海外転勤などで小学生の子どもを連れて海外に移り住むケースがあります。両親は「このチャンスを活かしてバイリンガルに育てよう!」と意気込む反面、「本当に英語ができるようになるのか」「授業に付いていけるのか」「日本語が遅れるのではないか」「友達はできるか」など不安でいっぱいになります。
家族で海外に住むことになった時、一番苦労するのが現地の学校に通う子どもです。それまで日本語を何不自由なく操っていたのに、ある日突然、言葉が全く通じない世界に放り込まれるのです。英語が分からず、授業が分からず、友達ができず、言いたいことが言えず、毎日本当につらい思いをします。日本で活発だった子どもが現地校に入ったとたん、無口になったり、ふさぎ込んだり、自信喪失状態に陥ることもあります。
生活英語力と学習英語力
英語力には日常生活で必要な「生活英語力」と学校の授業で必要な「学習英語力」があります。両親はこの2つの英語力をはっきりと区別してサポートをすることが大切です。
学校に通う子どもにとって、より重要度が高いのが「学習英語力」です。「学習英語力」は「読み書きの力」であり、授業に付いていくために不可欠な力です。子どもがアメリカの授業に早く追い付くために、そして「アメリカでもやっていけそうだ!」と自信を回復するためにも、早急に英語の読み書きをサポートしてください。
「生活英語力」はテレビを見たり、学校で友達や周囲の人とのコミュニケーションを重ねたりすることで少しずつ身に付いていきます。社交的な性格の子、スポーツ・音楽・演劇などの特技がある子ほど「生活英語力」の習得は短期間で実現できます。それでも友達との会話で不自由を感じなくなるには2年は必要です。
一方「学習英語力」はサポート次第でどんどん伸ばしていくことができます。小学校低学年でアメリカに移り住んだ子どもであれば、1年も努力すれば学年レベルの授業内容を理解できるようになります。もちろんネイティブと同じ語彙力、読解力、文法力、作文力というわけにはいきませんが、学習活動に支障のないレベルの学習英語力の習得は短期間で実現できるのです。
読み書きが自信回復の特効薬
子どもは現地校で毎日5~6時間「英語で」授業を受けます。アメリカへ来たばかりの子どもは、学校で「英語」と「勉強」の2つが「できない」経験を繰り返します。その結果、子どもにとって大切な「自信」が減退していくのです。日本で優秀だった子ほどアメリカの学校に通い始めた時大きなギャップを経験し、自尊心やプライドが大きく傷つきます。
子どもが現地校で経験する自信喪失を軽減する特効薬が「読み書き」です。日本で学力の土台が育っている子どもに英語の読み書きを教えると、たちまち現地校の授業が分かるようになります。小学校低学年程度の学習内容であれば、英語を読む力が育てば、子どもは難なく付いていけるようになります。
英語が分かり、授業が分かるようになると「自信」が回復します。すると気持ちが前向きになりアメリカの学校生活が楽しく豊かなものに変わっていきます。英語力不足による自信喪失から子どもを救うのは「読み書き」です。学校にはELLなどの英語力サポートがありますが、それだけでは不十分です。専門の塾やチューターなどの支援を得てください。
子どもの学校適応について
子どもの学校適応は一般に学年が低いほどスムーズです。しかし、年齢にかかわらず、どの子も親が思っている以上に大きなストレスを経験することを知ってください。どんなにつらくても親に心配をかけないように、親の期待に応えようと子どもなりに努力しているのです。そんな健気な気持ちを理解し、努力を認め、安心させてあげるのが両親の大切な仕事です。
また学校以外で地域の人たちと交流する機会を、配慮して作ってあげてください。両親が日本人としか付き合わないでいると、子どもの交流範囲も限定されてしまいます。その結果、英語力の伸びが悪くなったり、偏った価値観を与えることにつながります。
アメリカ滞在を子どもの将来に活かすためにも、地域の活動に親子で参加しましょう。スポーツ、音楽、ダンス、演劇、アメリカには学齢期の子どもが参加できるコミュニティーがたくさんあります。勇気を出して地域社会に飛び込みましょう。今までとは違ったアメリカが見えてきます。
(2016年2月1日号掲載)