日本のフィンテック事情

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冷泉彰彦のアメリカの視点xニッポンの視点:米政治ジャーナリストの冷泉彰彦が、日米の政治や社会状況を独自の視点から鋭く分析! 日米の課題や私たち在米邦人の果たす役割について、わかりやすく解説する連載コラム

アメリカ、中国、日本各国の支払いの現状

支配

フィンテック、つまり金融の世界にコンピュータのテクノロジーを導入するのは、世界的なトレンドだ。ネットバンキングに加えて、スマホなどによる電子決済や、さらには仮想通貨(Cryptocurrencyを日本語では暗号通貨と言わない)など、さまざまな新サービスや技術革新が話題になっている。

こうしたフィンテックについては、アメリカでは着実に進んでいる一方で、何と言っても先進国は中国だ。中国ではまず「銀聯(ぎんれん)カード」というデビットカードが普及したが、近年では「アリペイ」や「ウィーチャット」などQRコードを使ったプリペイド支払いが大流行しており、友人知人間のワリカンの決済にまで使われ、小銭に至るまで現金の使用を駆逐しつつある。

だが、日本では、そもそもクレジットカード支払いの普及が広まらないなど、キャッシュレス社会への移行がなかなか進んでいなかった。これには日本の社会が保守的だというだけでなく、具体的な理由があった。

一つには、日本の社会が極めて安全ということだ。アメリカでは、財布の中に何百ドルも入れている人はまずいないし、とにかくそんなに入れていたら怖いという感覚がある。だが、安全な日本では財布の中に何十万円もの現金を入れている人は多い。紙幣の製造技術も高いので、偽札が出回るリスクも少ない。

もう一つはクレジットカードなどキャッシュレスのサービスに対する手数料が高いという問題だ。クレジットカードの場合は、3~6%という手数料を加盟店が払わなくてはならないが、デフレ経済が続く中で小売店もレストランも利益を切り詰めたビジネスをしているケースが多く、その結果として支払いは現金のみとなる。

安全なキャッシュ社会を支えるものとして、自動販売機の技術も見逃せない。自動販売機といえば、飲料が有名だが、電車のチケットの販売機も高度化している。特に新幹線の指定席特急券の販売機などは、座席指定もできる優れものだが、そこに一万円札を何枚も入れる光景は、現金支払いに慣れないアメリカ人などには驚かれることがある。

日本で起き始めている新しい流れ

そんな日本社会だが、フィンテックの波が押し寄せてきており、大きな変化が始まっているようだ。

まず、訪日外国人年間3千万人ペースと言われる中で、特に中国人向けの「銀聯カード」や「アリペイ」への対応が急速に進みつつある。また、「アップル・ペイ」や「グーグル・ペイ」などのスマホ決済についても、アメリカなどに遅れてようやく本格化した。

一方で、日本ならではのガラパゴス的進化を遂げていたものとしては、ソニーの「フェリカ」という技術を使った交通系の非接触式カードや、そのスマホ版がある。こちらは日本の通勤ラッシュ時の自動改札に対応した反応速度が、国際的に見れば過剰スペックと言われていたのが、iPhone8/Xでは世界共通仕様として採用される中、海外での普及が期待されるようになった。これを受けて、アメリカ版のiPhone8/Xで、日本の「モバイルSuica」などのサービスが受けられるようになっている。

電子決済やネットバンキングも、ここへ来てようやく普及する中で、日本の各メガバンクは従来型の店舗をどんどん閉鎖するとともに、新卒採用を半分にするなど大きなリストラを開始するに至った。日本のビジネス界では、紙を使った「銀行振込決済」が主流で、膨大な手間がかかっていたが、これもネット化、ペーパーレス化が進んでいるからだ。

もう一つ、従来、日本の経済界にとっては苦手分野であったファイナンスの領域でも、仮想通貨の取引では試行錯誤も含めてアジアの中では積極的な動きを見せている。全く不安定な産業であるが、原則禁止をしてしまった中国、規制の厳しいアメリカを横目に、この全く新しい産業を育てていく動きが見えるのは、日本経済にとって希望かもしれない。

冷泉彰彦

冷泉彰彦
れいぜい・あきひこ◎東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店、ベルリッツ・インターナショナル社、ラトガース大学講師を歴任後、プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMMに「FROM911、USAレポート」、『Newsweek日本版』公式HPにブログを寄稿中

(2018年5月1日号掲載)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年5月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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