(2024年11月号掲載)
日本食の普及のため生まれた認定制度
食文化に国境はない一方で、国や文化圏が変われば嗜好が異なり、自然に味は変化する。一番の例は中華料理で、その味は国ごとに異なる。理由としては中国人は商才があるので、その国の嗜好に合わせて商売をするのが上手であった結果だという。
実は、各国料理を輸入して自分たちの味に変化させて楽しむというのは、日本人の得意分野だ。ケチャップ炒めのスパゲティをナポリ風として愛好したり、ツナ缶を使ったマヨネーズ味のピザを作ったり自由自在だ。中華料理に関しては中国人から「やたらに甘い韓国の中華も困るが、日本の凝った調理法の中華も同じぐらいオリジナルとは違う。あれはもはや中華とは言えない」と言われたことがある。だが、その人は「料理としては大変においしい」と付け加えていたのも事実だ。
一方で日本人は、日本料理が各国の嗜好に合わせて変化してゆくのには、昔から強い抵抗を示してきた。有名なのは、2006年頃より農林水産省が提唱した「海外日本食レストラン認証制度」である。当時の農林水産大臣がコロラド州のある日本食レストランで、韓国焼肉と寿司が一緒に掲載されているメニューを見て「こんな店を日本食レストランと呼ぶのは許せない」と憤慨したのが契機らしい。東海岸の観点から言えば、韓国人経営の寿司店は比較的良心的な内容であることが多いが、それはともかく、この頃から「オリジナルと違う」日本食のことを「なんちゃって日本食」と呼んで問題視する風潮が日本国内で生まれた。
この制度には、『The Washington Post』や『Los Angeles Times』などが「スシポリス」だとして猛烈に抗議した結果、ウヤムヤになった。その後も農林水産省はさまざまな努力をしており、16年には「海外における日本料理の調理技能の認定に関するガイドライン」を導入。さらに23年にはこれを改訂して「海外の外国人日本食料理人」向けの「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の認定制度を設けている。
日本食の真の浸透に必要なことは何か
では、現状はどうなっているのかというと、一言で言えば日本食ブームは留まるところを知らない。どんどん拡大しており、また特にアメリカの場合は高級化が進んでいる。けれども、同時に「現地化」も進行しており「なんちゃって日本食」の拡大も広がっている。日本人・日系人のコミュニティーが存在感を維持している西海岸とは異なり、例えばニューヨークでは駐在員が激減する中で、高級寿司店のほとんどは経営も内容も現地化が著しく、「なんちゃって」的な食文化が定着しつつあるのも事実だ。
こうした傾向に対して、3点ほど提案してみたい。一つは、結局はホンモノが勝つという流れを信じることだ。「なんちゃって」に慣れたアメリカ人が日本に旅行して「味が違う」ので困ったという話はあまり聞かない。ホンモノの良さは、やはり理解されるのだ。であるならば、過度に現地化した日本食に対して、常にホンモノを提案し続けることには意味がありそうだ。近年では魚の出汁の魅力も理解されるようになっており、個々人の理解力は高まっていると考えられる。
二つ目は、日本国内にも少しずつ「なんちゃって日本食」への理解を広めることだ。意外に思われるのだが、今でも日本では「カリフォルニア巻き」などの「変わり種寿司ロール」は食べたことのない人が多い。少なくとも、「カリフォルニア巻き」ぐらいは、「ツナマヨのピザ」のように受け入れてもらえないかと思う。具体的なレシピへの理解が進めば「なんちゃって」への抵抗感も薄れるのではないか。
三つ目は、日本食というのは無限の創意工夫が可能な料理だということだ。日本発の創意工夫も、アメリカ発の創意工夫もお互いに紹介して、新たなフュージョン料理として世界に広めたら良い。アメリカの日本食ブームが、せっかくこれだけの盛り上がりを見せているのだから、その成果が世界に広まれば良いと思う。
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