初めは、フレンチマカロンのお店を作りたいと思っていたの。お菓子作りは父から学んでいたけれど、父には 専門的な学校に行けと言われて、学校でも学んだわ。その時、お菓子作りは大好きでも、毎日早朝に起きてお菓子を焼く生活は私には合っていないことも学んだ(笑)。それが分かっていたから、父はまず学校に行けと言ったのね」とエマ。
その後、ニューヨークに飛び、料理人の夫と共にブルックリンにカフェを開業。順風満帆であったが、サンディエゴで食 堂を営む父親の体調不良を機に、2010年、サンディエゴに来た。
「父の店を継ぎ、伝統的なバクラバを作って出し始めたけれど、作り手としてはちょっと刺激が足りなかった。そんな時に、これまでの経験が全て結びついてひらめいたのが、この新しいバクラバなの」(エマ)。
ところで、何も知らず普通においしく食べたバクラバが実は冷凍の状態だったと知り、驚いた。バクラバは他のペイストリーと違い、冷凍しても風味も食感も損なわれないため、一般に冷凍のものが多いらしい。ただし、彼女はハチミツなど、凍らせると味が変わる食材は使用しない。作り置きでクオリティーを保てるため、ホテルなどへの卸売りが可能と言う。
個人的には目を閉じてゆっくり味わうことをおすすめしたい。ナッツやアプリコット、バラなど、それぞれの食材が静かに、でも確かに主張してきて、さながら芸術鑑賞のような楽しさがある。
5725 Kearny Villa Rd. Suite H, San Diego
☎ 852-564-3080
http://www.baklavalicious.com
(2017年11月号掲載)
※このページは「ライトハウス・サンディエゴ版 2017年11月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。