米国籍または永住権所有者が、それを放棄して日本に戻る場合、出国時課税(Expatriate Tax)が発生する場合があります。この税金で注意すべき点を解説します。
日本でも制定へ
出国時課税(ExpatriateTax)は、富裕層の海外移住や、国外への資産持ち出しをけん制する目的で制定されている税法です。現在、米国以外ではカナダ、英国、ドイツ、フランスなどで制定されており、日本でも2015年に行われる税法改正の目玉の一つです。日本は元来、国民の出入りが比較的少ない国でしたが、近年は節税対策等を目的に、国籍を放棄してまで海外移住する富裕層が増加傾向にあります。これらの理由から、このタイミングでの決断につながっていると言えるでしょう。
課税対象者の条件
米国の出国時課税の対象は①米国籍を放棄した人か、②過去15年間のうち、8年以上永住権を保持していた人がそれを放棄する場合です。加えて、次のいずれかを満たす場合にCoveredExpatriate(該当者)とみなされます。
・過去5年間の平均所得税額が上限額を超えている場合(2014年は15万7000ドル)
・世界中にある資産が計200万ドルを超えている場合
・過去5年間、税金で未払い分がある場合
最初の2つはその額の大きさもあり、該当する方は少数かもしれません。しかし、長期間米国に滞在した人の中には、3つ目の条件に該当する可能性がある人もいるので、注意が必要です。「低所得だから」、「通知が来ないから」という理由で確定申告の提出を怠っていても、実際納税義務があった場合は、該当者とみなされ出国時課税される恐れがあります。
課税される対象
出国時課税の対象は広域に渡ります。国籍・永住権放棄時点での、全世界に渡る資産を適正価格(FairMarketValue)で売却した際の含み益がその対象です。含み益とは、不動産や株式の適正価格が売却前に購入額より上回っている状態のことで、実際には利益がまだ手元に入っていない状態です。そして、含み損とはその逆の状態です。IRSが毎年制定する一定額(2014年は68万ドル)未満の含み益は、非課税として処理されるため、事前に国外に資産を持ち出しても節税効果を得ることはできません。この含み益に対しては、キャピタルゲインの軽減税率で所得税がかかります。
申告方法
出国時課税の申告には締め切りが設けられています。個人の確定申告同様に、翌年の4月15日までに提出しなければなりません。ですから、国籍・永住権放棄以前から準備を進める必要があります。使用するフォームは「Form8854」で、過去5年間の納税額や全世界にある資産の価値などを記入します。過去5年間の確定申告で未申告のものがある場合は、それらも合わせて作成・申告する必要があります。
注意点
この申告を怠った場合、1万ドルの罰金が科せられます。非常に高額なペナルティーなので、日本への帰国時には自分が出国時課税の対象者かどうか、またどれだけ課税されるのかを計算して把握しておく必要があります。課税対象者の場合は、申告期限内に支払いも済ませておかなければ、利子・罰金も余分に徴収されてしまいます。
(2015年4月16日号掲載)
※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。