アメリカの税金・会計疑問にお答えします 2025年(最新)

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信託の受託者 │ 子どもへの給与 │ IRSへの納税方法 │ 相続の取得価格 │ 教育費負担を軽減する控除とは │ 中古エコカーの控除 │ 夫婦別申告のメリットデメリット │ アメリカでの相続のポイント │ 

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信託の受託者

将来へ向け、信託の作成を検討中です。信託受託者は誰にすべきですか。
(CA版2025年4月号掲載)

親族友人か、専門家か 信託(Trust)の受託者(Trustee)の役割は、委託者の指示に従い、信託内の資産を管理・運用し、受益者の利益のために行動することです。

受託者には親族や友人、信託の専門家、銀行などが選ばれます。親族や友人は信頼でき、費用が少なく済むことが多い一方、専門知識や公平性に欠けたり、時間に制約があったりします。信託会社や銀行などの専門家は公平性や継続性、投資スキルもありますが、費用がかかる点や、話し合う機会が限られがちである点が短所です。

受託者の仕事内容

受託者は、利益相反を避け、信託財産を適切に管理し、受益者全員に公平に対応する法的責任を負います。また、管理や運用の際は注意深く慎重に行動しなければなりません。複数国で不動産を持つなど複雑な財産が含まれる場合や、相続税の特例など税金や法制度の対応が難しい場合もあり、そもそも資産を信託に移すタイミングで贈与税や譲渡益税がかかる可能性や、信託の種類(リビングトラストや不可撤回型など)によって、課される税金や報告義務が変わる点も見逃せません。信託の運用利益に対する所得税や、受益者への分配時に発生する税金についても正確な記帳・報告が求められます。適切に管理できなければ、受益者から訴訟を起こされるリスクもあります。

以上を踏まえると、信託の専門家を受託者として選ぶ方が安心な場合が多いです。信託の内容と受託者の責務を理解し、専門家と連携しながら設計運用することが重要です。

子どもへの給与

個人事業主です。仕事を手伝ってくれた子どもに給与を支払うことはできますか?
(CA版2025年4月号掲載)

事業をお持ちの方は、子どもや孫に給与を支払うことができます。

払うべき税

事業形態や従業員(子ども)の年齢によって、税金の支払いが異なります。18歳未満の子どもを雇用する場合、給与税の源泉徴収が不要となるケースがあります。また、労災保険や失業保険の適用外となる場合もあります。

家族経営の小規模な事業体であるSole ProprietorshipやPartnership(親族がパートナーの場合)では、所得税(Income Tax)に関しては、子どもの年齢に関係なく源泉徴収されますが、社会保障税(Social Security)や医療保険税(Medicare)は18歳以上の子どものみ課され、18歳未満の子どもには適用されません。また、連邦失業税(The Federal Unemployment Tax Act、FUTA)は、21歳以上の従業員にのみ適用されます。

C Corporationや両親以外がパートナーのPartnershipでは、上記の税金(所得税、社会保障税、医療保険税、連邦失業税)が全て適用されます。

経費と確定申告

子どもに業務を担当させ、適正な報酬を支払うことで、その給与をビジネスの経費として計上できます。これにより、課税所得を減少させることが可能です。業務内容や勤務時間を詳細に記録し、適正な賃金を設定することが求められます。これらの税金は、労働に対して合理的な報酬が支払われた場合にのみ適用されるため、税金の節約を目的とした不適切な給与の支払いは避けなければいけません。

一方、子どもや孫の確定申告書においては、2024年の基準では、個人の所得に対して1万4600ドルまでが非課税でした。25年には、この標準控除額が1万5000ドルに引き上げられています。子どもを扶養家族として申告しつつ、子ども自身もこの標準控除を適用することで、家族全体の税負担をさらに軽減できます。さらに子ども自身が給与を得ることによって、自身の退職プランへの拠出を開始することができます。

