バイリンガル子育てはノウハウが大切
バイリンガル教育カウンセラーの船津徹(ふなつとおる)です。これまで、日本とハワイで20年にわたって、約2千名以上のバイリンガルキッズ教育に関わってきた私の経験が、海外で子育て奮闘中のお父さん、お母さん方のお役に少しでも立てれば、とても幸いです。
さて、祖国を離れ海外で子育てをすることは簡単ではありません。言葉の壁に加え、身近に頼れる人もなく、手探りで子育てをしている親御さんが大半だと思います。しかし、困難な環境の中でも立派にバイリンガルキッズを育てている方もまた、大勢いることを知ってください。そのような親御さんと接していますと、気楽な環境での子育てでないだけに、子どもを心から大切な存在として、大きな愛情で育てていると強く感じます。何ごとも、やすやすとできることには大きな価値はありません。考えに考え、行動に行動を重ねてやっと成功させたことにこそ貴重な価値が生まれます。海外での子育てほど、親が子どもに対する真の愛情と知恵を要求され試されることはないのではないでしょうか。
バイリンガル子育ての担い手は母
海外で子育て中のお母さんに課せられる大仕事がバイリンガル子育てです。英語圏で暮らし、お母さんの母語が日本語の場合、子どもをバイリンガルに育てることは「選択」ではなく「必修」です。人間形成の土台となる母語(日本語)を育て、さらにアメリカの学校教育についていける英語力を身に付けさせなければなりません。
「アメリカに住めば自然とバイリンガルに育つのでは?」と簡単に考えるのは危険です。海外では日本語環境が貧弱になりますから、日本と同じ感覚で子育てをしていると、子どもの日本語は必ず弱く育ちます。母語の貧弱さは、第2言語である英語の発達に影響を与えるだけでなく、学業不振、精神不安定など、さまざまな問題を引き起こします。
また、英語力についても「親が英語が苦手だから」と学校任せにしてはいけません。学校で要求される「学習英語力」を身に付けるには、母語が育っている子でも5~7年、母語が弱い子では7~10年かかると言われています。このプロセスをいかに短縮できるかが、子どもの学校適応力を大きく左右します。親は学校との連携を密にして子どもの英語力をモニターし、必要な時には適切なサポートを与えることを心がけましょう。
「自信」は異文化適応を促す特効薬
言葉と同様、海外での子育てで配慮してもらいたいのが、子どもの心理面のケアです。毎日アメリカの学校に通う子どもは、言葉も文化も習慣も異なる社会の中で一日の大半を過ごさなければならず、心と体が想像以上に疲労します。また、英語力不足が原因で自信が喪失したり、周囲から誤解を招いたり、習慣や文化の違いから嫌な思いを経験することも少なくありません。大抵の子は、どんなに辛くても親に心配をかけないようにと、学校での出来事について多くを語りません。しかし、子どもなりにアメリカ社会に適応しようと精一杯努力しているのです。親はそんな健気な気持ちを理解し、最大限のサポートを与えることを伝え、子どもを安心させてあげてください。
子どもの学校適応を促す特効薬が「自信」です。英語ではクラスメイトにかなわなくても、スポーツ、音楽、芸術、何か1つ得意なことがあるだけで、子どもの自信は倍増します。その自信がエネルギーになって「不快」や「困難」といったマイナスの刺激に立ち向かえる心が育つのです。子どもが興味を持っていること、得意と思っていることに取り組む時間をできるだけ作り、「自信」を大きく育ててください。
バイリンガル子育ては難しくない
現代社会では、必要な情報が何でも簡単に手に入るように思えます。しかし、バイリンガル子育てという、比較的歴史が浅い分野については、知識や経験を共有できる場が少ないのが実情です。その結果、言葉を育てる時期が混乱してしまったり、優先順位を間違ったりするケースが多いのです。バイリンガル子育てはノウハウさえわかれば決して難しくはありません。大きな愛情で子どもを包み、適切な時期に、適切なサポートを与えていくだけなのです。後は子どもが生来持つ能力に任せておけば、2つの言葉と文化を身に付けた、たくましいグローバル人材に育っていきます。
(2013年8月1日号掲載)
バイリンガル子育ての秘訣 -2つのコップを言葉で満たす
バイリンガルに育った人の頭の中がどうなっているのか、不思議に思ったことはありませんか?どうしたら日本語と英語を自在に使い分けることができるのか?私たちは英語を頭の中で一度日本語に訳して理解しますね。バイリンガルも同じように言葉を翻訳しているのでしょうか?
