(2021年12月1日号掲載)
投票までのハードルが高過ぎる選挙
2021年10月31日に投開票された衆議院選挙では、在外邦人の投票率が20%という低い値となった。解散から投票日までが短かったためという報道が多いが、前回17年でも21%であり、大きく変わったわけではない。ちなみに、前回の総選挙も当時の安倍総理による突然の解散という面があり、在外投票は混乱した。そうした事例があるのに、今回は何の対策も取られなかったばかりか、17年よりもさらに厳しい日程となったのである。
今回の在外投票だが、問題は低投票率だけではなかった。というのは、郵送投票の場合にEMSなどの高額な送付方法を取らないと間に合わないとか、多くの在外公館では記入済みの投票用紙を係官が航空機に乗って日本に持参するしなかったなど、実務上は大きな混乱が発生していたからだ。
北米でもそうだが、在外公館まで出向くのに航空機を使う場合、投票日の確定が間際であったこともあり、極めて高額な運賃を請求された例もある。また、公的交通機関における感染防止マナーなどを考えると、乗車は時期尚早だとして投票を断念した人も多い。
例えばだが、台湾の場合は、総統選のたびに全米のアジア系のスーパーではポスターが張り巡らされて選挙戦が行われる。アメリカの場合も在外不在者投票といって、申し込みはネットで、投票は郵送が原則だが、州によってはメールやFAXの投票も可能だ。こうした例と比較すると、日本の制度は不十分だ。具体的には、ネット投票を可能にするとか、投票用紙だけはダウンロードできることとすれば、郵送投票の所要日数が現在の一往復半から片道で済むだろう。だが、問題はそのような改革を後押しする仕組みだ。
在外邦人の声を国政に届ける方法とは
単純に考えると、日本の有権者が1億500万人に対して、在外有権者は100万人程度だと言われており、在外票の割合は1%に満たない。これでは、影響力としてはほとんどゼロであり、
従って各政治家に、そのような票に対して優遇する努力をしろと言っても難しい。
例えばだが、海外に移住する人や赴任する人は、一旦ある特定の小選挙区に住民票を移してから転出するようにすると、その選挙区の政治家を在外邦人の代表にできるかもしれない。だが、そんな作為は考え方として選挙違反であるし、そもそも移住者の協力が得られるか疑問だ。
その一方で、在外邦人の代表を国会に送ることを堂々と実現することは可能である。参議院の比例区を使うのである。比例区というのは全国における政党の人気投票のようなもので、在外からも投票できる。ここの当選ラインは全く単独の政党で戦うと100万票必要になるが、政党内の名簿に載せてもらえれば自民党で10数万票、野党だと数万票で当選できる。例えば、最初に頑張って世界中で在外邦人30万人が参院選の在外選挙に投票することとして、その票が自民の2人に10万、10万、野党の2人に5万、5万と割り振りができれば、在外邦人の代表を4名参議院に送れる。
この4名が国会内で活動することで選挙制度改正が進み、仮に在外投票率が50%になれば、次の参院選では、自民3名、野党4名が送れて、参院での勢力は11名になる。これは一大勢力である。つまり、議員に一種のロビイストになっていただくのである。
現実はそう簡単にいかないであろう。だが、在外投票制度の問題だけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、自国民の入国拒否や居住地への強制送還が行われ、待機期間緩和の条件として受け入れ企業の責任者による複雑な事前審査が実施されるなど、在外邦人の声は明らかに国政に届いていないのが現実だ。帰国子女教育の問題や、年金、税制、二重国籍など在外邦人の声を届けなくてはならない問題はたくさんある。この在外代表を参議院にという作戦について、日本の政党が協力してくれるか、まずは声を上げてみるというのはどうだろうか。
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