困難な状況で日本からの移住者を迎える春

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

(2021年4月1日号掲載)

改めて考える日米のコロナ対応の差

冷泉コラム_体育館

バイデン政権は早急な対面授業の再開を狙うが、完全なる再開にはまだ時間がかかる見込み。

コロナ禍という異常事態が続く中ではあるが、日本型の組織では春は人の動く季節。今年も多くの新しい駐在員などが日本からこのアメリカにやって来る時期となった。例年に比較すると数は少ないかもしれないが、ひたすら混乱状態であった昨年の春とは違い、今年はさらに危機が深まる中での異動となる。物理的なものだけでなく、心理的な負荷はより大きいであろう。
 
そんな中、そうした「来たばかり」の人々をどう迎えるかは、在留邦人・日系人社会として重要な課題である。今回は3点を考えてみたい。
 
1点目はCOVID-19への対応である。問題については日米では大きな違いがある。まず、アメリカにおける流行の深刻度について、正確に理解してもらう必要がある。感染者も死亡数も人口比でアメリカは日本の20倍という数字だけを見れば、日本から来たばかりの人にとっては恐怖以外の何物でもないであろう。だが、アメリカ全土が20倍危険であるわけではない。残念ながら日本と違って、衛生概念について全く理解していないグループがあり、感染の危険はそこに集中している。反対にアメリカ社会における感染対策というのは、その危険なグループに接近しないことが原則となる。そうしたノウハウはしっかり伝えたい。
 
心配なのはワクチンの問題だ。バイデン大統領は5月までに成人全員への接種を完了し、7月4日の独立記念日には各家庭が友人や親族を呼んでの小規模なパーティーは可能にすると宣言している。ワクチンの配送や接種体制も巨額の追加予算により改善されつつある。ところが、日本では報道機関によるワクチンへの懸念報道が止まらず正確な理解が浸透していない。そんな中で、来たばかりの人々にも、ワクチン接種の登録を勧めるとともに、安全性への理解を広める工夫が必要となる。これは在外公館や日系各団体、各地域、職場、学校などが一体となった丁寧な取り組みが必要となろう。

私たちが移住者にできること

2点目は生活情報の提供だ。2010年頃までと比較すると、日本におけるアメリカに対する親近感は薄くなっている。リーマンショックや東日本大震災、12年末からのアベノミクス円安などから内向き志向が高まり、アメリカはテロや銃の危険があり「食事のおいしくない」国だというマイナスイメージが広まったことも大きい。そうしたネガティブな先入観に影響されながら、情報不足のままでアメリカでの暮らしをスタートするのは楽ではない。
 
食文化だけでなく、働き方、コミュニケーション様式、時間の正確さなど、アメリカと日本の間には以前から価値観や感覚の違いがあった。これが近年は拡大する傾向にある中で、コロナ禍に対する行動様式の違いが上乗せされている。そんな中で「来たばかりの人々」に対しては多角的な情報提供が必要だ。在留邦人・日系人コミュニティーには以前にも増してキメの細かい対応が必要となってくるであろう。
 
3点目は子どもたちへのケアである。現地校が完全にフル稼働となっていない中で、課外活動などを通じて現地校に溶け込むには困難が伴う。一方で、全米の日本語補習校をはじめとする日系教育機関では、多くの場合はリモート授業で成果を挙げている。補習校とそのコミュニティーとしては、日本語教育に加えて子どもたちがアメリカ社会になじむように情報提供を行い、長期滞在者や現地の子どもたちとの自然な交流のできる環境を整えたい。
 
子どもということでは、近年目立っているのが「算数、数学で易し過ぎるクラスに入れられる」という問題だ。プレースメント・テストには電卓と辞書を断って持ち込み、日本での既習事項をアピールして適切な進度のクラスに入るのが望ましい。また、英語力不足を理由に学年の降級を勧められる場合があるが、帰国後の進学資格要件で不利になる場合があり、慎重な対応が求められる。パンデミック下であるからこそ、こうした基本的な理解についても、周囲から声かけをしていきたい。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2021年4月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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