実はバイリンガルの人は頭の中に日本語と英語、2つの思考回路を持っています。そして話す相手や状況に応じて思考のスイッチを無意識に切り替えているのです。彼らは見聞きした言葉を翻訳することなく、その言葉のまま理解することができます。日本語で話す時は日本語で思考し、英語で話す時は英語で思考できるのがバイリンガルです。
2つのコップを満たすこと
バイリンガルは頭の中に日本語と英語、2つのコップを持っています。そして、それぞれのコップが、それぞれの言葉で満たされると、その言葉が口から溢れてきます。話し言葉の発達はコップにインプットされる言葉の量によって決まるということを知ってください。
よくバイリンガル環境で育つ子どもは発語が遅いと言われますが、それはコップに溜まっている言葉が少ないからです。海外生活では両親が気付かないうちに言語環境が希薄になります。両親は日頃からコップを満たすことを意識して、言葉をかけ、絵本の読み聞かせをしてあげることが大切です。
両親が日本人の場合、日本語のコップが先に一杯になるのが普通です。毎日せっせと赤ちゃんに話しかけ、絵本を読んであげれば、2~3歳になる頃には日本語のコップが言葉で満たされ、口から日本語が溢れ出てきます。
発語が遅いと心配されている方は、言葉のインプット量を増やす努力をしてください。子どもと一緒にいる時は常に語りかけ、絵本を読み聞かせてあげましょう。コップが言葉で満たされれば、必ず口から日本語が溢れ出てきます。
日本語と英語は区別する
英語のコップを満たすには、英語をインプットすればいいのですが、いくつか注意点があります。まず知っておきたいのが、普段日本語を話す両親が、ある日突然英語で話しかけても「英語のコップに言葉は溜まらない」こと。子どもの頭は、話す相手に応じて自動的にコップを使い分けるのです。日本語話者の言葉は、日本語のコップに溜まります。
大切なのは言葉を混ぜないこと。「これはリンゴよ、英語でアップル」というふうに、日本語と英語を混ぜてはいけません。気持ちは分かりますが、日本語と英語をミックスしても、子どもの頭は「日本語」としか認識してくれません。「リンゴ」は日本語のコップ、「アップル」は英語のコップというように振り分けてはくれないのです。
英語のコップを満たすには、英語だけの情報をインプットすること、英語話者とコミュニケーションをとることが必要です。英語だけの情報や環境に触れると、子どもの思考は瞬時に英語に切り替わります。すると英語のコップに言葉が溜まっていくのです。
幸運なことにアメリカで生活していれば、子どもはいくらでも英語環境に触れることができます。このメリットを言語教育に活用しない手はありません。家庭では子ども向けのテレビ番組を見せたり、英語の歌を聞かせたりしてあげてください。そして、家庭の外では英語話者とコミュニケーションする機会を作ってあげましょう。
2つの言葉を与えても混乱しない
「日本語と英語を同時に与えると混乱しませんか?」という質問をよく受けます。言葉のコップを思い出しましょう。日本語と英語、2つのコップは独立していますから、同時に教えても混ざることはありません。言葉を明確に区別して、それぞれの言葉でインプットすれば、それぞれのコップに言葉が溜まります。
日本語と英語をミックスして話す子がいますが、それは混乱しているのでなく、1つのコップに日本語と英語が混ざっているのです。両親がミックス言葉で話しかけたり、言葉を翻訳して教えていると、2つの言葉が1つのコップに溜まってしまいます。日本語は日本語。英語は英語。明確に区別してインプットすることを心がけてください。
繰り返しますが、バイリンガル子育てを成功させる秘訣は、日本語と英語、それぞれのコップを言葉で満たすことです。日本語のインプットは両親の責任で。英語については、英語だけの環境に浸らせたり、英語ネイティブと関わる機会を増やせばよいのです。
(2015年11月1日号掲載)
バイリンガルに育てるなら、日本語の土台を早期に築かせよう!