子どもや孫をビジネスに参加させることで、早い段階から財務教育を行い、将来の財務的成功への基盤を築くことができます。

IRSへの納税方法

IRS(内国歳入庁)に納税するには、どのような方法がありますか。
(CA版2025年3月号掲載)

IRSは、納税者が便利かつ安全に税金を支払えるよう、いくつかの決済オプションを提供しています。それぞれの方法には特徴があり、用途や状況に応じた選択が可能です。

1.Direct Pay
Direct Payは、銀行口座から税金を直接引き落とすシンプルな方法です。手数料はかからず、1日2回まで支払いが可能です。IRSへのシステム登録やログインが不要な点が魅力ですが、支払い記録は自分で管理する必要があります。

2.Electronic Federal Tax Payment System(EFTPS)
EFTPSは、個人にも法人にも対応したオンライン支払いシステムで、事前登録が必要です。このシステムでは支払いスケジュールを事前に設定でき、大きな金額の支払いにも対応可能です。さらに、支払い履歴を確認できるため、記録管理に役立ちます。ただし、登録に数日かかる場合があるため、早めの手続きがおすすめです。

3.Electronic Funds Withdrawal(電子資金引き落とし)
電子資金引き落としとは、会計士を通しての商用会計ソフトウェアから行う方法です。またはIRSが提供する無料の電子申告サービス(IRS Free File)を使用して連邦税の申告時に支払いを同時に行うことを指します。 税金申告時に支払額を指定し、銀行口座から自動で引き落とされます。この方法は、税金申告と支払いを一度に済ませられる手軽さが特徴です。会計士に支払いを依頼する場合にはこの方法がよく使われます。

4.クレジットカード・デビットカード(Payment Processor)
クレジットカードやデビットカードの手続きは迅速で、税金を一括または分割払いにすることも可能です。しかし、第三者機関を通した支払いのため、支払い金額に応じた手数料が発生します。

5.IRS Online Account
IRS Online Accountを利用すると、支払い履歴や予定を管理しながら直接支払いが可能です。個人でアカウントを開設する必要があります。このアカウントでは、過去の支払い履歴や現在の未払い額を一目で確認できます。便利な一方、アカウント情報を忘れてしまうと、ログインできなくなるリスクがあるため、管理が必要です。

6.小切手
小切手で税金を支払うときには、支払い伝票を同封し、IRSの住所に送付する必要があります。現金を使わずに支払いができ、安全ですが、郵送なので時間がかかることがデメリットとしてあります。

7.現金
オンラインでバーコードを発行し、現金で支払う方法もあります。即時払いができますが、1回につき500ドルまでの制限がある上、処理手数料がかかります。7-ElevenやKroger、Walmartなどで支払いが可能です。

各特徴を理解して最適な方法を選び、早めの準備と対応をしましょう。

相続の取得価格

相続の際の取得価格の新ルールについて教えてください。
(CA版2025年3月号掲載)

昨年、IRSは、遺産・信託の所得税申告書や相続の申告書にて、相続人に取得価格を一貫して報告を求める最終規則を発表しました。この新たな規則では、以前導入されていた「ゼロベース・ルール」が削除されています。このルールは、相続人が資産の取得価格を期限内に報告しなかった場合、その資産を受け取った受遺者の取得価格をゼロとみなすものでした。しかし、今回の変更で、相続人は従来の相続資産の取得価格ルールに従って資産を受け取ることが可能となりました。

これは、相続人にとって大きな利点です。例えば、資産の取得価格がゼロとされると、将来その資産を売却する際に多額のキャピタルゲイン税が課される可能性がありました。しかし、従来のルールに基づく取得価格が適用されれば、課税対象となる利益が適切に計算され、税負担が軽減されることが期待されます。この変更は、遺産の管理者や受遺者にとって、税務上の不確実性を減らし、より公平な税負担を実現するものと考えられます。

