(2023年4月号掲載)
昔ほど憧れがなくなったアメリカ駐在
アメリカに暮らす日本人・日系人のコミュニティーの中で、日本の企業から派遣される駐在員家庭というのは大きな位置付けを占めている。日本では今でも春が人事の季節。コロナ禍から脱しつつある今年は、アメリカとして多くの新しい駐在員家庭を迎えることになるだろう。だが、言語も文化も全く違う環境への移動というのは、各家庭としては大きなストレスを伴う問題でもある。これをどう支えていったら良いのか。3点考えてみたい。
1つ目は、適応という問題だ。近年、多くの日本企業にとって北米市場の重要性はどんどん大きくなっている。従って、今でも多くの企業がアメリカに現地法人を設置して、そこに駐在員を派遣している。だが、20世紀の頃とは違って、望まないのにアメリカ駐在を命じられたり、その結果としてアメリカでの生活を楽しめないケースが出てきているようだ。
原因としては、社会情勢や価値観の変化で昔ほどアメリカに憧れがなくなったという時代の変化があるようだ。具体的には、日本の社会におけるアメリカの文化や社会に関する情報流通が偏ってきている。教育制度の違い、治安、食文化の違いなど、もう少しアメリカの事情が幅広く伝わっていたら良いのだが、情報不足の一方で、不安をあおるだけの情報が流通している。企業の人事部だけが、昔の感覚でアメリカ駐在は「栄転だし、子どもも英語いては大きな誤解だ。企業としてアメリカに人を送る以上は、その家族の「適応」ということについて、もっときめ細かいケアを考えていただきたい。キーワードはやはり最新の正確な情報提供ということに尽きる。本誌の目的の一つはそこにあるし、その他にも私ども日本人・日系人コミュニティーで可能なことは取り組んでいきたい。
進学、日本語教育
子どもの環境を良いものへ
2点目は人事異動のタイミングだ。20世紀までの日本企業では、「中高生を持つ家庭がアメリカ駐在に出る」ことは少なかった。ところが最近は中高の段階で「会社の援助で子どもが英語圏に留学」できるということから、帯同するケースが増加している。日本側でも、帰国生入試の充実が年々進んでおり、海外を経験した中高生への期待は高い。問題は帰任の時期である。赴任期間が決まらないと、お子さんの進学の計画は振り回されてしまう。
最悪のケースは、高校生の途中で日本に帰国する場合である。日本の高校は義務教育ではないので、編入試験を受けることになり、本人には大きなストレスになる。また、アメリカの高校を卒業せずに帰国すると、帰国生扱いにならず一般の大学入試に回される。これは過酷である。各企業共に、厳しい経営環境にあるのは理解できるが、中高生を帯同させるケースでは、赴任期間により計画を考慮するのがこれからの人事のあり方ではないか。
3点目は、在外日本語教育への支援である。英語圏での駐在が長期化する場合、お子さんの日本語を維持強化するためには、日本人学校や補習校への通学が重要だ。私も長年この在外日本語教育に関わってきているが、問題は、こうした教育機関での人材確保である。特に週末に開講する補習校の場合は、全米で教員不足に悩まされている。
そこで検討していただきたいのが、駐在員やその配偶者に教員として活躍していただく工夫だ。技術者の方に算数・数学を、また高度なビジネス人材の方に国語や社会の授業を担当していただくことができれば、こんなに心強いことはない。これまでは、ビザやペイロールの問題で官民共に実現が難しいとされてきたが、例えば無償ボランティアとか、忙しい方の場合は複数の要員で交代制で担当していただくとか、工夫はできないものだろうか。日本でもようやく幅広く兼業が認められるようになってきているし、ぜひ実現できればと思う。補習校の教育レベルが向上すれば、駐在員の各ご家庭の不安も解消し企業にも大いにメリットがあると考える。
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