子どもを将来、バイリンガルに育てたいと望むのならば、言葉の優先順位を間違ってはいけません。両親とも日本人の家庭では、何よりも子どもの日本語の土台を育てることを優先させなければなりません。というのも、複数の言語環境で育つ子どもは、言葉の軸である「母語」が弱く、不安定になりがちで、その結果、情緒不安や学習不振に陥るケースが多いからです。
海外で育つ子どもが、母親から日本語を継承することは、自己のアイデンティティーに誇りを持ち、精神を安定させ、母子関係を形成する上で欠かせないプロセスです。「アメリカで教育を受けるのだから英語を優先すべき」とか、学校の先生から「家庭では英語しか話さないように」と言われたとか、海外ではさまざまな情報によって両親の心が動かされることが多いと思います。
しかし、バイリンガル子育ての成功の秘訣は「乳幼児期に母語の土台を築くこと」に尽きるのです。周りから何を言われようが、お母さんは自信を持って日本語を継承してください。日本語教育を放棄することは、将来、子どものアイデンティティー形成はもちろん、家族関係にも深刻な影響を及ぼします。
0~2歳:話し言葉を育てる時期
子どもの言葉を育てる入り口はお母さんの優しい語りかけです。お母さんが「可愛い◯◯ちゃん、おはよう」と話しかけると、赤ちゃんはお母さんの顔をじっと見て「アウゥ、アウゥ」と答えます。赤ちゃんはお母さんの言葉か別の人の言葉かが、生まれた直後からわかるのです。考えてみれば、これは当然のことです。赤ちゃんはお腹の中にいる時からずっとお母さんの声を聞いてきたのです。さらに言えば、お母さんの声は胎内振動となってお腹の赤ちゃん全体を刺激し続けてきたのです。子どもにとって、お母さんの言葉ほど影響力が大きい刺激はありません。
でも、この特権に気付いていないお母さんが多いのです。子育て中のお母さんはたくさんの愛情溢れる言葉を子どもにかけてあげてください。海外では親が意識して言葉をかけなければ、子どもの言語環境は貧弱になります。親が気付かないうちに、言葉の発達が遅れることが多いので注意してください。
家庭では語りかけや歌いかけに加えて、絵本の読み聞かせを行いましょう。絵本は子どもの言葉を育て、感性を育て、想像力を育てる最適の教材です。まだ小さいと思わずに、乳児にも絵本を読んであげましょう。最初は言葉の音を楽しめるような絵本をたくさん読んください。
3~4歳:文字を集中指導する時期
話し言葉が育ってきた子どもには、文字チャートや文字カードなどを使ってひらがな・カタカナを教えてあげましょう。「3~4歳に文字は早いのでは?」と思う方が多いのですが、バイリンガル子育てでは早期文字教育は必須です。なぜなら、アメリカでは子どもが5歳になる年からキンダーガーテンがスタートするからです。キンダーガーテンに通い始めると、子どもは一日の大半を英語で過ごすことになります。そうすると、日本語の学習効率は必ず下がります。
また、一般的に小学生低学年頃から、日本語学習へのモチベーションは下がっていきます。子どもからすると、毎日学校で苦労している「英語」の勉強が優先であり、日本語は二の次になるのです。アメリカに永住する家庭の子どもにこの傾向は強く、親がうるさく言ってもなかなか日本語学習が進まないという悩みが増えてきます。
バイリンガル子育てでは弱い方の言葉(海外在住であれば日本語)の文字教育をいかに成功させるかが、学習を継続させ、学力を獲得していくカギです。海外在住なら、学習意欲と学習効率が高い幼児期に、集中して日本語の読み書きを教えることが重要です。
5~6歳:読書力を育てる時期
五十音を覚えると、子どもは簡単な本が読めるようになります。そうなったら短い本を与えて子どもの力で読む練習(音読)をさせましょう。この時に大切なのが、お母さんが同じ本を読み聞かせてあげることです。活字に慣れていない子どもにとって、文字を読む作業は大変な集中力を要します。同じ本でも自分で読むのと、お母さんに読んでもらうのでは、ストーリーの理解度が違います。そして、一人で読めるようになったからと、読書を子ども任せにせず、読み聞かせを継続してあげてください。
(2013年10月1日号掲載)