アメリカの長い夏休みが終わって現地校生活が始まると、多くの子どもが情緒不安定になります。夏休み前までは元気に学校に通っていたのに「学校に行きたくない」とぐずったり、幼い子どもですと、指しゃぶり、おねしょ、母親から離れられないなど、赤ちゃん返りの症状が表れます。夏休み明けの情緒不安定は子どものわがままでなく、子どもの生活を管理している保護者側に原因があります。長期間日本に滞在して生活リズムが崩れると、アメリカに戻ってきてからもペースが戻らず、グズグズや不機嫌が続くようになります。可能であれば、里帰りは夏休み前半に行い、後半はアメリカに戻ってきて生活リズムを整えるように配慮してください。
里帰りする時の注意
毎年夏休みに日本に里帰りすることを多くの子どもが心待ちにしています。アメリカで育っていても、故郷である日本には深い愛着を感じているのです。川や海で遊んだり、虫取りをしたり、お祭りに行ったり、花火をしたり、キャンプをしたり、日本の夏ならではの楽しい思い出は、子どものアイデンティティー形成に大きく影響します。多文化社会であるアメリカで生活する子どもにとって自己アイデンティティーを明確に持つことは極めて大切です。
ただ、日本滞在中に特にすることもなく遊んでばかり、祖父母に甘えてばかりでは問題です。夏休み前までの9カ月間、アメリカの学校で一所懸命がんばってきた子どもは、英語力も学力も大きく伸びる時期にあります。低空飛行をしていた飛行機が一気に上昇していく、大体そのタイミングで夏休みになるんですね。この伸び盛りの時期に日本で自由気ままな生活をしていると、せっかく加速してきた学習意欲がまた下がってしまいます。「夏休みくらい思いっきり遊ばせてあげてもいいではないか」という考えもあると思います。でもアメリカに戻ってきた時に苦労するのは親ではなく、アメリカの学校に通う子どもたちなのです。子どものことを本当に心配するのであれば、夏休み中といえども生活管理を厳しくするのは当然です。
日本の学校に通わせるケース
最近は里帰りを利用して日本の小学校に通わせる家庭が増えています。日本の学校を経験することは、アメリカに住む子どもにとって短期留学のようなもの。しっかりと準備した上で日本の学校に通わせることができれば、子どもを一回りも二回りも成長させることができる素晴らしい体験となるでしょう。
日本で学校に通っていれば、生活リズムが極端に乱れることがありませんので、子どもの情緒は安定し、学校生活を存分に楽しむことができます。アメリカとは異なる授業スタイルやクラスメートとの交流を通して、子どもは多様な価値観に触れることができます。子ども時代に多様性を多く経験するほど視野が広がり、人間形成を豊かにしてくれます。
子どもを日本の学校に通わせる場合、日本語の「読み書き」ができるように事前に準備してあげてください。日本の小学校に通わせれば、読み書きを教えてもらえるだろう、なんて思わないように。小学校は語学学校ではなく、日本語を使って教科学習をする場所です。
学校に通えば毎日、国語、算数、理科、社会の授業を日本語で受けなければなりません。その時、教科書が満足に読めない、授業についていけない、というのは子どもにとって楽しい経験ではありません。日本の子どもと同レベルとまで言いませんが、最低限の読み書きができるように準備してあげてください。
アメリカに戻った時にすること
アメリカに戻ってきてからは、子どもの生活リズムをアメリカの学校に合わせるように調整します。学校の時間割に合わせて早起きし、食事をとり、勉強し、アクティビティーに参加させるのです。生活リズムが崩れたまま学校生活が始まると、心身のリズムが合わずに授業に集中できなくなるので要注意です。
また、頭を日本語から英語モードに切り替えさせることが大切です。時間に余裕があれば、サマープログラムや学習関連の習い事に通わせて英語の学習ペースを取り戻してください。理想は学校が始まる前に授業内容を少しだけ先取り(予習)しておくこと。
新学年が始まった時に「授業が分かる」「勉強は簡単だ」と実感できると学習意欲が向上します。両親が新学年へ向けて準備を整えてあげることで、子どもは最高の状態で新しい一年間のスタートを迎えることができます。
(2015年6月1日号掲載)