教育費負担を軽減する控除とは

子どもの教育費について、どのような控除や制度がありますか?
(CA版2025年2月号掲載)

教育税額控除の種類

高等教育を受ける学生やその家族のために、教育税額控除があります。教育税額控除は、大学や専門学校などの費用の一部を税金から差し引ける制度です。主に次の二つがあります。

アメリカン・オポチュニティ税額控除(AOTC)
対象者:大学や専門学校の最初の4年間に在籍する学生。
控除額:最大2500ドル。収入によっては、さらに最大1000ドルが還付金として戻ることもあります。
適用される費用:授業料、教材費、必要な学用品。

生涯学習税額控除(LLC)
対象者:資格取得やスキルアップを目指す学生(学位が不要な場合も可)。
控除額:最大2000ドル。
適用される費用:授業料や学習に必要な教材費。

この控除を受けるには対象者が適格教育機関(連邦学生援助プログラムに登録している学校や大学など)に在籍している必要があります。収入が一定額を超えると控除額が減る場合があり、AOTCとLLCの両方を同時に申請することはできません。

控除の対象費用

対象となる費用は以下の通りです。

①大学や専門学校、その他適格教育機関で支払った授業料。
②教科書や教材(学校から指定されたもの)。
③パソコンやソフトウェア(学校が要件として指定している場合)。

これらの費用を適格教育機関へ対して支払っていることが条件で、寮費や食費、交通費などは対象外です。

教育税額控除の手続き

AOTCとLLCの申請には、学校から送られてくる「Form 1098-T」(授業料報告書)が必要です。「Form 1098-T」は、教育機関が学生とIRS(内国歳入庁)に提供する税務関連の書類で、適格授業料および関連費用の支払い金額や奨学金や助成金の金額が記載されています。申請には、学生本人が「Form 1098-T」を受け取る必要があります。ただし、非居住外国人や、授業料が全額免除または奨学金で授業料全額をカバーされている学生などは例外で、発行されない人もいます。

「Form 1098-T」を受け取らないと、原則、控除の申請はできません。ただし、以下のような例外もあります。

①適格教育機関で支払った費用の記録(領収書や支払い証明書)があれば、控除の申請が可能な場合があります。
②非居住外国人や奨学金で全額カバーされた学生でも、必要書類がそろっていれば申請できる可能性があります。なお、発行対象外の学生でも、学校に直接依頼すれば「Form 1098-T」を発行してもらえる場合があります。

教育費の負担を軽減するため、教育税額控除をぜひご活用ください。

中古エコカーの控除

中古車でも、クリーン車両クレジットを受け取ることができますか?
(CA版2025年2月号掲載)

中古車でもクリーン車両クレジットを受け取れます。要件は、①購入者が個人である、②再販目的の購入ではない、③購入者は扶養家族として他者の税申告に含まれていない(つまり申告者本人か配偶者)、④過去3年以内に同クレジットを受けていないことです。また、修正調整総所得(AGI)が夫婦合算申告で15万ドル、世帯主で11万2500ドル、その他の申告者で7万5000ドルを超えない場合に限られます(購入年または前年のいずれかで条件を満たせば適用)。

対象車両は、販売価格が2万5000ドル以下、購入年の2年以上前のモデル(例:2024年に購入した場合は22年以前のモデル)、電気自動車(EV/バッテリー容量7kWh以上)または燃料電池車(FCV)であること、総重量が1万4000ポンド未満であり、主にアメリカ国内で使用されることが求められます。

また、車はディーラーで購入する必要があり、ディーラーは購入者とIRSに車両情報の報告義務があります。

夫婦別申告のメリットデメリット

確定申告を夫婦別で申告するメリットとデメリットを教えてください。
(CA版2025年1月号掲載)

