(2022年11月1日号掲載)
円安、GDPマイナス成長をどう捉え、支えるか
1ドルが150円のラインを突破した。この円安ショックを受けて、自信喪失が起きるとともに、ようやく日本では「経済はこのままではダメだ」という危機感が出てきている。日本経済が30年間ほとんど成長しておらず、日本の賃金がほとんど上がっていないことも、ようやく社会全体で理解されるようになった。
こうした状況に対して、在外の私たちは国内の日本人とは立場が違う。そんな私たちの立場について、三つの点から考えてみたい。一つは日本へ一時帰国すると発生する円安「メリット」をどう考えるかという問題だ。給与が日本円ベースで出ており、円安のデメリットが直撃している一部の駐在員の方々には申し訳ないが、在米の日本人・日系人の多くは収入も資産もドルベースである。ということは、今、日本に旅行した場合には円安のために購買力面では有利になる。1万円のディナーが66ドル、一泊3万円の温泉宿が200ドルという数字はやはり驚きであり、「不労所得」という印象もないわけでないが、キッチリ消費することで日本経済に貢献するのは良いことだと思う。大学進学率50%以上の高学歴化社会で観光立国というのは、政策としては疑問があるが、観光の現場で頑張っている方々を支援するのは有意義で
2点目は、空洞化の問題である。1970年代までは、アメリカにある日系企業の多くは日本で製造された製品(自動車や電子機器など)をアメリカ市場に売り込んでいた。つまりアメリカで頑張れば、その分だけ日本のGDPに貢献できた。だが、現在は現地生産が主流であるし、研究開発やデザインなどの本社的機能もアメリカに来ている場合がある。そうした場合には、アメリカでの業績は会社の連結決算には加算されても、日本のGDPには直接寄与しない。
このことはあまり意識されておらず、日本経済イコール日本企業の全世界連結決算の合計だと思っている人が、日本でも多い。だが、こうした空洞化が過度に進んでいることは、明らかに日本が「貧しく」なった原因だということは意識すべきだ。もちろん、現時点でアメリカに駐在したり、現地雇用で活躍している方には全く罪はないし、戦略決定権のある経営幹部はともかく、個々の皆さんは胸を張っていて構わないと思う。けれども、今後、サプライチェーンを組み替えて日本国内の製造業を強化する動きが出てきたら、それぞれの立場から可能な範囲で協力していただけたらと思う。
「アメリカでは」を今こそ伝えるとき
3点目は「出羽守(でわのかみ)」問題である。これまでは、日本の経済や企業に残る問題点について「アメリカでは」こうなっているとして、改革の必要を指摘すると日本では反発を買うことが多かった。その際には、「アメリカ『では』」という表現をとらえた一種の流行語である「出羽守」という言い方で叩かれたのである。近年では、そうした「炎上」を気にして、言うべきことを言わなくなったという人も多いようだ。
だが、日本経済がここまで低迷し、日本人が自信喪失している今となっては、改めて堂々と「出羽守」を主張していいし、それが日本への貢献になると考える。企業や官庁での働き方から、教育のあり方、政治やメディアのあり方など、アメリカの価値観から見れば、日本にはおかしいことが溢れている。最近の事例では、DX(ビジネス現場のデジタル化)、会議の効率化、判断のスピードアップ、ジェンダー差別克服をはじめ、多様な人材を活用する組織風土など、提言できることは無限にありそうだ。特に、日本がようやく新卒一括採用や総合職制度、年功序列などを止めつつある中では、能力主義や職種別のジョブ型人事を成功させる秘訣は、どんどん「アメリカでは」こうだと伝えていきたい。企業内の制度という意味でも、個々人の生き方という意味でも、アメリカを参考にすることはいくらでもある。今こそ「出羽守」の出番であろう。
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