メキシカン、イタリアン、中華がどのように普及してきたか
アメリカでは、依然として日本食ブームが続いている。というよりも、むしろブームが加速して新しい段階に入ったと言ってよい。過去40年の歴史を振り返ると、まず鉄板焼きブームがあり、寿司ブームがあり、現在ではラーメンブームが拡大している。これに加えて、従来は「各国料理の中でも高級なジャンル」だと思われていた日本食が、幅広い「日常の食事」の一つになってきた。現在はそうした段階にある。
例えば、全米のスーパーマーケットでは「寿司のテイクアウト」があるのが普通になっているし、最近では「ベントウ」という言葉も英語になっていて、シャケ弁やトンカツ弁当を売っている。いわゆる日本食マニアではなく、本当にアメリカ人の日々の食生活の中に日本食が入りつつあるのだ。各国料理の普及度合いをランキングにするのなら、1位がメキシカン、2位がイタリアン、3位が中華で、この3つからはやや離れるが4位のポジションにつけているのは間違いない。インド料理やフランス料理と比べると圧倒的な普及度になってきた。
だが、マニア向けの「高級各国料理」から「庶民の味」になるということは、同時にローカライゼーション、つまり現地の嗜好に合わせることも必要になってくる。あるレベルを超えて、アメリカの食文化に食い込んでいくには、アメリカ人の舌に合わせることが必要だからだ。1位から3位の各国料理はそのようにして普及してきた。Taco Bellにしても、アメリカ流のピザにしても、そして箱に入ったテイクアウトの中華にしても、完全にアメリカナイズされた料理で、オリジナルとは別物だ。
さらなる日本食の拡大に何が必要なのか
日本料理もそうした一工夫が必要な時期に入ってきており、そうでなくては、これ以上幅広い普及は難しいだろう。また、そのようなローカライゼーションができていることで、大きく成功している店もある。そもそも、これまでの日本食の普及にも、カリフォルニア巻きのように見慣れない真っ黒な海苔は中に巻き込んでショックを和らげたり、握り寿司ではサビ抜きを基本としたりする工夫を重ねてここまで来ている。
ここから先のさらなる拡大には、より一歩踏み込んだ現地化は必要だ。だが、そこに大きな障害が立ちはだかっている。それは「日本の味」にこだわり、少しでもローカライズされた日本食を「なんちゃって日本食」だとして批判するという傾向だ。そのように申し上げる私にしても、生まれは日本であり、嗜好としてはオリジナルの日本食を選ぶ方だ。そして、アメリカに住む日本人・日系人や、日本食のマニア、あるいは日本から来た旅行者などが、「できればオリジナルの日本食を食べたい」として、料理の選別をするのは当然だと思っている。
だが、問題はこの「なんちゃって日本食」への嫌悪というのが、やや過剰だということだ。随分昔になるが、もう亡くなられたある政治家は「なんちゃって日本食」を嫌って、海外の日本料理店に対する「認証制度」を提案したことがある。その動きは、アメリカ人から「スシポリス」だとして猛反対を受けてすぐに潰れたが、その政治家は「韓国料理店で出てくる寿司が許せない」と言っていた。私に言わせれば、韓国系の人々の作る寿司は、どちらかと言えば日本のものに近い方だと思うのだが、少しでも違うと許せないという人は結構いるようなのだ。
その結果として、残念ながらアメリカの大量消費マーケット向けの日本食ビジネスは、徐々に外国勢力、例えば英国資本とか、オランダ資本などの大規模投資に席巻されつつある。こうなると、せっかくビジネスチャンスがあるのに、大きな機会損失だとしか言いようがない。もちろんオリジナルの味を伝えることも重要だが、この「なんちゃって日本食」の登場には大きな理由とビジネスチャンスがあることは、もう少し理解されても良いのではないだろうか。
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(2018年4月1日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年4月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。