通常、タックスリターン(確定申告)は夫婦合算で申告した方が税金面で有利ですが、状況によっては別々に申告する方が良い場合もあります。

夫婦別申告のメリット

責任分担ができる
配偶者が収入を少なく申告したり、控除を多く申請して後で問題になる可能性がある場合、別々に申告するともう一方が責任を負わずに済みます。

配偶者の借金の返済を避けられる
配偶者に結婚前の税金滞納や養育費、学生ローンの未払いがあると、夫婦合算申告ではその返済にあなたの還付金が使われる可能性があります。別々に申告すれば回避できます。

高額所得者の州税を回避
カリフォルニア州やニューヨーク州などでは、高所得者に追加の州税が課されます。別々に申告すれば、収入が高い配偶者だけが対象になります。 他にも、例えば妻がアメリカの年金収入のみで、夫に給与所得がある場合、夫婦別々に申告をすることで節税につながった事例があります。

夫婦別申告のデメリット

夫婦別々の申告では、以下の税制優遇は受けられません。

勤労所得税控除(Earned incometax credit)や教育税額控除などの控除。学資ローン利子控除や社会保障給付の一部控除。控除の方法は、一方が項目別控除を選ぶと、配偶者も同じく項目別控除になります。また、賃貸不動産の損失控除や高齢者・障害者向け控除の適用も不可です。

どちらが有利かは、合算申告と別々の申告で比較することが大切です。

アメリカでの相続のポイント

子どもに資産を渡す場合、どんな点に気をつければいいでしょうか?
(CA版2025年1月号掲載)

アメリカの贈与税と遺産税は、生涯除外額や年間贈与の非課税枠を活用し、適切な計画を立てておくことが重要です。「Unified Exclusion(生涯除外額)」を利用すれば、一定額までの贈与や相続が非課税となり、資産の移転計画がスムーズです。Unified Exclusionはインフレに応じた調整があり、公平性が保たれています。

2025年の注意点

2025年の生涯除外額は、1人当たり1399万ドルまで、夫婦では最大2798万ドルで、この額まで資産を贈与税や遺産税なしで移転できます。さらに、 贈与先1人当たり1万9000ドル(夫婦で3万8000ドル)までは、生涯除外額を消費せずに贈与が可能です。また、贈与として教育費や医療費を直接機関へ支払う場合は非課税です。

相続計画が重要な理由

計画を立てない場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。

①資産が法定分割され、遺族間の争いが生じる。
②遺言執行者が不在の場合、裁判所の介入で手続きが遅れる。
③故人の希望通りの贈り物や寄付が実現しない。

早めに専門家へ相談し、計画を立てることが重要です。現在の除外額を利用した贈与は、将来の税負担軽減につながります。

アメリカを去る場合

将来、アメリカを離れ、市民権や永住権を放棄しても、子どもがアメリカに残るケースでは特別な注意が必要です。例えば、アメリカに残る子どもが将来的に資産を相続する場合、親は税法上の非居住者となるため、適用される税制が異なる可能性があります。また、複数国間での税務リスクを把握しておくことが必要です。

遺産計画やトラストを立てないと、死後、資産は州の法律に基づいて分配されます。つまり、裁判所が資産分配を行い、余分な時間と費用がかかったり、希望通りの贈与や寄付が実現しなかったりする可能性があり、遺族が経済的に困窮することもあります。さらに、遺族間で争いが生じるかもしれません。遺産計画やトラストを立てればリスクを回避し、資産の分配をスムーズに行うことができます。

石上洋◎米国公認会計士
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を卒業後、大手監査法人、現地会計事務所パートナーを経て石上・石上越智会計事務所を設立。税務をメインに事業を展開。
アメリカでの会社設立・確定申告・タックスリターンは「石上、石上&越智公認会計士事務所」へ
米国公認会計士・石上洋さんのインタビュー

※本コラムは、税に関する一般的な知識を解説しています。個別のケースについては、専門家に相談することをおすすめします。ライトハウス編集部は、本コラムによるいかなる損害に対しても責任を負いません。

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